Friday, July 7, 2017

日欧EPAが発する警告【A14面(社説)】

7月6日、日本とEUが経済連携協定で大枠合意に達したが、WSJはこのニュースを翌7日の社説で取り上げた。

トランプ政権が保護主義的な政策を続ければ、貿易問題でのリーダーシップを失い、米企業や消費者が受けるはずの利益を他国に奪われかねないと危機感を示いている。
トランプ大統領はTPPから離脱したほか、EUと進めていた環大西洋貿易投資連携協定(TTIP)の交渉も凍結したとした上で、日欧EPAによって米農産物の輸出拡大が狙えた日本市場を欧州の農家に奪われたと指摘。トランプ政権が多国間ではなく2国間の貿易交渉を優先する方針に関しても、鉄鋼などを対象とした米国の保護主義政策が世界貿易機関(WTO)で争われることになれば、交渉を進めること自体が困難になろうと批判した。更に、TPPが、米国抜きの11カ国で発効すれば、米国は高い代償を支払うことになると警告している。
(WSJ日本語版に同様に記事が掲載されていたので、同記事を引用させて頂きました。)

***** 以下本文 *****
日本と欧州連合(EU)の首脳は6日、貿易品目の99%について関税などの貿易障壁を撤廃することで大枠合意に達したと発表した。撤廃は長年かけて段階的に行われ、一部の障壁も残るが、食品市場の開放に消極的な日本と日本車の自由な取引に抵抗を示してきた欧州は難題を克服したことになる。この日欧の経済連携協定(EPA)を「チーズと車の交換(カーズ・フォー・チーズ)」とやゆする人たちもいるが、その効果は二者間貿易よりも広範囲に及ぶ。
 とりわけ、この取り決めにはドナルド・トランプ米大統領へのメッセージが込められている。トランプ氏は、環太平洋経済連携協定(TPP)から脱退し、EUとの環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)の交渉を中断している。米国が参加しようがしまいが、世界中で貿易は続く。米国がTPPにとどまっていれば、米国の農家や輸出業者は日本への販売増加を享受できた可能性があるが、そのチャンスは今や欧州に与えられている。
 一方、トランプ政権は、1962年に制定された法律のよく知られていない条項に基づいて、鉄鋼などの製品に報復関税を課すことを検討中だ。これは、米輸出業者に対する報復関税や世界貿易機関(WTO)への提訴を招く可能性があり、外国市場を米国製品に開放させるのが一段と難しくなる可能性がある。
 他国が広範な貿易協定を追求する一方で、米国がこうした保護主義を貫いた場合、その影響は予想がつく。米輸出業者は資材コストが増加し、海外では競合他社よりも高い障壁に直面することになる。米消費者にとっては物価が上昇する。その結果、米国の雇用が失われ、米国民の収入が減ることになる。
 トランプ政権は、二国間の貿易協定を追求すると述べており、これは外交も商取引と同じように考えるトランプ氏の姿勢と一致する。しかし、米国が関税引き上げを行い、同時に貿易相手国がWTOに提起した訴訟の弁護をするような場合、それは難しくなる可能性がある。
 TPPのような貿易圏が米国抜きで推進され、他の地域と関係が構築された場合、米国はさらに高い代償を払うことになる。他国の企業が新しい多国間ルールの恩恵を受ける一方で、米国は二国間協定の乱立によるルールの複雑化に対処していかなければならなくなる。コロンビア大学の経済学者ジャグディーシュ・バグワティー氏が言うところのルールの「スパゲティボウル現象」だ。
 例えば、特定の品目に対する特恵関税を享受しようとすれば、輸出業者は特定の割合の構成品がその国で生産されていることを証明する必要がある。この手続きは官僚的で複雑なため、多くの企業が二国間協定で提供されるそうしたメリットの適用申請さえしない可能性がある。その結果、世界に顧客を有する米企業は競争力を維持するために工場を米国から他国に移さざるを得ないかもしれない。
 だからこそ、ほとんどの消費財の構成部品を取引している複雑なサプライチェーンの形成には、多国間協定がカギを握る。EPAはまだ日本とEUの二者間協定にすぎないが、米国を除外したさらなる協定の基礎になるかもしれない。米政府が貿易の主導権を譲り渡せば、他国がルールを設定して貿易を拡大することになり、米国が取り残されるリスクがある。
 皮肉なのは、米国の製造業の生産性が世界をリードしており、雇用は回復していることだ。米企業が輸出を拡大できる可能性があるときに、トランプ政権はチャンスを台無しにしている。日本と欧州のEPAは、他の国々が貿易の主導権を奪い、米国民が享受するはずだった繁栄を手に入れることになるという警鐘だ。