「中国の世界」といシリーズ記事にまた日本と中国の対立に関する記事が掲載された。南京事件を認めない日本と、南京事件を国民の記憶に植えつけようとする中国の、どちらもおかしいとした上で、地域の安定のためには、日本、中国共に冷静になって欲しいと言っている様に感じる。A12面(国際面)の記事。
この記事は、「北アジアの政治は歴史的な記憶で形作られている。中国においてはそうした記憶は、日本に対する嫌悪感で満ち溢れている。」という書き出しで始まり、そうした記憶形成には、国営放送や学校教育に加えて、南京博物館における南京大虐殺の展示も大いに寄与しているとしている。
「南京博物館の証言の広間は、地獄への80階段と言われる長い階段を下りた所にある部屋だが、そこには、白黒写真が証拠として陳列されている。口にタバコをくわえた若い中国人の切り落とされた首の写真、日本兵が服を脱がせようとして、苦悶と当惑の表情を浮かべる年老いた女性、揚子江の川岸へと打ち寄せられる沢山の裸の死体たち、こうした写真が3.500枚も陳列されているのだ。」
「毎年、500万人もの訪問客がこの階段を下りる。中には、学校の生徒達の集団もある。」
学生を含めた500万人もの中国人が毎年、日本人による虐殺の写真を見ているのだから、確かに南京博物館は、中国人の間に日本人への敵対心を形成することに寄与してきたのだろう。
日本では、この博物館の展示写真は偽者であるという主張が多く見られるが、ウォールストリートジャーナルは、下記の様に述べる。
「中国は、30万人が大虐殺で殺されたと主張する。これに対し、多くの日本の歴史家は。中国の死亡者数は間違っていると主張している。しかし、大規模な犯罪があったことは明白だ。」
諸状況からみて、日本軍が大規模犯罪を犯したことは明白として、日本に対して手厳しい。
一方で、中国に対しても、厳しいコメントが続く。南京博物館の展示は、共産党の維持が目的で、動機が不純と言っている。
「こうしたつらい記憶を活かし続けることは、共産党にとっての幾つかの目標に貢献する。こうした悲惨な状況から人民を開放したのは共産党であることを強調し、その正当性を強化するのが目的の一つだ。また、人民の不満を共産党からそらし、外敵や外からの脅威へ不満が行く様にすることがもう一つの目的だ。」
特に、天安門事件以来、マルクス主義に代わるイデオロギーとして、反日を利用しているということの様だ。
「1989年に政府を転覆しかけた天安門事件の後に、外国による脅威の歴史をことさら強調しようとしたのは単なる偶然ではない。天安門事件以来、マルクス主義を捨て、市場主義に走った中国にとって、イデオロギーの空白を埋めるためのナショナリズムの精神的中核となったのが、外国による脅威の強調なのだ。」
最後に、毛沢東は、革命に勝利をもたらした勇敢な中国人の話が好きだったが、今の中国共産党は日本軍の犠牲になった可哀想な中国人の話が好きだという、猛烈な皮肉で記事を締めくくっている。
「毛沢東は彼の時代の中国について、全く異なる物語を語った。彼は、革命の勝利をもたらしたヒーロー達の物語が好きだった。日本の蛮行は、こうしたエピソードの中では語られなかった。しかし今は、国家についての新しい物語では、勝者は犠牲者となったのである。」
南京事件が無かったとする日本の主張はおかしいと明確に主張した上で、いつまでも南京事件の記憶を国民に思い出させ日本への嫌悪感を煽る中国の姿勢もおかしいとして、お互いに冷静な対応を求めている様に感じる。