国際面で日本の大手企業がベア実施に動いていることを報じている。
まず、大手企業が、安倍首相の要求に応えて、ベア実施に踏み切ったことを報じる。
「手元に豊富なキャッシュを抱える自動車メーカーが先陣を切り、日本の多くの主要企業が12日、相次いでベースアップ(ベア)実施を発表した。ベア実施は世界的な金融危機以来初めてで、安倍晋三首相が掲げるデフレ脱却のための政策を支えることになろう。」
しかし、中小企業には、安倍首相の要求に応える余裕は無い。
「だが安倍首相にはまだ口説かなければならない相手がいる。茨城県日立で操業する関プレスの関正克社長のような経営者だ。トヨタ自動車や日立製作所などがベア実施を発表した一方で、従業員85人のこの精密プレス専門メーカーは賃上げを行わない予定だという。」
「関社長は『賃金は大事だ。よくわかっている。』としたうえで、『だけど、実際に売り上げや利益、収益が伸びたときにしか上げることができない。』と話す。」
大手企業、中小企業の対応を説明した後、もう一度安倍首相及びそれを支える大手企業の見解をまとめる。
「安倍首相は昨年、下がり続ける物価と上がらない給料に悩み、企業経営者に賃金の引き上げを訴えた。これは企業寄りの政策で知られる自民党の政治家として驚くべき行動だった。」
「トヨタ自動車で総務・人事を担当する宮崎直樹専務役員は12日、4月から始まる新年度の賃金がベアと定期昇給で2.9%増える賃上げを発表した際、『経済の好循環に向けて果たすべき役割がある。』としたうえで、『賃金引き上げの流れが各方面に及んでいくことを期待している。』と述べた。」
そして、中小企業の厳しい実態を日立市の例を幾つかあげて説明する。
「それを実現するための課題は、日立製作所の社名の由来となったことで知られるこの工業都市で歴然としている。日立の従業員は月額2000円のベアと気前の良い一時金がもらえることになったが、日立市で働く他企業の労働者の多くが同じような待遇を受けるにはまだ時間がかかりそうだ。」
「日立向けにネジやボルトなどの留め具を供給している赤津工業所の赤津浩志常務取締役(33)は、日立と同じ水準のベア実施はできないと話す。同社の6人の従業員がもらえるのは多くともその半分くらいだという。」
「この地域は過去数年間、こうした待遇の不均衡に苦しんできた。日立の工場は原子力発電を含む発電設備の製造に特化している。だがこの事業は2011年3月の東日本大震災以降、大部分が干上がってしまった。大震災では関プレスの工場の車寄せに深い亀裂が生じたほか、震災で発生した津波は、日立から北へ160キロも離れていない福島第1原発を壊滅させた。」
ウォールストリートジャーナルは、安倍首相の経済政策が、円安に頼りすぎていることを再三批判しているが、この記事では、円安は大手企業を潤しているが、中小企業にはむしろマイナスとしている。
「アベノミクスの『3本の矢』の1本――円安につながった金融緩和――は自動車メーカーをはじめとする輸出企業の利益を押し上げた。だが円安は実際、大手製造業の多くのサプライヤーを痛めつけてきた。原材料の輸入費用が高くつくからだ。こうした企業は顧客からの値下げ圧力にも常にさらされている。」
「さらに懸念されるのは、消費税率が4月から8%に引き上げられることだ。」
そして、日立市の例をもう一つ加える。
「日立市の中心部で女性用衣料店を営む前澤邦夫さん(72)は近くにある日立の工場の従業員の賃上げで受ける恩恵はあまりないと見ている。」
「前澤さんは『私が思うに、(消費に)変化はないだろう。』と話し、『銀行にお金を持っている人はいる。でも将来への不安から使わない』と続けた。」
更に、2008年以降ベアが無かったが、定期昇給があったため、一般社員の給与はそれ程悪くは無かったことを説明する。これは、ベアを企業に要求する安倍首相の政策の誤りを指摘しているのだろうか?
「日本の雇用主は基本給の引き上げに特に二の足を踏んできた。正規社員の解雇が難しいことや、労働組合に加入する従業員はすでに年功序列による自動昇給を得ていることもその一因だ。トヨタではこの定期昇給にあたる『賃金制度維持分』を組合員1人平均月7300円とし、ベアは平均月2700円と回答した。定昇とベアで2.9%の賃上げだ。」
「ほとんどの企業の場合、最後にベアを実施したのは08年かそれ以前にさかのぼる。雇用主はこれまで、業績が厳しいときはより容易に撤回できる一時金の引き上げを実施する傾向があった。」
「ただ、この定期昇給があったために、多くの一般社員の給料は、基本給が示唆する水準よりは良かった。」
「経団連の調査によると、一般社員の給料は一時金を除き、この10年間は年率約2%ずつ上昇してきた。一方、この10年のほとんどの期間で物価は横ばいか、もしくは下落した。」
最後は、安倍首相は企業の基本給引上げに対応して、法人税率引下げ等で応えているが、多くの経営者が来年以降について不安を感じていることを示唆して、記事を締めくくっている。
「安倍首相は企業の基本給の引き上げを後押しするため、復興特別法人税の1年前倒しの撤廃を決定し、法人税の負担軽減に動いた。法人税率は4月に38.01%から35.64%に下がる。」
「甘利明経済再生担当相は記者団に対し『雪だるまの最初の一押しができつつある」と述べ、「期待以上に企業側に応えていただいた。』と発言した。」
「だが、安倍首相の賃上げ要請に応じた経営者の中にさえ、来年以降について不安を感じている人はいる。」
「ローソンの新浪剛史社長は『今年はベースアップ、ボーナスアップはできる。問題はこれがサステイナブルかどうか。』だと語った。
結論として、安倍首相の賃上げにより景気高揚策に対して、懐疑的な目を向けているように感じた。