2015年にウォールストリートジャーナルに掲載された日本関係の記事は、110件だった。2014年の180件に比べて約39%減。日本に関する関心が一気に薄れた感じだ。
テーマ別では、政治関係が39回(2014年は75回、約48%減)、経済関係が40回(2014年は62回、約35%減)、社会関係が31回(2014年は43回、約28%減)となっており、政治関係のニュースが激減した。
その政治関係では、安倍首相の政策が多く取り上げられ、なかでも安保法制や軍備増強を含む安全保障政策が好意的に報じられた。経済関係では、次第にアベノミクスへの失望感が強まり、年の後半では規制緩和等強い政策を求める論調が主流となった。軍事面では強いリーダーシップを発揮して大きな成果をあげたが、経済面では物足りない安倍首相が浮かび上がる。
日韓関係についても、継続的かつ詳細に報じた。WSJは、関係悪化の原因を朴首相の頑なな態度と慰安婦問題に対する日本の立場にあるとして、日韓双方に改善を求めていた。年末に慰安婦問題についての電撃的合意が実現した際には、社説を掲載し、歓迎の意を表したが、背景に詳しくない米国の読者が読むと、日本が慰安婦問題への軍の関与を認め、謝罪したかの様な印象を抱かせる記事になってしまったのは残念。
社会関係では、高齢化や女性の社会進出に加えて、原発関係への関心が高い。3.11の前後には特集記事を組み、4月の高浜原発稼働再開禁止仮処分、10月の福島第一原発作業員への労災認定など、大きな事件があるたびに、継続的に取り上げた。
最も掲載回数が多かったのは、8月の18回だが、この月は原発が再稼働された月だ。また、戦後70年ということで、70年談話、靖国関係の記事に加え、これまであまり取り上げられることのなかった原爆関係の記事が4件も取り上げられたのが印象的だった。
掲載箇所別では、1面が15回(2014年は25回、約40%減)、国際面が87回(2014年は125回、約30%減)意見欄が7回(2014年は24回、約71%減)、その他が1回(2014年は6回、約83%減)となっている。
これらの110件の記事の中から1面に掲載された15件の記事を詳細に分析し、昨年同様「WSJが選んだ2014年日本の十大ニュース」を、独断と偏見で選んでてみたいと思ったが、2015年は1面に掲載されたいわゆる「重大ニュース」と言われるものが4件しかなく、「十大」ニュースが成立しなかった。
1面に掲載される記事には、連載物やインタビュー記事などのいわゆる「企画もの」と、重大性や緊急性を考慮した「重大ニュース」がある。今年1面に掲載された記事15件のうち、「企画もの」は11件(2014年は9件、約22%増)と増加したが、「重大ニュース」は4件(2014年は16件、75%減)と激減だった。ここに2015年の特徴が顕著に現れている。
重大ニュース4件は下記の通り。順位は昨年同様回数と掲載時期(掲載時期が早いもの程上位)で決定した。
1位: ホンダの社長交代(1件 - 2月)
2位: 日本の米国国債保有残高再び1位に(1件- 4月)
3位: 安倍首相訪米(1件 -4月)
4位: タカタのリコールが米国史上最大のリコールになる見通し(1件 -5月)
5位以下 なし)
重大ニュースが掲載されたのは、2月が1件、4月が2件、5月が1件で、6月以降は1面を飾る日本関係の重大ニュースは皆無だった。2015年の後半は、日本から世界に影響を与えるニュースは発信されなかったことになる。
一方で、企画もの11件の内、8件は、世界の面白いニュースを取り上げる1面下のコラム。その内6件が9月以降の4ヶ月に集中した。2015年の後半は、重大ニュースに代わって日本のユニークな文化や習慣が1面で大いに紹介されたということだ。政治、経済面で世界に影響を与える国から、文化的にユニークな不思議の国に逆戻りした感じだ。
企画もの11件の内、残り3件はソニー、サントリー、ソフトバンクといった企業の特集だった。1面に掲載されるWSJの企業の特集記事は独自の取材に基づく力作が多く、日本の企業が3社も取り上げられたことをみると、まだまだ日本の経済力は捨てたものではない。
ちなみに、読売新聞の読者が選んだ2015年の重大ニュースの上位5つは次の通り。
1位: ノーベル賞に大村、梶田氏
2位: ラグビーW杯、日本は3勝の歴史的快挙
3位: 「イスラム国」が日本人2人を拘束、殺害映像を公開
4位: マイナンバー制度がスタート
5位: 関東・東北豪雨、茨城などで8人死亡
WSJ,、読売双方のトップ5に入っているのはニュースは無く、3位のイスラム国、5位の豪雨以外のニュースは、1面以外でもWSJでは全く取り上げられなかった。
アメリカから見た日本と、日本からみた日本には、微妙な違いがあり、面白い。