Thursday, December 31, 2015

** 2015年のまとめ **

2015年にウォールストリートジャーナルに掲載された日本関係の記事は、110件だった。2014年の180件に比べて約39%減。日本に関する関心が一気に薄れた感じだ。

テーマ別では、政治関係が39回(2014年は75回、約48%減)、経済関係が40回(2014年は62回、約35%減)、社会関係が31回(2014年は43回、約28%減)となっており、政治関係のニュースが激減した。

その政治関係では、安倍首相の政策が多く取り上げられ、なかでも安保法制や軍備増強を含む安全保障政策が好意的に報じられた。経済関係では、次第にアベノミクスへの失望感が強まり、年の後半では規制緩和等強い政策を求める論調が主流となった。軍事面では強いリーダーシップを発揮して大きな成果をあげたが、経済面では物足りない安倍首相が浮かび上がる。

日韓関係についても、継続的かつ詳細に報じた。WSJは、関係悪化の原因を朴首相の頑なな態度と慰安婦問題に対する日本の立場にあるとして、日韓双方に改善を求めていた。年末に慰安婦問題についての電撃的合意が実現した際には、社説を掲載し、歓迎の意を表したが、背景に詳しくない米国の読者が読むと、日本が慰安婦問題への軍の関与を認め、謝罪したかの様な印象を抱かせる記事になってしまったのは残念。

社会関係では、高齢化や女性の社会進出に加えて、原発関係への関心が高い。3.11の前後には特集記事を組み、4月の高浜原発稼働再開禁止仮処分、10月の福島第一原発作業員への労災認定など、大きな事件があるたびに、継続的に取り上げた。

最も掲載回数が多かったのは、8月の18回だが、この月は原発が再稼働された月だ。また、戦後70年ということで、70年談話、靖国関係の記事に加え、これまであまり取り上げられることのなかった原爆関係の記事が4件も取り上げられたのが印象的だった。

掲載箇所別では、1面が15回(2014年は25回、約40%減)、国際面が87回(2014年は125回、約30%減)意見欄が7回(2014年は24回、約71%減)、その他が1回(2014年は6回、約83%減)となっている。

これらの110件の記事の中から1面に掲載された15件の記事を詳細に分析し、昨年同様「WSJが選んだ2014年日本の十大ニュース」を、独断と偏見で選んでてみたいと思ったが、2015年は1面に掲載されたいわゆる「重大ニュース」と言われるものが4件しかなく、「十大」ニュースが成立しなかった。

1面に掲載される記事には、連載物やインタビュー記事などのいわゆる「企画もの」と、重大性や緊急性を考慮した「重大ニュース」がある。今年1面に掲載された記事15件のうち、「企画もの」は11件(2014年は9件、約22%増)と増加したが、「重大ニュース」は4件(2014年は16件、75%減)と激減だった。ここに2015年の特徴が顕著に現れている。

重大ニュース4件は下記の通り。順位は昨年同様回数と掲載時期(掲載時期が早いもの程上位)で決定した。
1位: ホンダの社長交代(1件 - 2月)
2位: 日本の米国国債保有残高再び1位に(1件- 4月)
3位: 安倍首相訪米(1件 -4月)
4位: タカタのリコールが米国史上最大のリコールになる見通し(1件 -5月)
5位以下 なし)

重大ニュースが掲載されたのは、2月が1件、4月が2件、5月が1件で、6月以降は1面を飾る日本関係の重大ニュースは皆無だった。2015年の後半は、日本から世界に影響を与えるニュースは発信されなかったことになる。

一方で、企画もの11件の内、8件は、世界の面白いニュースを取り上げる1面下のコラム。その内6件が9月以降の4ヶ月に集中した。2015年の後半は、重大ニュースに代わって日本のユニークな文化や習慣が1面で大いに紹介されたということだ。政治、経済面で世界に影響を与える国から、文化的にユニークな不思議の国に逆戻りした感じだ。

企画もの11件の内、残り3件はソニー、サントリー、ソフトバンクといった企業の特集だった。1面に掲載されるWSJの企業の特集記事は独自の取材に基づく力作が多く、日本の企業が3社も取り上げられたことをみると、まだまだ日本の経済力は捨てたものではない。

ちなみに、読売新聞の読者が選んだ2015年の重大ニュースの上位5つは次の通り。
1位:  ノーベル賞に大村、梶田氏
2位: ラグビーW杯、日本は3勝の歴史的快挙
3位: 「イスラム国」が日本人2人を拘束、殺害映像を公開
4位: マイナンバー制度がスタート
5位: 関東・東北豪雨、茨城などで8人死亡

WSJ,、読売双方のトップ5に入っているのはニュースは無く、3位のイスラム国、5位の豪雨以外のニュースは、1面以外でもWSJでは全く取り上げられなかった。

アメリカから見た日本と、日本からみた日本には、微妙な違いがあり、面白い。

** 12月のまとめ **

12月にWSJに掲載された日本関係の記事は、7件だった。今年の月平均が9.1件なので、若干少ない。

テーマ別では、政治関係が2件、経済関係が2件、社会関係が3件だった。

政治関係では、「24日に閣議決定された2016年度予算案」「28日に日韓間で歴史的合意が実現した慰安婦問題」を取り上げた。前者の記事では、日本の防衛費予算が過去最大になったことを歓迎し、後者の記事(社説)では、この和解が日韓の軍事面での協力強化につながることへの期待を表明した。WSJは、米国の国防費負担が東アジアで拡大する軍事的脅威に追いつけない中、同盟国である日韓の軍事力強化に期待を寄せており、軍事力強化に批判的な日本のマスコミとは随分とトーンが異なる。

経済関係では、「8日に内閣府が発表した7月~9月期のGDP改定値」「18日に日銀が発表した政策の微修正パッケージ」を取り上げた。前者の記事では、7~9月のGDPが上方修正され、日本はかろうじてリセッション突入を免れたと伝えた。後者の記事(社説)では、日銀の金融政策だけに頼る安倍首相の政策を批判し、思い切った規制緩和や税制改革を迫っている。WSJは、日本経済再生の処方箋として、これまでも「労働者不足の解消」「企業の賃上げ実施」をあげているが、前者については規制緩和による移民受け入れ、後者については、税制改革による企業所得税軽減が必要としているのだろう。なお、日銀の政策微調整のニュースは、日本ではそれ程大きく取りあげられなかったが、WSJでは社説で取り上げる程の熱の入れようで、この問題についての日米のマスコミ間での温度差を感じた。

社会関係では、「26日の『民法で夫婦別姓を認めていない民法の規定は合憲』とする最高裁判決」「クリスマスにフライドチキンとケーキを食べる日本のユニークな習慣」「20日に最終回が放送された下町ロケット」を取り上げた。日本独自の文化や風習は、海外のメディアで良く取り上げられるが、経済紙であるWSJの報道姿勢もその例外ではない。「世界で唯一夫婦別姓を認めていない日本」「クリスマスにフライドチキンとケーキを食べるとう珍しい習慣をもつ日本」「家族的経営の美徳を重視する日本」が取りあげられた。

12月の7件の記事から浮かび上がる日本のイメージは、軍事力を強化して地域の安定に寄与しようとしているが、経済政策は中途半端、しかし独自の面白い文化を持っているといった感じで、以前の経済大国のイメージとは随分と異なるイメージになっている様に思える。

掲載箇所別では、1面が1件、社説が2件、国際面が4件だった。

Wednesday, December 30, 2015

日本と韓国が前進【A12面(社説)】

1228日に日本と韓国が慰安婦問題で合意したことを、30の社説で取り上げた。


今回の合意は、「安倍首相が軍による性行為の強要を認めたのか。」「日本が法的責任を認めたのか。」について、極めて曖昧である。WSJは、前者については「安倍氏がかつて疑問視していた歴史的事実を受け入れた。」として、回りくどい言い方だが、安倍首相が軍による性行為の強要を認めたと報じている様に読める。また、後者については「日本政府から女性たちに支払われる資金は公式な責任を示している。」として、日本政府が法的責任を認めたとしている様に読める。

***** 以下本文 *****

日本と韓国は28日、激しく対立していた問題の一つに決着をつけることで合意した。旧日本軍が第2次世界大戦中に、韓国人など数万人の女性を性奴隷として軍の慰安所に連行したとされる「慰安婦」問題だ。今回の合意により、2つの民主国家が今よりも協力的な関係に向かう道が開かれるはずだ。

 安倍晋三首相は共同記者発表の中で、「慰安婦としてあまたの苦痛を経験し、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」と述べた。日本政府は存命の元慰安婦46人を支援する資金として10億円を拠出し、韓国政府はそれが実施されることを前提に、この問題が「最終的かつ不可逆的に」解決されたとみなすことで合意した。
慰安婦問題、写真で振り返る

 慰安婦にまつわる恥ずべき歴史は、1990年代初めに複数の書籍が取り上げて注目されるまで、ほとんど忘れ去られていた。旧日本軍がかつて侵略・植民地化した国々で怒りが高まるなか、日本政府はこの問題について調査することに合意した。93年には河野洋平官房長官(当時)が、軍による性行為の強要を認めて謝罪する談話を発表している。

 だが、日本政府は、韓国その他の国と合意して存命の元慰安婦に賠償することはせず、戦時賠償請求権は条約で放棄されているとの見解を変えなかった。国際法の専門家は、一つの団体に賠償をすれば、より多くの要求を誘いかねないと警告した。そのため、日本政府は存命の元慰安婦を支援するために募金を使った基金を設立した。

 こうした融通が利かない日本政府の姿勢は失敗だった。それが民間の基金だったことから、韓国と中国で多くの人の怒りを呼び、問題は解決しなかった。河野談話は一方的かつ拘束力がなかったため、安倍氏など日本の一部政治家はこれを破棄するよう呼びかけ、引き続き強制的な行為だったことを否定した。

 今回の日韓合意でそうした問題は解決するはずだ。韓国は、安倍氏がかつて疑問視していた歴史的事実を受け入れたと満足できる。日本政府から女性たちに支払われる資金は公式な責任を示しており日本政府が賠償ではなく支援だと言い張ったとしてもそれは変わらない。 

 安倍氏は1年前、韓国との関係を改善し、戦後70年の談話で戦時中の残虐行為を謝罪する方針を示した。だが、韓国の朴槿恵大統領が安倍氏の歴史認識を理由に会談すら拒否したため、和解の見通しは遠のいていた。


 これは、日本と韓国が中国と北朝鮮に関して直面している安全保障面の課題を考えたときに特に重要だ。米国の国防費が各地域で拡大する脅威に追いつかないなか、同盟国は自国の能力を強化すると同時に、一段と緊密に協力しなくてはならない。慰安婦問題の解決で、それが今までよりも容易になるだろう。

Thursday, December 24, 2015

日本は過去最大の軍事支出を目論む【A12面(国際面)】

12月24日に閣議決定された2016年度予算案について、同日の国際面で速報した。


来年度予算案では、防衛費は過去最大となり、野党からの強い批判が予想されるが、国会では自民党が過半数を得ているので、この予算案は通過するだとろうとしている。全体のトーンとしては、防衛力増強を実現するという予算方針を支持し、アベノミクス効果による税収増で国債依存度が3分の1に圧縮されたことも評価している様に読める。

***** 以下本文 *****

「安倍内閣は、木曜日に2016年度予算を承認した。中国と領有権を争っている諸島の防衛を強化するという安倍首相の意向を反映し、防衛費は最高額となった。」
「4月から始まる会計年度の予算は、この四半世紀で最大の税収を見込んでいるが、防衛費は1.5%増加し、5兆500億円(418億ドル)に達する。防衛費が5兆円を超えるのは初めてで、安倍内閣が発足した2012年度以降4年連続での増加になる。」
「この防衛費増大は、9月に成立した安保法案の方針を反映したものだ。この法律は、日本がアメリカや同盟国と協力して海外と戦う能力を増大させる。安倍首相は、この法律は違憲だとする野党の批判の中、この法律成立を押し切った。」
「来年度予算は国会の承認が必要になる。国会は、安倍首相率いる自民党が衆議院、参議院共に過半数を制している。」
「防衛相の購入機器のリストには、F35攻撃機、攻撃用水陸両用車、V22輸送用オスプレイや、通常の戦車よりも遠方の島で展開しやすいタンク銃付の攻撃用車両等が含まれる。」
「東京と北京の関係は最近少し改善されつつあるが、両国は日本で尖閣諸島、中国でダイユと呼ばれる東シナ海の諸島を巡って見解の不一致が続いている。これらの島々は、日本によって実質的に支配されているが、中国によって領有権が主張されている。」
「日本の防衛相は、その地域の軍備とレーダーの増強や、米国の海兵隊に似た水陸両用部隊の増設の準備を進めている。予算には、E-2D早期警戒機やエージス艦の購入費用も含まれる。」
「来年度予算の総額は96.7兆円(8,000億ドル)で0.4%の増加だ。税収やその他の収入が支出の約3分の2をカバーする。2009年度には税収がその他の収入のカバー率は半分以下だった。」


Monday, December 21, 2015

日銀は卵を産む【A22面(社説)】

日銀が12月18日に発表した政策の微修正パッケージについて週明け21日の社説で取り上げた。

日銀のここ数年の政策が、インフレ脱却に結びつかなかったことに、失望感を表明すると共に、金融緩和だけで日本経済の再生を図るのは困難と指摘している。規制緩和や税制改革なしに、日本経済の成長は無く、安倍首相にそれを迫るコメントで締めくくられている。(WSJ日本語版に同じ記事が掲載されていたので、以下に引用させて頂きました。)
***** 以下本文 *****
日本銀行は18日、量的・質的金融緩和の下での資産買い入れについて、ETF(上場投資信託)の新規枠設定、長期国債買い入れの平均残存期間の長期化、適格担保の拡大といった変更を発表した。
 しかし黒田東彦総裁が、こうした新たな措置で日銀にはインフレ目標を達成できるだけの力があると市場を安心させようと考えていたのであれば、それが間違いであることに直ちに気付かされただろう。この発表を受けて、国内株式相場は下落し、為替相場は円高に振れた。
 今回の出来事は、日銀の信頼性に関わる問題を浮き彫りにしている。黒田総裁は2013年3月の就任時に、日銀にはデフレを止める力はあるがそれを行使してこなかったのだと主張した。昨年には、自分が生きている間は物価上昇率が再び1%を割ることはないとの見通しを示した。ところが、その数カ月後に物価上昇率は1%を割った。日銀が事実上全ての新発国債を含む年間約80兆円もの資産買い入れを行っているにもかかわらずだ。
 これは日銀のバランスシートが、第3弾まで続いた米連邦準備制度理事会(FRB)の量的緩和のどれよりも速いペースで拡大していることを意味している。このままでは、日銀が数年以内に2%のインフレ目標を達成できる確率はゼロに近い。12月の日銀全国企業短期経済観測調査(短観)の「企業の物価見通し」は1年後の予想が1%と、前回9月調査の1.2%から低下した。
 物価目標を達成できずにいる黒田総裁には、資産買い入れをさらに拡大するよう求める圧力がかかっている。だが、黒田総裁と安倍政権は、資産買い入れを拡大しても効果はなく、それを実施することさえ難しいことに気付いているようだ。円相場をさらに押し下げることができたとしても、米国や中国など貿易相手国との緊張が高まるだろう。
 今回の新たな措置により、企業の意思決定に政治が介入することへの懸念も高まっている。日銀は「設備・人材投資に積極的に取り組んでいる」企業の株式を対象とするETFを買い入れる方針を示した。政府は経済界に対して投資拡大と賃上げを強く迫っている。
 日銀は、当初は企業の利益率やガバナンス(統治)の高い企業を対象としたJPX日経インデックス400に連動するETFを買い入れ対象とする方針なので、政策に混乱を来しているように見える。政府の政治目標を後押しするために日銀の力を使うことは、資源の配分を誤るリスクもある。そうなれば成長を損なう。日銀の独立性を脅かし得る先例ともなるだろう。
 日本の潜在成長率が低いため、国内企業は借り入れや投資に消極的だ。日銀の推計では、潜在成長率は0.5%にとどまる。安倍晋三首相が競争力強化に向けた規制緩和や税制改革にまたも失敗すれば、金融政策にできることはあまりない。
 黒田総裁による今回の微調整に失望感が広がった結果、日本経済の命運は日銀ではなく安倍首相が握っていることに、あらためて気付かされた。

Saturday, December 19, 2015

日本では企業ドラマが胸にぐっとくる【A10面(国際面)】


12月20日に最終回が放送された「下町ロケット」について、その前日の19日に国際面で取り上げた。

コンパクトな記事だが、ドラマのあらすじや、その素晴らしさがコンパクトにまとめられている。

***** 以下本文 *****
「佃航平はロケットエンジンの開発を夢見ている。彼が経営する従業員200人の会社は一流の技術を持っている。しかし、彼らは、帝国重工の横柄な重役、ケチな銀行マン、中小企業を見下すビジネス文化と戦わねばならない。」
「このドラマはフィクションだ。しかし、多くの日本人にとって、このドラマはあまりにもリアルだった。こうした日本人たちが、この勇敢な社長を描いたテレビドラマを大ヒットに結び付けた。安倍首相もこのドラマのファンだと述べ、最終回は最高視聴率を獲得することが期待されている。」
「このテレビドラマは、産業の基軸を、有名ブランド製品の中に組み込まれる精密部品の供給に置いている日本において、多くの共感を呼んだ。例えば、アップルのiPhoneは、日本の多くの無名企業からの部品供給に依存している。」
「『ドラマを見た時、私は感動して泣きました。』と大和合金の3代目社長である萩野源次郎氏は言う。同社は、銅合金から作られる板金やディスクを製造している。」
「萩野氏は、ドラマで描かれる社長よりも、ずっと成功している。日本最大の銀行である東京三菱UFJ銀行からお金を借り、ヤマハに部品を供給しているのだ。しかし、彼の父親である萩野茂雄氏は、このドラマは、彼の家族が、数年前にある大企業との間で起こしたトラブルを思い起こされるという。既にリタイアした彼によれば、その大企業は彼の会社から精密部品を購入し、その技術を横取りしようとした。」
「安倍首相は、彼が首相に就任してからの3年間の経済成長は、大企業に記録的な利益をもたらしたが、中小企業を十分に助けるには至っていないことを認めている。」
「このドラマは、日曜日のプライムタイムにTBSで放送されている。主人公が特許訴訟や医療品規制と戦う姿を描き、涙なくしては見られないメロドラマに仕立てあげられている。直木賞を受賞した池井戸潤氏のベストセラー小説をもとしたこのドラマは、佃氏が日本のロケット公社を辞めて、家業である佃製作所を引き継ぐところから始まる。この会社は、労働者層の多い下町に本社を置いているため、ドラマのタイトルは『下町ロケット』という。」
「ドラマの最初の方で、ライバル企業が特許侵害で佃を訴え、佃は銀行からお金を借りるのが難しくなる。そこに、帝国重工が登場する。同社は、佃の特許が必要となり、その購入を申し出る。帝国重工の幹部社員が佃の小さな工場を訪れ、要求をわめきたてる。しかし、佃は屈しない。彼は、佃製作所を、エンジンそのものを製造し、大企業に販売する会社にしたいのだと主張する。」
「佃が従業員に『我々は、会社の規模では負けるかもしれないが、技術ではけして負けない。』と言ったところで、ドラマの効果音が盛り上げる。そして、遂に帝国重工が屈する。」
「佃社長役の阿部寛の大声でのスピーチは、もう一人の演説者である安倍の関心を引いた。そう、安倍首相である。」
「安倍首相は、12月14日の講演で、この番組で描かれる佃製作所について『ものづくり大国日本をひっぱっていく日本の中小企業そのものであります。』と述べた。」
「TBSの川鍋昌彦氏は、この番組の夢を追いかけるというテーマが成功の秘訣だと語る。彼によれば、日曜日の夜にこのドラマを見て、月曜日から働く英気を養ったという、視聴者からのメッセージがTBSに寄せられている。」
「このドラマはフィクションだが、三菱重工が、日本や世界中の何百という中小企業の支援によって成功させた三菱リージョナルジェットの初飛行の様な、最近の明るい出来事を思い起こされる。」
「精密部品会社の萩野茂雄氏は、この番組は、家族経営企業の良い面を描いてくれていると言う。『利益は重要だ。しかし、もっと重要なのは、自分たちがお客様や従業員に貢献していると感じられることだ。』」

ここではクリスマスのお祝いにはカーネル氏の予約が必要だ【A1面】

日本ではクリスマスにフライドチキンとケーキが人気だという記事が、1面に掲載された。


クリスマスにフライドチキンを食べる習慣はケンタッキーフライドチキン(KFC)が、ケーキを食べる習慣は不二家が作ったそうだ。年末に第九を歌う習慣や、湖池屋が今年発売した苺ショートケーキポテトチップスなど、日本のクリスマスシーズンのユニークな習慣を取り上げていて楽しく読める。

***** 以下本文 *****
「クリスマスがやってくる。日本では、フライドチキンとケーキを予約する時だ。」
「日本では12月25日は公式の祝日ではないが、この非公式の祝日に、これら二つの食べ物の消費は確実に伸びるのだ。他の国では少し異なったクリスマス料理が好まれることを知る日本人は殆どいない。」
「22歳の大学生であるモリモトリュウヤさんは、『チキンとケーキがアメリカのクリスマスの主食では無いとは全く知りませんでした。』と述べる。」
「『私が子供の頃、家族でチキンを食べ、メリークリスマスと書かれたチョコレートがのったクリスマスケーキを食べました。』と彼は言う。」
「彼の様な家族により、日本のケンタッキーフライドチキンでは、クリスマスの時期が最も忙しい。」
「KFCでは、クリスマス用のチキンの予約を10月末から始める。クリスマスイブにKFCのバケットを買おうとする人々は、下手をすると、サンタクロースのスーツを着たカーネルサンダースが見守る中、6時間も行列の中に立っていなければならないのだ。」
「日本でクリスマスにチキンを食べる習慣が出来たのは1970年代初頭に遡る。外国人が七面鳥の代わりにフライドチキンを買い求めに東京のKFCを訪れた。当時、KFCは脂っこい食べ物を指で食べると言う習慣を日本に根付かせるのに苦労しており、新しいクリスマスの習慣を作ろうというアイデアが生まれた。」
「この試みは家族の間で流行となり、新しい習慣が生まれた。『ケンタッキーがなければ、クリスマスは退屈です。』と18歳の高校生であるナカジマユナは言う。日本ではKFCはケンタッキーと呼ばれるのだ。」
「ナカジマさんは既に今年のチキンを予約済だ。彼女はクリスマスイブにこの伝統の食事を楽しむ予定だ。」
「日本ではキリスト教徒の数は1%を若干下回る。日本では、殆どの人が仏教徒か、土着の神道徒か、場合によって仏教徒になったり神教徒になったりする。伝統的に、結婚式は神道方式で行われるが、葬式は仏教方式で行われる。」
「にもかかわらず、日本ではキリスト教の習慣が幅をきかせる。第一次世界大戦のドイツ人捕虜が日本でベートーベンの交響曲第9番を演奏したことが、日本中の交響楽団がクリスマスシーズンに合唱を含んだこの作品を演奏する習慣を作り出した。」
「百貨店や事務所はクリスマスツリーを飾る。11月にオンラインメディア会社であるアクティンディが母親を対象に実施した調査では、3歳から7歳の子供の90%が、ショッピングモールに時々現れるサンタクロースを信じている。」
「日本のクリスマスのもう一つの習慣は、白い粉砂糖がかけられたイチゴのケーキだ。1910年に不二家が最初のクリスマスケーキを販売した。そのケーキはクリームのかかったプラムケーキだった。1950年までは、そうしたケーキの需要が大きかったと不二家のスポークスマンは言う。」
「苺のショートケーキが人気を得るのは、1960年半ばになってからだと彼は言う。その頃、多くの多くの家に冷蔵庫が普及し、温室育ちの苺が人気になった。1970年には、ショートケーキは、クリスマスの代名詞となり、バタークリームケーキの売上を抜いた。」
「『ある説によれば、日本は昔から何かをお祝いする時には甘いものを食べる習慣があったのです。』とそのスポークスマンは言う。そうした習慣がクリスマスケーキが人気を博す要因となったのだろう。」
「『もちろん、毎年クリスマスケーキを買います。』と32歳のエンドウマミは言う。彼女は2人の子供を持ち、東京の結婚サービス会社で働いている。『子供が生まれてからは、大抵はショートケーキですね。』」
「アメリカや欧州では、苺と言えば、夏の果物だが、日本では、多くの収穫が11月から始まる。温室栽培で、需要のピークに合わすためだ。」
「チキンと同様に、クリスマスケーキを買い求めるのも大変だ。人気のベーカリーやホテルでは、10月から予約を受け付ける。」
「ほっぺたが落ちそうなほど、美味しいケーキもある。東京のパレスホテルでは、178ドルのリーブという名前のケーキを販売するが、それは食べられるチョコレートの箱に入っている。東京のニューオータニホテルの495ドルのケーキは、ドンペリニオンのマカロンが上にのっている。」
「ちょっと高すぎるというのなら、スナックメーカーの湖池屋が月曜日に発売した苺ショートケーキ味のポテトチップスはどうだろう。1箱に12袋入って15ドルだ。『クリスマスを一人寂しく過ごす人も沢山います。』とスポークスマンは言う。『特に2015年は、クリスマスが平日なので。大きなケーキやチキンが1人で食べきれないという人には、苺ショートケーキ味ポテトチップが最適です。』」
「ソーシャルメディアによれば、このポテトチップスは予想以上に大きいとのこと。『味についての意見は分かれています。』と彼は言う。」
「しかし、何と言っても、フライドチキン無には、クリスマスは語れない。KFCのベーシックなクリスマスチキンセットは、35ドルを少し切る値段で、チキンとサラダとケーキが入っている。」
「日本KFCのスポークスマンによれば、12月の売上は通常月の倍になるそうだ。日本KFCは、Yum Brand Inc.とのフランチャイズ契約に基づいて操業する上場会社だ。」
「日本KFCは、昨年のトライアルの後、今年初めて、多くの店舗でオンライン予約を開始した。顧客はバスケットを12月19日~25日の間にピックアップすることが出来る。」
「最近、幾つかのコンビニエンスストアが、KFCで買うより彼らの店で買った方がお得ですと言い出した。ファミリーマートのプレミアムチキンバスケットの値段は20ドルからだ。日本全国に11,000店舗を展開する同社は、その広告で『フライドチキンが無ければ、クリスマスじゃない。』とうたっている。」
「対照的に、七面鳥と豚は、この時期日本では人気が落ち込む。アメリカやヨーロッパでは、クリスマスに七面鳥や豚を食べることは、日本では殆ど知られていないのだ。」
「学生のナカジマさんが、七面鳥がアメリカでは人気のクリスマス料理だと聞いてびっくりして言った。『クリスマスとチキンはワンセットです。』」

Thursday, December 17, 2015

日本は夫婦は同姓を名乗らねばならいことを確認【A16面(国際面)】

12月16日の「夫婦別姓を認めない民法の規定は合憲」とする最高裁判決について、17日の国際面で速報した。

中立的な記事になっているが、選択的夫婦別姓を認めるべきだというトーンに読める。

***** 以下本文 *****

「日本の最高裁判所は、夫婦は同じ姓を名乗らねばならないという19世紀に遡る法律を支持し、3人の女性と1組の夫婦によるこの法律が彼らの権利を侵しているという訴えを却下した。」
「この判決には日本で大きな関心が寄せられた。日本では安倍晋三首相が、企業や官公庁における女性の進出を推進してきた。水曜日の判決は、職場で旧姓を維持している女性が、彼らの法的な名前が異なるため、追加の書類が必要になったりなどの余計な手間がかかるという状況が継続することを意味する。」
「日本は、夫婦が夫か妻かいずれかの姓を選択することを要求する数少ない国のうちの一つだ。性による差別撤廃を求める国連が、日本に対し何回もこの法律を改定する様に要求してきた。」
(途中省略)
「表面的には、この法律は両性に対して中立だ。なぜなら、夫が妻の姓を名乗ることも出来るからだ。しかし、実際には96%の夫婦が夫の姓を名乗っている。」
「最高裁判所は、下級裁判所の判決を支持し、1つの姓を要求する習慣は日本では十分に確立されており、この法律は婚姻は個人の尊厳と男女の平等の観点から行われるとする憲法の要求を犯していないと述べた。」
「与党である自民党は、2010年のマニフェストで、夫婦別姓に反対するとした。しかし、今年の初め、党の政策研究会の会長である稲田朋美氏は、党内にも様々な意見があることを認めた。」
「15名の裁判官のうち、3名の女性裁判官全員と2名の男性裁判官が、この法律は憲法違反だとして、この判決を批判した。岡部喜代子裁判官は、女性に姓の変更を強制することは、女性に危害を及ぼすと述べた。例えば、旧姓で取得した特許が認識されなくなってしまう。今はネットで誰かの名前を検索することが世界的に出来る時代だとし、結婚前の名前の有益性と必要性は高まっていると述べた。」
「水曜日に出た婚姻関係のもう1つの判決で、最高裁は、女性にだけ離婚後6ヶ月の再婚禁止を定めた法律を違憲とした。」

Tuesday, December 8, 2015

経済が拡大し、リセッションは回避【A10面(国際面)】

内閣府が8日発表した7月~9月期のGDP改定値について、同日の国際面で速報した。


短い記事の中で、事実を淡々と伝えている。

***** 以下本文 *****

「日本は安倍政権になってから2度目のリセッションに陥るのを免れた。予想以上の設備投資に助けられ、経済は第三四半期に成長した。」
「日本のGDPは第三四半期にその前の四半期に比べて年率換算で1.0%成長したと火曜日に内閣府は発表した。経済は、0.8%縮小したと推定されていた。」
「この改定により、安倍晋三首相は、経済は第二四半期の0.5%の縮小の後、回復しつつあると言うことが出来る。改定の主な理由は、当初5%縮小したと推測されていた企業投資だ。改定によれば、企業投資は2.3%伸びていた。」

Monday, November 30, 2015

** 11月のまとめ **

11月にWSJに掲載された日本関係の記事は、7件だった。今年の月平均が9.6件なので、若干少ない。

テーマ別では、政治関係が2件、経済関係が3件、社会関係が2件だった。

政治関係では、1日に行われた日中韓首脳会談、2日に行われた日韓首脳会談を、それぞれ翌日の国際面で速報した。

経済関係では、9日に発表された7-9月期のGDPが2四半期連続のマイナス成長だったことを翌日の国際面で速報。その原因を、高齢化、スキルミスマッチ、移民規制による労働者不足だとした。17日の社説ではアベノミクスを見直す時期だとの社説を掲載、アベノミクスがうまくいかないのは、大企業を儲けさせただけで、大企業が賃上げをしないことが原因としている。21日の国際面で、アベノミクス第2フェーズ(一億総活躍社会)の緊急提言を取り上げた。その狙いは、大企業だけが儲かったという批判をかわし、アベノミクスの恩恵を国民全体に行き渡らせることだとしている。しかし、その効果については批判的な様に読める。

社会関係では、3日の1面下コラムで、日本は苔ブームに沸いているという記事を掲載。30日にも1面で、高齢化社会先進国日本の明るい面と暗い面を取り上げた。経済的には暗いニュースの多い日本だが、社会的には面白い国として取り上げられている。

掲載箇所別では、1面が2件、社説が1件、国際面が4件だった。



高齢化する日本は希望の兆しを探す【A1面】

高齢化社会となる2050年に人類はどう対処すべきかという連載の第一回に世界で最も高齢化が進む日本を取り上げた。

高齢化社会日本の明るい面と暗い面をバランス良く取り上げた力作だ。(WSJ日本語版に同じ記事が掲載されていたので、以下の和訳は同記事から借用させて頂きました。)
***** 以下本文 *****
東京都心のオフィスビル建設現場で、斉藤健一さん(67)は重さ約20キロの板を、まるで年齢が半分若返ったかのように軽々と積み重ねていた。
 その秘密はロボットスーツだ。腰回りと太ももを囲むように外骨格型のロボットスーツが装着され、肌にはセンサーが取り付けられている。このセンサーは斉藤さんが筋肉を動かし始めるのを感知し、その動きをアシストするよう機械に命令を出す。これで斉藤さんが実際に感じる重さは8キロほど軽くなる。
 ヘルメットをかぶった斉藤さんは「まったく10年前と同じだ」と話した。
 斉藤さんのロボットスーツは、この建設プロジェクトを請け負う大林組が行う実験の一部だ。それは同社だけでなく、日本が直面する最大の問題の1つ、つまり急速な高齢化による慢性的な労働力不足に取り組むためのものだ。ロボットスーツのおかげで、斉藤さんの働ける期間は延び、大林組も建設を続けることができる。
 高齢化が進めば経済が縮小するという言葉通り、過去に例を見ないペースで進む高齢化が日本に厳しい未来を突きつけている。このロジックに従えば、高齢者は非生産的で年金や医療の資源を浪費する存在であり、一方で労働や収入、消費、納税を通じて成長にほとんど貢献しないことになる。
 現在、日本の人口の25%が65歳以上だ。この割合は米国では13%にとどまる。日本では、高齢者と15歳未満の子どもからなる「従属人口」1人を支える生産年齢人口は1.6人にすぎない。
 この割合はすでに持続不可能なほど低いと考えられている。2050年までに、日本では従属人口1人を生産年齢人口1人で支えるようになる。1980年代の高度成長期、日本では2人以上で1人を支えていたが、これは現在の米国の割合とほぼ同じだ。
 悲観論者らは、容赦ない破滅への道から日本を救う唯一の方法は、急激かつ大規模な移民受け入れなどの劇薬しかないと指摘する。ただ、日本が世界でもまれなほど同質性の高い文化を維持してきた歴史を考えると、これは実現しそうにない。
しかし、高齢化の課題に取り組む日本の経営者や政治家、学者の数は増えている。彼らは緩やかな適応が高齢化社会の痛みを緩和するのか、負担を恩恵に変えさえするのか、見極めようとしている。
 楽観主義者の場合、増え続ける健康な60代や70代の人々を職場に戻すことから始める。これにより生産的な社会構成員が増えるばかりか、人口減少で手が回らない現場の仕事を手助けすることにもつながる。
 また楽観主義者らは、高齢化に関連する新たな成長エンジンにも言及する。例えば、労働力減少を見込んだオートメーション化(自動化)への投資ブーム、あるいは現役時代の勤労と倹約で積み重ねた貯蓄を使う高齢者をターゲットとした「シルバー市場」の成長などだ。日本のシルバー市場はすでに100兆円以上の規模に達しており、年間1兆円の成長が見込まれている。
 ビジネスコンサルタントで「シニアビジネス:『多様性市場』で成功する10の鉄則」などベストセラー書籍の執筆者である村田裕之氏は、「『アンチエイジング』から『スマート・エイジング』に発想を転換する必要がある」と指摘する。
 巧妙な高齢化戦略を作り上げる日本の能力は世界にも示唆を与える。他の国々もすぐに日本と同じ道をたどるからだ。国連の予測によると、2050年までには32カ国が、現在の日本よりも大きい割合の高齢人口を抱えることになる。
 先陣を切って高齢化社会に対処することをチャンスと捉える日本人もいる。ちょうど前の世代が、まずは日本国内で磨きをかけてから輸出した自動車や電化製品で世界的リーダーになったようにだ。
 ただ、現時点で日本から見えてくるのは、人口動態の変化による利益よりも痛みの方だ。
 安倍晋三首相によって打ち出された公共事業計画は、若い肉体労働者の不足で行き詰まっている。大胆な金融緩和で急速な円安をもたらした経済政策「アベノミクス」のおかげで、世界展開する日本の大企業は過去最高益をたたき出しているが、これら企業は利益を国内投資に向けるのをためらい続けている。人口縮小による長期的な成長余地の限界を嗅ぎ取っているからだ。こうした状況すべてに暗い影を落としているのは、年金負担で膨張する日本の巨額債務だ。
 それでも、この悲観的見通しは、その通りにはならないかもしれない前提条件に依拠している。つまり、65歳に達したら、社会を支える側から支えられる側に退かなければならないという前提だ。いまの60代や70代は、そして80代でさえ、前の世代に比べると活力があり、社会的負担も小さいことは明らかだ。こうした中、日本は「高齢化」を再定義している。
出生率の低下が日本の高齢化の一因ではあるが、体に良い食事や健全なライフスタイルの重視、国家的な医療制度を通じた著しい健康の増進もその要因のひとつだ。専門家は、予防治療を強調することで医療コストの削減につながっていると指摘する。
 日本人の平均余命は女性で87歳と世界で最も長く、米国人より5年長生きだ。男性は81歳で世界3位、米国人よりも4年長い。医学専門誌ランセットによると、人がひとりで生活できる期間の推計値である「健康寿命」は日本人が男女ともに世界最長で、それぞれ71歳、75歳だ。
 2年前には、日本人の登山家が80歳でエベレスト登頂を果たした最初の人物になった。また、高齢者の競技大会では日本人アスリートが圧倒的な強さを見せることが少なくない。
 日本の医療費は現在、対国内総生産(GDP)比で10%となっている。最も医療費の高い年齢層に人口が集中しつつあるにもかかわらず、この割合は先進国の中でほぼ平均に近く、米国の17%を大きく下回る。
 日本では高齢者の約5人に1人が働いているが、これは経済協力開発機構(OECD)に加盟する先進国の平均の2倍近くだ。65歳から69歳までの日本人男性の半分以上が仕事を持っているが、10年前は約4割だった。
 英金融大手バークレイズの6月のリポートによると、これに働く女性の人数を合わせれば、過去10年間における労働力の縮小は1%未満にとどまることになる。伝統的な定義での「労働力人口(15~64歳)」が8%減少しているにもかかわらずだ。
 株式会社「高齢社」は75歳までの労働力を派遣する人材派遣会社だ。この仕事の中にはつまらないものもある。高齢社から人材を採用したある装置メーカーは、この人物を東京で修理工の車に同乗させ、修理中も車にとどまらせて違反切符を回避する役割を担わせていた。
 過去1年間に複数の建設会社が6万人の高齢者を現場要員として追加採用した。国土交通省は4月、パイロットの年齢制限を67歳に引き上げた。
 長野県の曲がりくねった狭い道の外れにある会社「小川の庄」では、高齢者に「おやき」の製造を任せている。かつて、同社の退職年齢は78歳だったが、今は好きなだけ働いてもいい。
 ある日の午後、85歳の女性が小麦粉を練った皮でナスと味噌を包んでいた。76歳と91歳の男性2人がそれをトングでつかんで天井からつるされた大きな鉄板にのせ、時折ひっくり返していた。
 小川の庄で週に3日働く松本藤子さんは、「おやきを作るのは百姓仕事と違って手の先を使う仕事だから、身体への負担も少ないし、続けられる」と語る。
 高年齢労働者は、さらに高齢な人の介護という日本で労働力が最も不足している仕事を埋めるのにも重要な役割を果たしている。すでに日本の失業率は低いが、厚生労働省は労働者が足りないセクターの約14%を介護セクターが占めると試算している。こうしたミスマッチは介護需要が拡大するにつれて大きくなるだろう。
このミスマッチは雇用されていない高齢者がより多く参入すれば埋められるかもしれない。介護職に就く約3割の人が今や60歳以上で、10年前の2割から増加している。
 藤塚二三男さん(73)は、自身が経営するゴム製品メーカーが破綻した後、介護サービスを手がけるセントケア・ホールディングスに入った。藤塚さんは週5日勤務で、時には朝7時半に出勤し、そこから自転車で近くの家庭を訪問して顧客である80代や90代の高齢者を入浴させたり着替えさせたりする。
 日本はますます高年齢労働者に頼るようになっているが、必ずしも良い側面ばかりとは限らない。高齢者の多くが喜んで働くと言う一方で、年金受給額の少なさやその他の経済的事情で働かざるを得ない人もいる。65歳以上の日本人の25%近くが貧困ラインを下回る生活を送っているが、これは全人口で測った割合を約40%上回る。
 雇用主は高齢者を安価な労働力とみなしており、退職した正社員を賃金の低い非正規社員として再雇用することもある。これは、賃金低下が続いた悪夢の10年間に終止符を打とうとする日本政府の努力を根底から揺るがしている。
 千葉県で高齢者就農支援組織を運営する関根勝敏さんは「若い人にくらべて、少し賃金を抑えられる」と話す。同氏の農園では20人近くの高齢者が果物や野菜の収穫に携わっているが、彼らに支給される賃金は現行賃金の8割だ。
 高年齢労働者にできることは、若い労働人口の縮小分を埋める程度でしかない。自分で選んだにしろ身体的な理由があるにしろ、高年齢労働者の多くは週に数時間しか働かない。千葉県柏市にある特別養護老人ホーム「柏こひつじ園」の幹部は、そこで働くパートタイムの高年齢労働者40人の労働時間が正社員の3~4人に相当すると見積もっている。
 また、施設入り口の暗証番号など重要な情報を突然忘れた高年齢労働者にどう対処するかという、複雑な問題と格闘する雇用主もいる。
 時には、大林組が建設現場に導入したロボットスーツのように、高年齢労働者の足りない部分を補うテクノロジーが解決策になる場合がある。都心から車で1時間ほど走った場所にある特別養護老人ホーム「藤沢愛光園」は6月、筑波大発のベンチャー企業サイバーダインからロボットスーツ「HAL」を導入した。
 北海道ではジャガイモを栽培する60歳の農業従事者らが、かがむ負担を軽くするゴム製の「スマートスーツ」を着用していた。羽田空港で荷物を扱う作業員も同様のアシスタントスーツを着ている。
 単に高齢者がその仕事をできない場合、あるいは人手が見つからない場合、日本のメーカーはロボットに活路を見いだし、コストを抑えるばかりか持続的な成長にもつなげようとする。
 三菱東京UFJ銀行は受付係として19カ国語を話す小さなロボットを配置した。また、長崎県ではスタッフの大半がロボットというホテルが7月にオープン。コマツは建設現場に導入する自動運転車両を開発中で、産業用ロボットのファナックは互いに修理しあう機械を設計中だ。
 トヨタ自動車は「生活支援ロボット」の実用化を目指している。これはテレビ電話やリモートコントロール機能が搭載されたアンドロイドで、家族や友人が遠く離れた場所から、まるで家にいるかのように年老いた親の世話をすることを可能にする。あるデモンストレーションでは、息子がタブレット端末を使って寝たきりの父親の部屋を見回し、ロボットにカーテンを開けて父親に飲み物を持っていくよう指示していた。
 ソフトバンクグループは今年6月、日本国内でヒト型ロボット「ペッパー」の販売を開始し、世界から注目を浴びた。同社によると、ペッパーは感情を理解できる世界初のロボット。当初、この身長120センチの白いロボットは介護ヘルパーなどの用途に使われていた。
神奈川県内での実演で、ペッパーは80代から90代の高齢者30人を40分間楽しませた。ペッパーはそこで軽い運動の指導を行ったほか、高齢者が色や文字を認識できるかを試した。女性たちは孫であるかのようにペッパーの頭をなでていた。
 開発者のひとりである居山俊治氏は、別の機会で認知症患者と触れ合ったときのペッパーのビデオを流しながら、このロボットが時には人間より良い仕事をするかもしれないと話した。「このおじいさんは認知症だが、ペッパーに同じことをずっと話しかける。人間だとちょっと嫌な顔をすると思うが、ロボットはずっと『そうですか』って話を聞いているのだ」
 居山氏が経営するフューブライト・コミュニケーションズは、急成長する高齢者向けIT市場に照準を定めた社員3人の新興企業だ。社名のフューブライトは「フューチャー(未来)」と「ブライト(明るい)」を組み合わせて縮めたもの。居山氏は「日本の未来は暗いとイメージされていると思うが」と前置きした上で、「考え方によっては、こういうフィールドとこの技術を試せる場所はここ(高齢者向けIT市場)しかない」と話した。
 新たな労働形態と技術が日本経済の供給サイドを変質させているが、次第に重要性を増す「シルバー市場」が成長を後押しする中で、これに並行して進む展開が需要サイドも変化させている。
 日本の高齢者が人口全体に占める割合は依然として3分の1以下にすぎないが、彼らは1700兆円に上る家計金融資産の約6割を保有している。また貯蓄の必要がなくなった人も多いため、高齢者は国内消費の約半分を占めている。
 日本全体における消費支出の増加ペースは弱いが、UBS証券のエコノミストらはシニア市場の拡大が、少なくとも一時的には、人口縮小から生じる悪影響を埋め合わせる以上の効果をもたらすだろうと信じている。
高齢者はすでに日本の消費市場の姿を変えている。政府が今年、消費者物価指数に採用される588品目を見直した際、補聴器やサポーターが追加される半面、お子様ランチやテニスコート使用料などは廃止された。
 一方、企業は高齢者の消費を取り込む新製品や新たなマーケティング戦略に投資している。
 パナソニックは昨年秋、シニア層向けに使い勝手が良く軽量な「Jコンセプト」と呼ばれる家電ラインナップを立ち上げた。この中には取り出す負担を最小限にし、見やすいコントロールパネルが搭載された洗濯機や冷蔵庫が含まれる。同社は今年、傘下のパナソニックエイジフリーサービスの従業員数を最大で10倍となる2万人に増やす計画を明かした。
 味の素は2013年、「サクセスフル・エイジング」をスローガンにした「アクティブシニア・プロジェクト」を発足させた。ここでは病気の早期発見につながるとされる医療診断の実施だけでなく、筋肉や骨の衰えを防ぐ健康サプリメントが販売された。
 同社の西井孝明社長は「国内マーケットは縮小していくと思うが、利益成長していくことはできる」と述べた。
 また、シルバー市場は高齢者が住みやすくするための増改築ブームを引き起こした。
 宅配サービスも重視されるようになった。セブンイレブンは現在73万世帯に食品を配達しているが、同社はこの事業が毎年2倍のペースで拡大するとみている。日本郵政は米アップルおよびIBMと組み、月額1000円で「みまもりサービス」を開始した。これは郵便配達員が高齢者の家を訪問する際に生活の様子を確認し、専用の「iPad(アイパッド)」を使って結果を家族に知らせるという内容だ。
イオンは2013年、「グランド・ジェネレーション(最上の世代)モール(GGM)」に店舗をリニューアルさせる事業に取りかかった。GGMの食品売り場では半分のブロッコリーが用意されるなど、1人暮らしの高齢者向けに生鮮食品が小分けにして売られている。GGMでは編み物やパソコン教室、アマチュアミュージシャンのためのレコーディングスタジオなども組み込まれ、活動的な高齢者を引きつけるのに役立てている。
 現在、高齢者が店舗にいる時間は50%延び、使うお金も40%増えた。
 「お見合いサービス」という潜在市場すらある。越川玄さん(72)は首都圏に住む独身高齢者をつなぐ「三幸倶楽部」を16年間運営している。この事業は越川さんの趣味と言ってよく、利益は度外視されている。同氏は来年、全国6都市にサービスを拡大させる計画だ。
 シルバー市場の成長が認識されるにつれ、日本で最も注目されるようになったビジネス流行語のひとつが「終活」だ。これは人生の最終章に備える人々をターゲットにした商品やサービスが爆発的に増えたことからも明らかだ。
 ある9月の週末に開かれた「第3回 終活フェスタin東京」には宝飾店や旅行会社など50の企業や組織がブースを構え、会場には3400人が訪れた。イベントでは猫のようなマスコット「シュウキャッツ」が頭に「いきいき」と書かれた赤いはちまきを巻き、カメラの前でポーズを取っていた。
イベントに参加した朝日新聞は自伝の執筆を手助けするサービスについて説明した。このサービスは、99万9000円で記者が最初から自伝を書き起こしてくれるという内容だ。ある着物メーカーは火葬の際に身につける着物を宣伝していた。
 イベント会場では多くの人がハウスボートクラブの従業員から、あるクルージングの説明を聞いていた。このサービスでは、最終的に自分の遺骨を海にまいてほしいかを確認するため、乗客が偽物の遺灰を東京湾にまくことができるのだ。近くには散骨クルージングを提供する競合2社の関係者もいた。バルーン宇宙葬は26万円で、遺灰を彩り豊かな熱気球で天まで届けてくれる。
 企業はこうした商品やサービスを積極的に市場投入しているが、その一因は人口減少で家族が伝統的な墓を守るのがますます困難になってきたからだ。
 一般社団法人、終活カウンセラー協会の創設者で代表理事を務める武藤頼胡氏は商談のざわめきの中で、「単純に(考えて)、もちろん若い人がたくさんいた方がいい社会だとは思う」と指摘。
 「ただ、日本はもうこれだけ超高齢社会になっているのが現状だ。これを暗い社会だと思わないで、すごくネガティブにとらえない。そこにビジネスチャンスがあるかもしれない」

Friday, November 27, 2015

日本の安倍が経済政策を発表【A11面(国際面)】

11月26日に発表された「1億総活躍社会」実現に向けた緊急対策について、27日の紙面で速報した。



WSJはこれまで、アベノミクス第2フェーズについて、取り上げてこなかったが、ようやく政策が具体的になったため、今回初めて取り上げた。アベノミクスの第1フェーズで恩恵を受けたのが大企業だけだったという批判をかわすため、より多くの人達に恩恵が行くようにしたのが、「一億総活躍社会」実現を目指すアベノミクス第2フェーズだとしている。
それにしても、日本には1,000万人の高齢の貧困者がいて、その数は増え続けているそうだ。この記事は、これらの高齢者に対し、3万円の現金給付をすることになったということで締めくくられているが、日本の将来は大丈夫なのだろうか?

***** 以下本文 *****
この記事は次の様な書き出しで始まる。
「日本の安倍晋三首相は社会保障プログラムへの支出を増やし最低賃金を引き上げると述べた。これにより、彼は、来年夏の選挙の前に、停滞している日本経済を立て直そうとしている。」
「木曜日い安倍氏は政府は高齢の低所得者に補助金を出し、保育と介護のための施設を建設することにより、人々が働き続けられる様にすると表明した。これらは、約3兆円かかる景気刺激策の一部だ。」

暫く要約する。
アベノミクスの有効性を疑問視する声は広がっている。9月にアベノミクス第2フェースを発表したが、2020年までに20%経済を成長させるという目標について、多くのエコノミストが非現実的だと言っている。
これまでアベノミクスの恩恵を受けているのは大企業だけだという批判があったため、木曜日に発表された政策は方向転換している。安倍首相は、アベノミクス第フェースの目標は、より多くの人が参加し、経済活動から恩恵を受けることだと語った。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「成長への最も大きな障害の一つは、賃金の伸び悩みだった。最低賃金引上げが検討の土俵にあげられる見通しだ。安倍首相と日銀総裁は、ビジネス界に対して、彼らの記録的な収益をもっと労働者に分配する様に依頼してきたが、あまり成功していない。」
「政府また、約1,000万人いると言われていて、その数が増え続けている、所得の低い年金受給者に対し、一人当たり3万円の現金給付を行う。こうした人々は、給与の引き上げからは恩恵を受けない。彼らの収入は固定なので、価格が上昇した場合には、生活が苦しくなる。」

Tuesday, November 17, 2015

日本ではアベノミクスがうまくいっていない【A18面(社説)】

今こそアベノミクスを再考すべきだという社説が掲載された。

アベノミクスの効果により、失業率は3.4%と記録的な低さだ。本来であれば、失業率が下がり、労働力がひっ迫してくれば、労働者の給与が上がるはず。それがアベノミクスが目指していたことだが、実際には年功序列という独自の給与体系があるために、給与は上がらない。
また、アベノミクスの効果により、円安が進んでいる。本来であれば、企業は海外への生産移転を止め、国内への生産回帰は起こり、更に国内の労働者不足が深刻になり、労働者の給与があがるはず。しかし、ここでもやはり年功序列による硬直的な労働市場ゆえに、そうなっていない。
結局、アベノミクスによる得られた企業の利益増は、企業の内部留保を増やしただけで、年功序列という硬直化した制度により、それが消費力を増やすことにつながっていない。アベノミクスには、労働市場を解き放つという巧言があふれているが、安倍首相が本気で労働市場を改革しようとしている様にはみえない。アベノミクスは、「日本の古いシステムをてこいれする土壇場の努力」と断言し、安倍首相が本気で改革に取り組まない限り、安倍首相自身の政治生命は危ないとしている。
(WSJ日本版にほぼ同じ記事が掲載されていたので、以下の文章は日本版から引用させて頂きました。)
***** 以下本文 *****
日本は過去7年間で5度目のリセッション(景気後退)に陥っている。安倍晋三首相が3年前に政権に返り咲いてからは2度目のリセッションだ。首相は日本経済の停滞に終止符を打つと公約したが、その目標は達成できていない。今こそ再考の時だ。
 アベノミクスの「3本の矢」は、財政出動と金融緩和で始まった。その結果、日本の公的債務残高は年末までに対国内総生産(GDP)比250%に達する勢いだ。日銀は年間約80兆円規模の国債購入を実施しており、これは米連邦準備制度理事会(FRB)以上に急進的な量的緩和だ。それでも、銀行各行は融資を増やしておらず、デフレは続いている。
 3本目の矢である構造改革が、日本にとって持続的景気拡大の唯一の期待だった。電力・ガス業界の自由化や移民受け入れの幾分の拡大、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意などは構造改革の目玉と言える。
 しかし、首相が改革に向けた措置を一歩進めるたびに、片足は日本株式会社の政治経済学に突っ込んだままとなっている。2014年4月には首相は不本意ながら消費税率を3%引き上げて8%とし、政権発足後初のリセッションに陥った。より最近では、子育て支援や社会保障の充実を打ち出した。これは政治的には人気があるものの、経済的には効き目がない。
 首相はまた、正社員の解雇を難しくして年功序列の賃金体系を促している労働契約法の見直しにも失敗している。非正規雇用は不完全な一時しのぎに過ぎず、2層式の労働市場の効率の悪さは深刻だ。
 そのために日本の労働市場の緩みが覆い隠されることにもなっている。失業率3.4%という公式の数字は労働市場のひっ迫を示唆しているが、最近の雇用拡大はほぼ全てが非正規の雇用者で、総就業時間は減少している。
 また、円相場は12年以降で約30%下落しているものの、日本ではその恩恵はほとんど得られていない。輸出企業は為替差益分を内部留保に回し、円安によって日本人の消費力は奪われている。企業は生産の海外移転を継続しているが、それは一部には労働市場規制への埋め合わせの意味合いがある。
 労働市場を解き放つという巧言こそあふれているものの、改革の公約が果たされていないことは、実際にはアベノミクスが古いシステムをてこ入れする土壇場の努力であることが示唆されている。日本経済新聞社が実施した世論調査で、アベノミクスによって今後景気が「よくなると思う」との回答が25%にとどまったことも驚きではない。首相が真の改革を推進しなければ、近く、首相自身が行き詰ることにもなりかねない。

Monday, November 16, 2015

日本経済は更に縮小【A13面(国際面)】


7~9月期のGDPが2四半期連続のマイナスとなったという記事が国際面に掲載された。



GDPが伸びない原因を、高齢化、スキルのミスマッチ、移民規制による労働者不足にあるとしている。日本のマスコミにはないユニークな視点だ。

***** 以下本文 *****

この記事は次の様な書き出しで始まる。
「日本経済は2四半期連続で縮小した。これは、安倍晋三首相と彼が進める政策であるアベノミクスにとっての、最新の後退だ。」
「縮小は予測されていたが、縮小幅がここまで大きかったのは驚きだ。」
「経済活動の計測に最も広く用いられている数値であるGDPの第3四半期の下げ幅について、ウォールストリートジャーナルが調査した20名のエコノミストの予測の平均は、0.3%だった。」

暫く要約する。
7-9月期の下落は0.8%で、これは4-6月期の0.7%に続く、2期連続の縮小だ。これは安倍首相が直面する問題が大きいことを示すものだ。安倍首相は3年前に首相の座につき、前例のない金融緩和や、財政出動、構造改革によって日本経済の復活を試みたが、今のところ苦戦している、高齢化、教育格差、移民規制等による労働者不足も成長の足かせになっている。日本の失業率3.4%は他国から羨望の眼差しで見られているのだが。何人かのエコノミストは、2四半期連続のGDP縮小は「不況」と定義されるという。
安倍首相は9月にGDPを2020年までに20%伸長させると発表したが、多くのエコノミストはこの目標を非現実的だとした。政府は最近移民受入れ規則を緩和して、労働者不足を解決しようとしたが、まだ効果は出ていない。高齢化とスキルのミスマッチはもっと難しい問題だ。例えば、DeNAでは、ウェブ技術に精通した技術者を必要としているが、日本で採用可能なのは10%程度に過ぎない。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「熟練・非熟練にかかわらず、労働者不足は日本経済を痛めつけている。昨年の大和総研の調査によれば、2015年と2016年の2年間通算で、100万人の労働者が不足すると予測されており、GDPのコストを2%もしくは860億ドル押し上げる。」

Tuesday, November 3, 2015

日本はこの緑の旅行ブームに行き着くのに地衣類以上にかかる【A1面】

日本で苔がブームになっているという記事が1面に掲載された。


星野リゾートが企画した苔ガールステイが大好評、東大教授で苔マニアの樋口氏が北八ヶ岳で開催する苔ツアーも売り切れ状態、そして音楽業界で活躍した和田氏が始めた苔玉ビジネスが大ヒット。苔玉はニューヨークでも発売され、和田氏はレディー・ガガに苔のブラジャーを着て歌う様に薦めたそうだ。経済紙のくせに、こうしたバカバカしい記事を1面に掲載することがWSJのすごいところだ。

***** 以下本文 *****

この記事は次の様な書き出しで始まる。
「日本アルプスを登るハイカーの列の中で、アマノ・マヤさんはしゃがみこんで、拡大鏡を取り出し、森の地面を夢中で覗き込んだ。」
「『可愛い!』そう言った彼女は、苔の塊を手で撫で始めた。」
「それは、イワダレゴケだった。良くある種類の苔ではあるが、30歳の教師であるアマノさんにとっては嬉しい発見だった。彼女は、24人のファンと共に、苔鑑賞ツアーに初めて参加したのだ。彼らは、標高7000フィートの山道で花の無い植物を観察するだけでなく、時には長靴を履いて沼をかき分け、顕微鏡でコケを覗き込み、コケの講義を聴く。」
「苔が成長するのを観察するのは、東京大学教授の樋口正信の様な人々にとって、とても楽しいことだ。彼は、ツアーを開催し、苔に関する講義を行う。彼は、苔を愛でるのは、日本精神の一部だと言う。」

暫く要約する。
苔が、日本の旅行者の間で注目を集めている。星野リゾートは3年前に苔ガールステイを発売した。このパッケージは20代から40代の女性に人気で、当初は夏だけ発売していたが、今は通年発売している。日本蘚苔類学会の会員も増えている。
日本人の苔への愛着は歴史に根差している。森には1,800種類もの苔があるし、寺は苔の絨毯で飾られている。日本の国歌は、天皇の統治が永遠に続くことを「苔のむすまで。」と歌っている。
元音楽業界エグゼクティブの和田徳之さんは、苔玉作りのワークショップを開催し、好評を得ている。彼は、苔関連ビジネスを6年前に始めたが、今や売上は12万ドルにもなる。苔玉は、ブルックリンのガーデニングショップでも販売されている。和田さんはレディガガに、パフォーマンス中に苔で出来たブラジャーを着る様に薦めたが、返答が無かった。
樋口教授は、苔と地衣の違いについて教えている。日本では、、苔も地衣もコケと呼ばれることが多いので、その違いについてあまり知られていない。樋口教授が苔ツアーを行う北八ヶ岳には485種類もの苔が生息している。彼が開催した最初のツアーでは近所の別荘の住人しか参加しなかったのが、昨年は6回のツアーに250人もの参加者があった。「苔観察はオタクっぽいので、なかかな公に話せないが、ここには苔愛好家ばかりが集まるので話がはずむ。」と樋口教授は言う。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「苔関連のイベントは、屋久島の様な場所でも、出現している。屋久島の苔は、人気アニメ映画『もののけ姫』で使われた。」
「樋口教授は苔ブームに困惑している。ブームは、苔の性格とは正反対だからだ。彼は『私は口コミによる、静かな拡大を望んでいる。』と言う。」

東京とソウルは苦い不一致を終わらせることを目指す【A11面(国際面)】

11月2日に開催された日韓首脳会談について、3日の国際面で速報した。


会談の中心は慰安婦問題だったとし、慰安婦が強制的に働かせられたことに以前は疑問を呈した安倍首相が今回はその解決に強い意欲を示していること、朴大統領も年内の解決に強い意欲を示していることから、この問題の早期解決が実現されることに強い期待を寄せている様に読める。

***** 以下本文 *****
この記事は次の様な書き出しで始まる。
「日本と韓国のリーダーが、日本軍のために売春婦として働かせられた数万人の韓国及びその他の国々の女性についての争いを解決するために動き出した。」
「安倍晋三首相は、朴槿恵大統領との青瓦台での100分にわたる3年振りの首脳会談の後『両国はいわゆる慰安婦問題についての話合いを加速し、出来るだけ早く合意に至ることを目指すことで合意した。』と安倍首相は述べた。」

暫く要約する。

韓国での慰安婦についての怒りは両国関係を疲弊させてきた。韓国は日本は十分に謝罪していないとみている。朴大統領は、日韓国交正常化50周年を迎える今年の12月までにこの問題を解決させたいと述べた。また、安倍首相と朴大統領は北朝鮮に核兵器開発を中止する様に、米国と共に圧力をかけていくことでも合意した。
しかし、会談の中心は2万人とも20万人とも言われる慰安婦問題だった。日本は1993年に謝罪し、民間からの寄付による補償金基金を設立した。しかし、安倍首相は、以前、慰安婦が強制的に働かせられたことに疑問を呈した。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「何人かの専門家は、この発表を、安倍首相が不一致を出来る限り早く解消したいというサインだとみている。外務省の元高官であるミネ・ヨシキ氏は『安倍内閣はこの問題の交渉に乗り出すことに強い意欲をもっていることを明確にした。』と述べた。」
「いかなる合意も日本の犠牲者に対する補償金支払が含まれると、一般的に考えられている。両国の外務省高官は、2014年4月以降、この問題について9回の交渉を重ねている。」

Monday, November 2, 2015

アジアの大国は、サミットでの紛争をさける【A11面(国際面)】

11月1日に開催された日中韓首脳会談について、2日の国際面で速報した。


日中韓の首脳が、慰安婦問題や南シナ海問題などのこじれている問題に触れるのことは避ける一方、文化交流の推進、首脳会談の毎年開催などで合意したことを前向きに評価している様に読める。特に、南シナ海問題については、日米が共同歩調をとって、中国に対抗していくことい期待を示している。

***** 以下本文 *****
この記事は、次の様な書き出しで始まる。
「中国、日本、韓国のリーダーが、日曜日に2012年以来初めて、3ヶ国会談を行った。しかし、東アジアの経済大国の間の関係を冷えさせた幾つかの問題については、うわべを装うにとどまった。」
「中国の李克強首相、日本の安倍晋三首相、韓国の朴槿恵大統領は、3ヶ国間の自由貿易協定についての話し合いを加速させること、文化的交流を強化することなどで合意した。彼らは、中断している北朝鮮の核開発プログラムについての米国、ロシア、北朝鮮との話合いの再開、首脳会談を毎年の開催についても推進していくとも述べた。3ヶ国会談は2008年から2012年の間は毎年開催されたが、歴史問題や領土問題が3ヶ国間の関係を疲弊させ、開催が見送られてきた。」

暫く要約する。
日本の報道官は、3人のリーダーいずれもが、南シナ海問題には触れなかったと述べた。中国の李首相は、会談後、3ヶ国は、紛争の解決に誠意をもって取り組むことで大筋合意したと述べた。安倍首相は、記者会見で、3ヶ国は、地域の平和と繁栄と安定に大きな責任をもっていると述べた。この発言は、中国にルールを無視した現状変更を行わない様に釘をさすのが目的だ。

プサン国立大学のロバート・ケリー教授は、『安倍首相と朴大統領が同じ部屋に集まっただけでも進歩だと述べた。』日本と韓国は、月曜日に、慰安婦問題等の問題に、出来るだけ早く解決策を見出すことで合意した。

中国の王外務大臣は、日本が南シナ海の問題に関与しない様に求めた。

この記事は、次の様なコメントで締めくくられている。
「中国は、南シナ海問題を、日中間の問題に限定しようとしている。一方で、日本とアメリカは、南沙諸島での施設建設に対抗するため、より多くの国々を関与させようとしてきた。『私は日本が南シナ海に何の関係があるのか分からない。』と王外務大臣は述べた。」
「日本は、東南アジア諸国との貿易や、中東からの石油輸送を、南シナ海に依存している。日本は、また、中国の領土についての野望が東シナ海へ及ぶことを懸念している。日本と中国の間では、日本が支配し、中国が領有権を主張する東シナ海の諸島について、こう着状態が続いている。」

Saturday, October 31, 2015

** 10月のまとめ **

10月にWSJに掲載された日本関係の記事は、3件だった。このブログを開始してから最も少ない。

テーマ別では、社会関係が3件で、政治関係、経済関係の記事の掲載は無かった。これは、私がこのブログを開始して初めてのことだ。掲載箇所別では、1面が1件、国際面が2件だった。

WSJは1面下のコラム欄で、世界の面白い話題を毎日紹介しているが、この欄で「日本政府が100歳の誕生日に贈る銀の盃を合金に変えることを検討している。」ことを取り上げ、長寿大国日本が抱える問題を浮き彫りにした。

国際面で取り上げられたのは、「中国で日本人がスパイ容疑で逮捕された。」ニュースと、「白血病にかかった福島第一原発の作業員に初めて労災が認定された。」ニュースの2件。どちらも何故か安倍首相のリーダーシップが全く見られず、首相にとっては耳の痛いニュース。日本ではあまり取り上げられていないのは何故だろう。

それにしても、今月、政治、経済関係の記事が全く取り上げられなかったのは深刻だと思う。このままでは、日本は益々国際社会の中で、忘れられた存在になってしまう。安倍首相は、就任当初は、中韓に対して強いスタンスを取ったり、アベノミクスを打ち出したり、強いリーダーシップがみられ、WSJも連日その動きを報道していたが、ここにきて安倍首相が何をしたいのかが、日本国民にすら分からなくなってしまっている。そうしたことの反映だろう。




Wednesday, October 21, 2015

福島の労働者に癌の補償金が支払われる【A8面(国際面)】


福島原発事故の事後処理に従事し、白血病になった元作業員に労災が認定されたという記事が国際面に取り上げられた。


44,000人以上が災害後に福島原発の作業に従事し、そのうち15,408人が10ミリシーベルト以上の放射能を浴びたが、労災に認定されたのは、この男性が初めてだとしている。今後、認定者が大きく増えることを示唆して、この問題の深刻さを強調している様に読める。また、今回の認定について、東電も安倍首相も何らコメントを発表していないことも取り上げ、この件についての東電や政府の無力ぶりを批判している様にも読める。

***** 以下本文 *****

この記事は、次のような書き出しで始まる。
「破壊された福島第一原発で働いた建設作業者が、放射能を浴びたことによると考えられる癌に侵され、こうしたケースでは初めて補償金が支払われることになったと、火曜日に政府が発表した。」
「この男性の名前は公表されていないが、30代後半で白血病と診断されたと、厚生労働省は発表した。彼の現在の年齢や状況は明らかにされなかった。同省によれば、彼は外来治療を受けている。」

暫く要約する。

この男性は、震災直後から2013年にかけて18ヶ月の間、福島原発で働いた。厚生労働省によれば、彼の癌と原発との関係は明確ではないが、原発による被災を理由に補償金を受け取る最初の事例となった。彼の他に7人が癌と診断され、補償金を申請しているが、3件が拒否され、3件が審査中、1件は申請を取り消した。東京電力は本件に関するコメントを拒否し、安倍晋三首相は一切のコメントを出さなかった。
日本では、震災後稼働を中止していた原発が8月に再稼働し、数週間前には2つ目の原発が再稼働したばかりだった。
震災後44,000人以上が福島原発で瓦礫の処理や解体作業に従事した。そのうち15,408人が10ミリシーベルト以上の放射能に被災した。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「国連によれば、通常の生活をしている人々は一年間に2.4ミリシーベルトの放射能を浴びている。厚生労働省は、100ミリシーベルト以下の被災と癌との関係を証明するのは難しいと主張している。」
「同省によれば、補償金をもらうことになった男性は、原発で働いている間に15.7ミリシーベルトの放射能を浴びた。彼は他の原発でも働いており、全部で19.8ミリシーベルトの放射能を浴びた。」

Saturday, October 17, 2015

日本の長寿チャンピョンは銀すら勝ち取れないかもしれない【A1面】

日本政府が、100歳を迎えた国民に贈呈する盃を銀製から合金製に変更しようとしているという記事が、一面下のコラムに掲載された。


長寿国日本では、毎年30,000人もの国民が100歳を迎えていて、2050年には約680,000人もの国民が100歳以上になるのだそうだ。現在、100歳の誕生日を迎える国民には銀の盃が贈られているのだが、こうなると予算の関係で、合金製に変更する必要があるとのこと。

***** 以下本文 *****
この記事は、次のような書き出しで始まる。
「アイカワトモタロウさんは、第一次世界大戦が始まった月に生まれ、昨年100歳を迎えた。その後すぐに、安倍晋三首相から、記念行事でお酒を飲むための、銀で出来た浅くて小さい盃が、お祝いの手紙と共に送られてきた。」
「100歳の記念に杯を贈るのは、日本では50年以上続いている伝統だ。盃には祝福と長寿を意味する『寿』という文字が刻まれている。」
「しかし、国の財政状況の悪化を受けて、来年100歳を迎える人は、合金の盃をもらうことになるかもしれない。」

長い記事なので暫く要約する。

日本政府は100歳のお祝いの品を銀の盃から、トロフィーなどに使われている銅やニッケルや錫の合金製に変更するかもしれない。
政府が100歳の記念に銀の盃を送り始めたのは1963年だが、その時アイカワさんは49歳で、100歳以上の人は153人しかいなかった。いまや、毎年約30,000人もの人が100歳を迎えており、2050年には100歳以上の日本人は約680,000人に達すると予測される。日本の国債が膨んでいることもあり、このプログラムは見直しを迫られている。
大学教授や会計士など5名で構成される厚生労働省の諮問機関は、このプログラムを取り上げ、2名が完全廃止を、3名が抜本的な見直しを提案した。この提案を受けて、厚生労働省はこのプログラムの維持にかかる2億7千万円の予算を半減することを決定した。当初は、盃のサイズを小さくすることも検討されたが、盃の直径は3.5インチしかなく、厚生労働省は合金を使う案に傾いている。銀の盃のコストは約7,000円だが、合金だとその半分だ。
老人福祉団体などからは、銀の盃を維持すべきだという意見が出る一方、お年寄りからは、盃にかけるお金を福祉に回して欲しいという意見が出ている。アイカワさんは、101歳を迎えたが、盃は若い世代への負担となるので不要だと考えている。
そう言うアイカワさんも、既に十分な負担をしている。第二次世界大戦後シベリアに抑留され、帰国後は道路清掃でなんとか生計を立て、2度の癌の宣告も乗り越えてきた。シベリアで友人の死体を埋めたことに比べればその後の苦労はなんでもないと言う。東京で、孫娘とひ孫に囲まれて暮らしている。
日本人の平均寿命を引き上げているのはアイカワさんの様な人達だ。日本人女性の平均寿命は87歳で世界1位だし、男性も80.5歳で香港、アイスランドに続いて3位だ。今年4月に117歳で亡くなったオオカワミサコさんは世界最年長だっだし、現在の最年長の男性は112歳のコイデヤスタロウさんだ。日本人の長寿の秘訣は米、魚、野菜、豆などを中心とした食事と、運動だ。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「73歳のヒラノシゲルさんは、所属するゲートボールクラブでは若造だ。オフィスワーカーとして仕事をし、既に引退しているヒラノさんは、後27年生きたらもらえる盃は合金で良いと言う。『私は100歳を迎える人をお祝いすることには賛成ですが、一方で政府の予算が不足していることも理解できます。』」
「アイカワさんは次の様な提案をしている。『多分、政府は100歳の人達にお祝いの品を贈るのではなく、110歳の人達に贈ることを考えるべきでしょう。』」

Thursday, October 1, 2015

日本国民がスパイ容疑で逮捕された【A12面(国際面)】

30日に中国報道官が公表した日本人2名のスパイ容疑での逮捕について、1日の国際面で速報した。


この事件が、せっかく改善の兆しが見えてきた日中関係に冷や水を浴びせかける可能性があることを憂慮すると同時に、どちらの国も詳細を明らかにしないことに対する疑問を表明している様に読めるが、どうだろか?

***** 以下本文 *****

「中国は2人の日本人をスパイ容疑で逮捕した。今年予定されている首脳会談を前に、2国間の不安定な関係に更に問題を投げかけた。」
「『我々はこの2人が中国でスパイ行為をやっていたので逮捕しました。それがこの2人を結びつけていたのです。』と中国外務省スポークスマンの洪磊は水曜日に言った。」
「日本は逮捕について認め、5月に起きたと言った。2人は別々に逮捕された。1人は遼寧省で、 もう一人は浙江省で逮捕されたと、日本政府のスポークスマンである菅義偉氏は語った。また、菅氏は、日本は彼らの解放を求めているとも語った。」
「どちらの国からも詳細は明らかにされていない。」
「こうしたニュースが暴露された背景には、2012年に日本が支配していて、中国が領有権を主張している東シナ海について対立が深まって以来の、両国の険悪な関係がある。」
「今年になって、関係改善の兆しは見え始めた。中国の習近平主席と日本の安倍晋三首相は、4月にジャカルタで、比較的友好的な会談を行った。その席で両国は、今年、中国、日本、韓国による3ヵ国会談を行いたいと表明した。」
「中国、日本共に、2人の日本人が何の罪で逮捕されたのか、彼らがどうして中国にいたのか、彼らが男なのか女なのかのいずれも明らかにしていない。」

Wednesday, September 30, 2015

** 9月のまとめ **

9月にWSJに掲載された日本関係の記事は、10件だった。平均よりもやや少ない。

WSJはこれまでアベノミクスを賞賛する立場を取ってきたが、今月はトーンを一転させ、アベノミクス批判の記事が目立った。16日のS&Pによる日本債格下げ、25日の8月消費者物価2年4ヶ月ぶり下落、29日のインドネシア高速鉄道受注敗退、30日の8月鉱工業指数2ヶ月連続下落等、安倍首相の政策失敗を示すニュースを取り上げ、無策を嘆いている。特に16日のS&P格下げのニュースは力作なので是非読んでみて頂きたい。
安倍首相の自民党総裁再選のニュースや、アベノミクス第2ステージについても全く報道しておらず、安倍首相に興味を失ったかの様な感じだ。

テーマ別では、政治関係が3件、経済関係が4件、社会関係が4件だった。
政治関係では、安保法案関係が2件、日中関係が1件。
経済関係では、上述のアベノミクス失策関係が4件。
社会関係では、塚越寛氏の年輪経営、常総市を襲った洪水、空手のオリンピック採用の3件。

掲載箇所別では、1面が2件、国際面が8件だった。
1面で取り上げられたのは、いずれも世界の面白い話題を紹介する1面下のコラム欄で、「年輪経営」と「空手のその種目がオリンピックに採用されるか」という記事がユーモアを交えて取り上げられた。日本的経営と日本文化はアメリカ人の興味を掻き立てるのだろう。

日本の安倍は緊張がほぐれることを望む【A10面(国際面)】

安倍首相が29日にニューヨークのブルームバーグで行った講演について、30日の国際面で速報した。


この講演は機関投資家を対象にしたもので、内容もアベノミクス第2ステージを中心に行われたが、アベノミクス第2ステージは無視されて、質疑応答の中での日中関係についての発言だけが取り上げられた。
この記事の隣では、日中が激しく争ったインドネシア鉄道受注で日本が中国に敗退したことが掲載されているが、こうした件や、日本での安保法案成立、中国の南シナ海での活動等により、日中関係に改善の兆しはない。そうした中での安倍首相が日中関係改善に意欲を示したことに、期待を寄せている様に読める。

***** 以下本文 ****
「日本の安倍晋三首相は、隣国である中国とのあらゆるレベルでの率直な話し合いを含む、同国との関係改善を望むと述べた。」
「日本の議会は、9月に、同国の国際的な軍事力を拡大する法案を通過させた。法案により、日本政府は日本が攻撃されていない場合でも、国際紛争においてその軍事力を行使出来る様になった。これは、第二次世界大戦以降の70年の間で初めてのことだ。」
「中国が、軍事力を増強し、南シナ海における行動を増やしていることを、日本や他のアジア諸国は憂慮している。日本の動きに対して、中国は、日本政府に対し、地域の平和や安定を乱さないで欲しいと警告した。」
「安倍首相は国連総会出席のために、アメリカを訪れているが、火曜日にブルームバーグで講演を行い、日本と中国は関係強化のために努力すべきだと述べた。『日本と中国の間に友好的な関係、安定した関係を構築する必要があると申し上げたい。両国がそうした目標に向かって努力しなければならないと思う。』と質疑応答の中で述べた。」
「日本は、中国との海洋紛争に巻き込まれているアジアの多くの国々の中の一つだ。中国は2013年11月に新しい航空防衛ゾーンを設定したが、その中には日本が領海としている地域が含まれる。中国は、最近、南シナ海の領有争いがある島々で、埋め立てや施設建設などを行い、問題をエスカレーションさせている。」
「安倍氏は火曜日に、日本政府は中国の経済面での苦境にも注目していると述べた。」

北京がジャワの鉄道商談に勝ったと東京は言う【A10面(国際面)】

インドネシア高速鉄道計画に日本の提案が採用されなかったというニュースを30日の国際面で速報した。


日本の敗因は、インドネシア政府からの債務保証を求めた点にあるとしている。一方、中国政府の受注は、東南アジアにおける盟主が日本から中国へと変わったことの象徴だとしている様に読める。

***** 以下本文 *****
「インドネシアが、ジャワ島の50億ドルの高速鉄道プロジェクトについての提案に、日本案を退けて、中国案を選定したと、日本は述べた。インドネシア政府による予想外の方針変更を含む長いプロセスに終止符が打たれた。」
「この決定は中国政府にとっての勝利を意味する。中国政府は、東南アジアにおける日本の影響について挑戦している。日本政府は、東南アジアと長い間緊密な関係を築いてきた。最近、中国は東南アジアでの投資を増やしてきた。」
「中国の外務省のスポークスマンは、中国政府は中国国営鉄道とインドネシアの協力関係を支援すると述べたが、中国が受注したことには言及しなかった。」
「インドネシアの国家開発企画庁長官は、中国の受注について確認することを拒んだが、日本はインドネシアからローンに対するインドネシア政府による債務保証を求めており、それにより日本案は要件を満たさなくなったと述べた。」

弱い経済データが不況の危険を高める【A9面(国際面)】

経済産業省が30日発表した8月鉱工業生産指数速報は、プラス予想を覆す低下となった。WSJは同日の国際面で速報した。



日本が不況に突入するのを回避するために、安倍首相、黒田総裁に追加対策を強く求めている様に読める。

***** 以下本文 *****

「8月の日本の鉱工業生産指数は、2ヶ月連続で下落した。予想していなかった動きであり、世界第3位の規模を誇る経済が、ここ数年で2回目の不況に入る可能性が高まった。」
「この結果により、安倍晋三首相と日銀総裁が経済を活性化するための対策を講じるだろうというエコノミストの味方が更に強まるだろう。日本経済は、安倍首相の経済再生プログラムが約束した成長の兆しを殆どみせていない。」
「水曜日に発表された政府統計によれば、8月のボイラー、掘削機、自動車等の製品の生産は、前月に比べて0.5% 減少した。7月も0.8%減少していた。」

Saturday, September 26, 2015

どの空手種目がオリンピックで採用されるためのチョップをかますか?【A1面】

空手が、東京オリンピックで採用される新競技の一つになりそうだが、どの種目が採用されるかは微妙だという記事が、1面に掲載された。



空手は、大きく言って、コンタクト型(極真流、硬式空手)、ノンコンタクト(寸止め)型(日本空手連盟)の2つの流派がある。どちらがオリンピックに採用されるかは決まっていないが、笹川尭氏が会長の日本空手連盟が押すノンコンタクト型が、政治的に有利とする。WSJは、どちらかというとコンタクト型に同情的で、最悪でも両方が採用されることを望んでいる様に読める。

***** 以下本文 *****

この記事は次の様な書き出しで始まる。
「世界で最も人気のある武術の選手たちは、オリンピックでどの型が採用されるかを巡って戦っている。」
「空手は、2020年の東京オリンピックでのデビューを目指して戦う8つの競技のうちの一つだ。しかし、どの空手だ?国際オリンピック協会が応募することを認めた団体である世界空手連盟は、最低のコンタクトだけを認めている。しかし、数千万人の空手競技者が、パンチを認める他の流派に所属している。」

長い記事なので、暫く要約する。
こうした流派のリーダーたちは両方の型がオリンピックに採用される様にする使命を負っている。さもないと、世界中の多くの空手キッズ達の夢が消えてしまうリスクがあるからだ。
日本にとって東京オリンピックへの道のりは既に厳しい。日本政府は新オリンピックスタジアム(高すぎる。)とオリンピックロゴ(盗作の疑い)を諦めた。月曜日に迫る新競技の決定はもう一つの大きな試練だ。
空手は、過去3回オリンピック競技に選ばれるチャンスを逃してきたが、今回はオリンピックが東京で開催される上に、大物政治家が支援しており、大きなチャンスだ。多くの国で、オリンピック種目であることは、国から補助金をもらうための必要条件だ。

22歳の加藤さやかさんは、新極真会の世界チャンピョンだが、新極真会の空手は、最低限の保護防具で鋭いキックやパンチを繰り出すフルコンタクト型だ。彼女は「今更、他の型で戦いたくない。」と言う。日本フルコンタクト空手道連盟は、全世界で、ロシアのプーチン大統領を含む、約2千万人がフル空手をやっていると主張する。連盟の創設者は、素手で熊を殺したことで知られる。連盟は、昨年、フルコンタクト空手とノンフルコンタクト空手の両方をオリンピック種目にする様に陳情する100万の署名を集めた。

しかし、こうしたキャンペーンは、ノンコンタクト(寸止め)空手を押している国際空手連盟を動かすには至っていない。国際オリンピック連盟は、1999年以降、国際空手連盟を空手を代表する組織として認知している。同連盟は、相手に怪我をさせるテクニックを賞賛ことは、空手についての正しいメッセージにならないとし、90%以上の空手愛好家を代表していると主張する。

もう一つのオプションは、硬式空手、別名セーフコンタクト空手だ。競技者は、胸と頭に保護防具を付ける。この流派の創設者である久高正之空観は、ブルース・リーに空手を教えたことでも知られる。久高氏は、オリンピックの観戦者は、本当のコンタクトを見たいのであって、シャドーボクシングが見たいのでは無いと主張する。

コンタクト空手派は政治敵に不利だ。ノンコンタクトを代表する日本空手協会の会長は、長い間自民党議員を務め、右派の大金持ち笹川良一の息子である、笹川尭氏だ。笹川氏は森政権時代に大臣を務めたが、その森氏は東京オリンピック組織委員会の会長だ。

空手は、中国の武道の影響を強く受けて、沖縄で生まれた。1920年代に本土に紹介されてから、ノンコンタクト方式が生まれた。ライバルの流派からは、ノンコンタクトは欧州方式を取り入れていて、この方式では日本はメダルが取れないと主張する。フルコンタクト方式の支持者は、水泳やレスリングの様に、複数の空手種目がオリンピックで採用されるべきだとする。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「22歳の空手チャンピョンである加藤氏は、彼女が幼い頃からの夢が遂に叶うと思っている。幼い頃に空手を練習している時に、彼女は兄の力強いキックを見ていた。」
「『私は、私たちのルールで金メダルを取りたいのです。』と彼女は言う。」