A1面とA12面の殆どを割いて、スプリント改革に取組む孫正義氏の奮闘振りが、写真やグラフ入りで詳細に報道されている。彼の感情むき出しの経営スタイルは、最初は理不尽に捉えられていた様だが、次第にスプリント従業員に受け入れられつつあり、従業員の意識を変えつつあるようだ。同世代の日本人経営者が1面を飾るのは、私にとっても嬉しい。
冒頭、孫氏の理不尽な言動を紹介。日本人にはよく分かるが、米国人にはよく分からない上司と写るだろう。
「ソフトバンクの孫正義社長(56)は10月に行われた傘下の米携帯電話3位のスプリントとの会議で、同社の広告では十分な新規顧客を呼び込めないとして激怒した。」
「『おまえは馬鹿か。』昨年、約220億ドル(約2兆2500億円)でスプリントを買収した孫氏はこう怒鳴ったという。その場に居合わせた3人の関係者が明かした。孫氏はスプリントに全広告代理店との契約を解除し、一からやり直すよう提案した。」
「関係者の1人によると、スプリントの一部幹部が後で、広告契約を取り消すことなどできないと孫氏に話したという。」
そして、孫氏のこれまでのスプリントの経営について詳細に説明し、彼が自分の猛烈ぶりに比べて、スプリントのやり方があまりにスローであり、スプリントのカルチャーを変えねばならないと考えている強調する。
「ソフトバンクの関係者の1人によると、孫氏はひそかに『スプリントはカンザスの大名だ。』と言い、『それでは十分とは言えない』と話している。日本の封建時代の大名は自らの領地では絶対的権力を振るっていたものの、それ以外の場所ではほとんど影響力を持たなかった。」
大名を例に持ち出す孫氏は、米国人からは奇妙に見えるのだろう。さらに孫氏のワークスタイルが米国人から奇妙に見える例をあげる。
「孫氏はアップルやグーグルの本社に近いシリコンバレーの都市、カリフォルニア州サンカルロスに『影の本社』を設けている。ソフトバンクの東京とサンカルロスの両オフィスを訪れたことのある人物によると、同社が借りた4階建ての2棟のビルには東京の孫氏の重役室を再現した噴水と畳部屋付きの一室があるという。」
「孫氏はまた、日本から約1000人の社員をスプリントに投入。彼らはスプリントの業績反転と、ソフトバンクが日本国内でも使用できるような新サービスの開発に努める計画だ。」
「孫氏はこれまでも厳しい発言や並外れた野心で知られてきたが、同氏の戦略は突然で、スプリントにとっては時には厄介な変化でもある。これほどオープンに課題を突きつけられることに慣れている幹部や社員はほとんどいない。」
変な日本人上司がやってきて、カルチャーショックで右往左往する従業員が目に浮かぶようだ。
その後、記事は、孫氏が、米国人に理解出来ない面と、米国的な面を両方併せ持っていることを示す事例を幾つかあげる。スプリント会長である孫氏とCEOのヘッセ氏の関係や、2人の幹部の退職等について、詳しく述べた後で、次の様な事例を紹介する。
「孫氏を支持する人々は、孫氏は批判するのと同じくらい頻繁にほめるし、時には社員を抱きしめることもあると指摘する。感情がむき出しになることはいつものことで、スプリントで続く業績反転努力はスプリントとソフトバンクからのインプットによる共同作業だ、と両社の社員たちは話す。スプリントとソフトバンクの社員によると、進展の兆候の1つは、マネジャーたちは毎回の会議で、最も恐れる質問を孫氏から尋ねられる前に準備するようになったことだ。」
「スプリントの最高技術責任者(CTO)のスティーブン・バイ氏は、『事業に深くかかわり、事業に大きな興味を抱く会長がいることは企業にとって非常にポジティブだ』」と話している。
感情をむき出しにする変な日本人ではあるが、それが意外にも米国人に良い影響を与えているようだ。
その後、この記事は、孫氏が、ソフトバンクの業績回復を達成したことを詳細に説明した上で、その猛烈な働き方を紹介する。
「ソフトバンクの法人営業部門を統括する取締役常務執行役員の今井康之氏は、孫氏は望むことを手に入れるためにはごり押しもいとわないと話す。今井氏が10年ほど前に、ソフトバンクのブロードバンドネットワーク構築のスピードアップを任されていたとき、孫氏が最新の情報を聞くため毎日午前2時にやってきたと今井氏は振り返る。孫氏は今井氏に朝までに何を完了すべきか伝えたという。約1年半の間、今井氏は月曜日には1週間分の洋服を持って出社した。今井氏が帰宅したのは日曜日だけだった。」
午前2時に部下の所へやって来て、朝までに完了することを指示するとは、すごい。そして、今では、時差を利用して24時間働くことを幸せと言っているそうだ。本当にすごい!
「孫氏は1月にツイッター上でこうつぶやいた。『幸せだなあ。何時でも仕事がバリバリ出来る。日本とニューヨークの時差が14時間、サンノゼの時差が17時間。何時に目覚めても仕事相手が24時間いる。24時間、仲間がフルスピードで動いている』」と。」
その上で、孫氏の最近の猛烈ぶりを、示す沢山の逸話を紹介する。スプリント買収を1ヶ月で買収しろと言った話、携帯通信網を丸ごと刷新しろといった話、日本からソフトバンク従業員1,000人を駐在させろと言った話、コンピュータデータを使って成績の悪い従業員を叱咤激励する話、米国の行政認可の遅さにいらだつ話等々である。
そして、ソフトバンクの独特の会議スタイルについても触れる。
「孫氏はまた、日本ではソフトバンクの特徴として知られている騒々しい会議スタイルを持ち込んだ。社員同士が注目を得るためにしのぎを削るスタイルだ。東京で行われた最近の戦略会議では、エンジニアや経理、販売の各スタッフ、さらには部外者までが大声を出し、机に拳をたたきつけた。」
「孫氏も口をはさむのが容易ではなかったと藤原氏は振り返る。会議に出席していたソフトバンクの関係者は、スプリントの幹部は当惑したように見えたと話す。最近ではスプリントの社員もシリコンバレーでの会議の際には以前より大きな声で発言するようになっている。その一方で、ソフトバンクの社員の発言は減りがちだ。孫氏やスプリントの幹部に十分対抗できるほどの英語を話すソフトバンクの社員はほとんどいない。とりわけ、米国の携帯電話市場の話となればなおさらだ。」
次第に、スプリントの米国人従業員も、孫氏の猛烈なやり方に慣れてきて、それを楽しむ心の余裕が出てきた様だ。また、孫氏が、実は極めてリーゾナブルな人間であることも、次第に分かりつつある様だ。
「カーター氏は最近の会議で孫氏と意見を異にしたが妥協点に達したと話す。孫氏は『自分がすべての答えを持っているとは考えていない。』」とカーター氏は言う。『正しい事実が提示されれば、彼は自分の考えを変えることを厭わない。』」
米国人にとって、奇異に写る、孫氏の次の様な行動も、好意的に受け取られていて、孫氏の可愛らしい側面として理解されている様にも感じる。
「スプリントの社員はまた、孫氏にとって小さなことがしばしば大きな意味を持つことを学びつつある。ある従業員が30ページを超えるプレゼンテーション資料をネットで配信した際、孫氏は素早く要点が把握できるように、もっと凝縮する必要があると指摘した。」
「米衛星放送大手のディッシュ・ネットワークによるスプリント買収案を撃退するための昨年の会議で、孫氏は株主向けのプレゼンテーション資料にあったディッシュ側の提案を表した棒グラフを赤くするよう主張した。その理由は、ビジネスの世界では、『赤』はマイナスイメージを呼び起こすからだという。孫氏の発言を聞いた関係者が明かした。」
そして、最後には、孫氏の戦う姿勢が、スプリントの従業員を変えつつあることを示唆して、記事を締めくくっている。
「バイ氏は『豊富な議論がされている。』としたうえで、『マサは勝てると信じている。彼はナンバーワンになりたいと思っている。』と述べた。それはスプリントが『自分たちの自信を取り戻す。』」ことに役立っているという。」
日本的な経営スタイルでも、熱意があれば人を動かせるということか。孫氏は、同世代のビジネスマンであり、是非成功して欲しい。