Monday, July 24, 2017

日本とインドの中国抑制策の進展は遅い【A6面(国際面)】

日米印の3ヶ国は7月10日よりインド洋で海上共同軍事訓練「マハバール」を実施したが(日本は初の公式参加)、WSJは24日の国際面で、この訓練の背景にある日本とインドの防衛面での連携強化への取り組みとその難しさについて取り上げた。


日米印ともに中国のインド洋進出の野心に対応したいが、米国は中国に気を使ってなかなか積極的に支援が出来ない。そこで、支援に積極的に乗り出したのが日本だとしている。しかし、インド側の対応の悪さもあり、日本の支援は期待程には進んでいないとしている。インド洋への中国進出を食い止めるために、日米印がどの様に協力すべきかという難しい問題について、問題提起をしている様に読める。

***** 以下本文 *****
日本は最近、第2次世界大戦以降で建造した最大の護衛艦をインド洋に派遣し、インドおよび米国との海上共同訓練を実施した。米印とともに中国のインド洋進出の野心に対抗する姿勢を鮮明にするのが狙いだった。
 しかし問題は、日本のインドとの協力強化がゆっくりかつ漸進的に進んでいるのに対し、中国は近年、インド洋を囲む国々で重要な港湾・施設の開発を飛躍的に進めていることだ。
 日本とインドの関係は、中国封じ込めの取り組みを進める上でますます重要になっている。地域に対する米国の軍事的コミットメントがどの程度かをめぐる不透明感が日印両国で強まっているからだ。
日本は島国として海上貿易と自由航行できるシーレーンに大きく依存しており、海上防衛力を増強してインドとの安全保障関係を強化しようと努めている。例えば重要なインフラの構築や、水陸両用機やその他の軍装備品の売却をインドに申し出ている。

 日本の当局者は、南シナ海や東シナ海における緊張がインド洋にも広がるのではないかとの懸念を表明してきた。緊張が拡大すれば、日本が原油輸入の9割近くを依存する中東や、成長著しいアフリカ諸国との貿易上のつながりが脅かされるとの懸念だ。
 しかし、インドとの協力は漸進的で、課題も少なくないことが分かってきた。日米印3カ国は今月、毎年恒例の海上共同訓練「マラバール」を行った。訓練には潜水艦や駆逐艦、戦闘機なども参加。最大の成果の一つとされるのは、インド海軍による日本の艦船1隻に対する少量の燃料の販売と引き渡しが首尾良く実現したことだった。
 日本側指揮官である海上自衛隊の伍賀祥裕・第1護衛隊群司令は、米空母「ニミッツ」上でウォール・ストリート・ジャーナルに対し、この燃料販売は「極めて画期的な出来事」だとし、両国間の信頼の深まりを示していると述べた。
 複数の米当局者によると、米軍もインド海軍から燃料を購入した。これは、昨年8月に米印間で署名した兵站支援協定の最初の活用ケースとなる。
インドが日米との連携を深めるべく、このような小さな歩みを踏み出した背景には、中国の急速なインド洋進出に直面しているという現実がある。専門家によれば、インドは長年、自国の陸と海の長大な国境線は未開発のままとするのが最善策だと信じてきた。潜在的侵略者にとって有用なインフラを提供するのを避けられるからだ。
 だが、ここに来て、中国はヒマラヤ山脈のインド国境沿いに幹線道路を建設したり、インドの近隣諸国で港湾を建設したりしている。インドが直面しているのは、こうした動きに追い付くために、多額のインフラ支出をする必要に迫られているという現実だ。
 例えば、アンダマン・ニコバル諸島は、インド洋に入る東方の入り口にあって、インドにとって戦略的要衝だが、開発はされていなかった。中国がパキスタンやスリランカに新たな港湾を建設しているにもかかわらずだ。
 米国は支援提供でおおむね無力だった。インド当局は近年、米海軍によるアンダマン諸島への寄港要請を6回にわたって拒否した。ある当局者によれば、こうした拒否は、インド洋での米国の役割に対して中国から不快感の表明が強まっていることと関連しているという。
 米国の支援の代わりを申し出たのが日本だった。
 ニューデリーのシンクタンク「オブザーバー研究財団(ORF)」のアブヒジット・シン氏は「日本は、インド洋上の諸島開発でインドのプロジェクトを支援しようとする唯一の国だ」と述べた。その理由として同氏は、他の国々、とりわけ米国がこうした支援を対中国で余りに挑発的だと考えていることにあると付け加えた。
 インド内務省は、アンダマン諸島を訪れて当局者に取材するとのWSJの要請について、安全保障上の懸念を理由に拒否した。
 昨年、日本の安倍晋三首相は「自由で開かれたインド・太平洋戦略」を発表。これは、アフリカ東岸から太平洋に至るまで海洋上の野心的役割を中国が強めているのに対応した戦略だ。日印は2015年末、防衛技術の移転に関する協定に締結している。
しかし、これまでのところ、アンダマン諸島の開発支援は停滞している。日本の開発機関が同意した同諸島での発電所の建設は書類作業のなかで行き詰まっており、港湾や滑走路の建設を支援するという提案は進展していない、と在インド日本大使館の曽根健孝公使(経済担当)は言う。
 同公使は「実際のプロジェクトレベルで、(インド政府内の)意志決定プロセスを理解するのに苦労している」と述べた。
 日本は、関心の一部を東アジアとアフリカの中間に位置するインド洋上の島国スリランカに移した。安倍首相は4月、スリランカのラニル・ウィクラマシンハ首相との会談後、同国北東にあるトリンコマリー港の整備に10億円(約900万ドル)を無償資金協力すると発表した。
 オーストラリアのシンクタンク「ローウィ研究所」のユアン・グレアム氏は、トリンコマリー港は海軍基地として「大きな潜在性」があると述べた。それは日本の潜水艦にも言えることで、スリランカの他港に対する中国のアクセスに対抗し得るものだという。4月の合意の一環として、日本は巡視艇2隻の供与もスリランカに約束した。また日本は昨年、スリランカの主要空港の拡張支援に4億ドルを融資している。
 一方、インドの自国の武器開発プログラムは停滞しているか、あるいは破棄されてきた。この間、中国は自国の海軍力を増強している。
 マラッカ海峡やアンダマン諸島を通過してインド洋に入る中国軍潜水艦の数は増えており、潜水艦を追尾する手段が比較的貧弱なインド海軍にとって頭の痛い問題となっている。
 またインドが計画している空母群の整備は何年も遅れており、設計上の欠陥があると批判されている。