今こそアベノミクスを再考すべきだという社説が掲載された。
アベノミクスの効果により、失業率は3.4%と記録的な低さだ。本来であれば、失業率が下がり、労働力がひっ迫してくれば、労働者の給与が上がるはず。それがアベノミクスが目指していたことだが、実際には年功序列という独自の給与体系があるために、給与は上がらない。
また、アベノミクスの効果により、円安が進んでいる。本来であれば、企業は海外への生産移転を止め、国内への生産回帰は起こり、更に国内の労働者不足が深刻になり、労働者の給与があがるはず。しかし、ここでもやはり年功序列による硬直的な労働市場ゆえに、そうなっていない。
結局、アベノミクスによる得られた企業の利益増は、企業の内部留保を増やしただけで、年功序列という硬直化した制度により、それが消費力を増やすことにつながっていない。アベノミクスには、労働市場を解き放つという巧言があふれているが、安倍首相が本気で労働市場を改革しようとしている様にはみえない。アベノミクスは、「日本の古いシステムをてこいれする土壇場の努力」と断言し、安倍首相が本気で改革に取り組まない限り、安倍首相自身の政治生命は危ないとしている。
(WSJ日本版にほぼ同じ記事が掲載されていたので、以下の文章は日本版から引用させて頂きました。)
***** 以下本文 *****
日本は過去7年間で5度目のリセッション(景気後退)に陥っている。安倍晋三首相が3年前に政権に返り咲いてからは2度目のリセッションだ。首相は日本経済の停滞に終止符を打つと公約したが、その目標は達成できていない。今こそ再考の時だ。
アベノミクスの「3本の矢」は、財政出動と金融緩和で始まった。その結果、日本の公的債務残高は年末までに対国内総生産(GDP)比250%に達する勢いだ。日銀は年間約80兆円規模の国債購入を実施しており、これは米連邦準備制度理事会(FRB)以上に急進的な量的緩和だ。それでも、銀行各行は融資を増やしておらず、デフレは続いている。
3本目の矢である構造改革が、日本にとって持続的景気拡大の唯一の期待だった。電力・ガス業界の自由化や移民受け入れの幾分の拡大、環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意などは構造改革の目玉と言える。
しかし、首相が改革に向けた措置を一歩進めるたびに、片足は日本株式会社の政治経済学に突っ込んだままとなっている。2014年4月には首相は不本意ながら消費税率を3%引き上げて8%とし、政権発足後初のリセッションに陥った。より最近では、子育て支援や社会保障の充実を打ち出した。これは政治的には人気があるものの、経済的には効き目がない。
首相はまた、正社員の解雇を難しくして年功序列の賃金体系を促している労働契約法の見直しにも失敗している。非正規雇用は不完全な一時しのぎに過ぎず、2層式の労働市場の効率の悪さは深刻だ。
そのために日本の労働市場の緩みが覆い隠されることにもなっている。失業率3.4%という公式の数字は労働市場のひっ迫を示唆しているが、最近の雇用拡大はほぼ全てが非正規の雇用者で、総就業時間は減少している。
また、円相場は12年以降で約30%下落しているものの、日本ではその恩恵はほとんど得られていない。輸出企業は為替差益分を内部留保に回し、円安によって日本人の消費力は奪われている。企業は生産の海外移転を継続しているが、それは一部には労働市場規制への埋め合わせの意味合いがある。
労働市場を解き放つという巧言こそあふれているものの、改革の公約が果たされていないことは、実際にはアベノミクスが古いシステムをてこ入れする土壇場の努力であることが示唆されている。日本経済新聞社が実施した世論調査で、アベノミクスによって今後景気が「よくなると思う」との回答が25%にとどまったことも驚きではない。首相が真の改革を推進しなければ、近く、首相自身が行き詰ることにもなりかねない。