Saturday, May 24, 2014

日銀総裁は安倍首相に計画の実行を迫る【A1面】

一面トップに、黒田日銀総裁へのインタビュー記事が掲載された。かなりの紙面を割いており、破格の扱いだ。

安倍首相が、黒田氏の進める金融政策に頼りすぎで、経済の構造的変革に取組まないことを、黒田氏の発言を引用して、強く批判している。

この記事は、次の様な書き出しで始まる。
「日本の中央銀行のトップは、世界第三位の経済の活力を吸い取ってきたデフレ撲滅の戦いに勝利すると予言した。しかしながら、政府がやるべき、官僚主義の撲滅や企業投資促進について、政府の取組みのペースが遅いことに苛立ちを表明した。」
「『実行が鍵だ。そして実行が迅速であるべきだ。』ウォールストリートジャーナルとのインタビューで黒田東彦日銀総裁は語った。政府と民間部門で実施すべき仕事が沢山ある。」

大変に長い記事なので、下記に要約する。

黒田氏は、「安倍首相が、金融政策にのみ頼るのではなく、構造的な変革に取組まない限り、高い成長率は望めず、経済にとっても、社会にとっても良いことにはならない。」と安倍首相を批判する。
一方で、安倍首相は、ウォールストリートジャーナルとの別のインタビューで「既にこれまで規制で守られてきた分野に揺さぶりをかけてきたし、6月には追加施策を発表する。小売電気市場の完全自由化を果たしたし、40年もの間、手をつけられなかった米の減反助成金についても廃止した。こうした改革は、これまで不可能とされたきた。構造改革は、安倍政権にとって終わることにないテーマだ。」として、変革に積極的に取組んでいることをアピールした。

黒田氏は「円高はこれまでに得た利益をだいなしにする。」とも発言。これまでの日銀総裁は、為替について言及することはなかったので、この発言は、彼が、これまでの日銀の縄張り以外にも取組むという強い決意を示している。
黒田氏は、海外からの労働力の受け入れ、女性の社会進出にも積極的に発言しているし、負債の削減についても、企業の所得減税には慎重であるべきと踏み込んだ発言をしている。
黒田氏の言動は、こうした分野での変化への努力に成功を与えるかもしれない。

しかし、一方で、安倍首相は、既得権に守られた産業に考慮して、米国からの豚や牛の関税撤廃の要求を拒否し、TPP交渉の進展を遅らせている。
円安は、輸入品価格の上昇により価格下落を止めたし、円安により、輸出業界は製品競争力を高めることができた。だが、最近、昨年の円安傾向が反転する兆しが見えている。

日本のGDPは6四半期連続で成長しているし、消費増税の影響も予測したほどはなかったし、消費者価格も上昇している。
それでも多くの投資家は日本の成長が長続きすることに懐疑的だ。日経平均は今年になって10%値下がりしている。
金融政策は、期待した効果をもたらしているが、変革のペースが遅いのだ。

黒田氏は、これまで、アベノミクスの3つの矢の最初の矢である金融政策以外へのコメントは控えてきた。
しかし、金融政策に自信を示しつつも、経済成長率の低さにも言及する。
「来年には2%のインフレを達成できる。もし、進展が遅ければ、更なる金融緩和策を打つ。一方で、中期的な潜在的成長率は1%以下だ。工場の海外流出と人口減少によって、成長率は低い。成長率を上げなければ、2%のインフレだけ達成されて、成長は不十分のいう事態になりかねない。」

日本は80年台のバブル崩壊以降、20年間ものスランプに陥った。
日本は、デフレに直撃された唯一の先進国だ。安倍首相は、2012年の首相選挙で、日銀がデフレ撲滅に取組まないことを非難し、当選後、黒田氏を日銀総裁に据えた。
黒田氏は、就任初日に「デフレが15年も続いた国はない。」と語り、それ以降、日本の中央銀行は、積極的な政策に取組む様になった。

黒田革命の背景には、心理を変える必要があるという信念がある。
デフレ思考下では、企業は投資しないし、個人は消費しない。そうした思考を変えて、企業投資、個人消費を誘導することが重要だ。
歴史を見ると、短期間でインフレへの期待が高まった事例はそう多くはない。大胆な政策の変更に裏打ちされる必要があるとして、ルーズベルト大統領のニューディール政策等を例に出した。

苦しい中でも陽気な態度を失わないルーズベルトのスタイルが、黒田氏のお手本の様だ。前任の白川氏が学者タイプだったのと対照的だ。
黒田氏は、経済から、アガサクリスティ、哲学に至る幅広い分野に興味を持っており、彼が実験を恐れないのはそのためだ。高校時代にカールポッパーに魅せられ、日本語に翻訳し、昨年の再版時にはあとがきも書いた。「反証が、理論に忠実であることより、柔軟であることが重要であることを私に教えてくれた。」

4月30日に日銀は、2015年度のインフレ率を1.9%、2016年度のそれを2.1%と予測した。多くのアナリストはそれ程楽観的ではなく、来年は1%程度とみている。
日銀内部で過去17回の取締役会で彼の提案が拒否されたことは無い。しかし、9人のうち3人が常に黒田氏の予測に批判的だ。
彼の予測に対する懐疑的な見方に、黒田氏は、懐疑論は日本経済の変革を妨げるだけとして切り捨てる。

最後は、次の様なコメントで締めくくっている。
「『徐々にではあるが、インフレへの期待は高まっている。それは既に賃金や企業による価格設定に影響を及ぼしている。』と黒田氏は、ジャーナルとのインタビューで発言した。」
「『楽観主義が芽生えてきているが、これは安倍首相が長期的に日本経済の効率性を上げるための難しい変革を実行するための基盤を作っている。』堅調な労働市場と、賃金と価格上昇を引き合いに出して黒田氏は言う。『私は、これは、構造改革のための願っても無いチャンスだと心から思います。』」

一般的に、アメリカ人は、変革に積極的で、自らリスクをとり、明るく、思ったことを口に出す、黒田氏の様なタイプの人間が好きだと思う。ウォールストリートジャーナルの彼に対する期待は高いと感じた。