Monday, February 27, 2017

日本の過激な金融緩和の失敗【A1面】

WSJは、228日の国際面で、日銀の金融政策は失敗に終わったというショッキングなニュースを1面に掲載した。



この記事によれば、日銀は国民の消費を増やすことを目的に金融緩和策を続けてきたがバブル崩壊後に生まれた世代はデフレしか知らないので将来に悲観的でやる気も無く、彼らに対して幾ら金融緩和を行っても、消費を増やさない。たまに、やる気のある若者が一念発起して起業しても、マイナス金利で利益を確保出来ない銀行は、担保を持たない若者には貸し渋るので、やる気があっても若者は起業すら出来ない。日銀の金融緩和政策のもう一つの目的は、銀行の貸出額を増やすことにもあったはずなので、皮肉な話だ。

***** 以下本文 *****
日本の行け行けの1980年代に、シバタヒロミさんは一月分の給与を全て投じてカシミアのコートを購入し、数回着ただけで、後は着ないといったことをやっていた。今日、彼女の娘さんにとっての楽しい買い物とは、県庁所在地である静岡にある母親のクロゼットを漁ることだ。
「私の持っている服の1/3が母親からのおさがりです。」と東京に住む26歳のシバタナオコさんは言う。112マイルの里帰り費用を節約するために、彼女はかつて日本の繁栄の象徴であった新幹線ではなく、バスに乗る。」
世界では、中央銀行が、「低金利やマイナス金利」と「成長を加速させ価格下落を防ぐための刺激策」に依存する時代が長く続いてきたが、アメリカはそうした時代から世界に先駆けて抜け出そうとしている。連邦準備銀行はアメリカの金利を上昇させ、欧州中央銀行は刺激策の緩和を検討している。一方で、日本は完全に行き詰まっている。超低金利による過激な実験を長期間にわたって行ったにもかかわらずだ。バブル崩壊から四半世紀が経過し、「経済不振」「低迷する賃金」「価格上昇ではなく価格低下が継続するデフレ」しか知らない、節約世代が成人を迎えた。
デフレは継続するという考えが非常に強く浸透してしまい、それが金融政策に対する大きな障害となってしまっている。これは、同様の道を進む他の国々にとっての教訓でもある。
「デフレマインドを変えるのは、過激な政策をもってしても、難しい。」とHSBCのアジア経済の共同代表であるフレデリックニューマン氏は言う。「日本は落ち込んだ状態にとどまり、それは今後何年も続くだろう。」
日本で中央銀行による景気刺激策が開始されてからほぼ4年が経過した。この政策では、何兆円もの紙幣が印刷され、金利はマイナスとなった。今世界で行われている政策の中で最も過激なものだろう。日銀の黒田晴彦総裁による、ショックとサプライズの景気刺激策は、20134月に開始されたが、暫くの間成長と価格上昇が見られた後、萎んでしまった。日本は昨年はデフレ状態に陥った。最近では、インフレ率は、ほぼ0%に低迷している。
11月には黒田氏は2%のインフレ達成時期を遅らせた。これは、彼がアイデアが尽きたことを認めたのと同じだ。彼は、昨年、幾つかのスピーチの中で、非常に強く刻まれたデフレマインドによって、価格や賃金が上昇するという希望尾が萎み、その結果金融政策の効果が限定的なものとなったと述べた。黒田氏にコメントを求めたが、スポークスマンを通じて拒否してきた。
日本のインフレ率はここ数ヶ月ゼロを超えているが、エコノミストによれば、これはドナルトトランプ氏が大統領に選出されたことや、ドル高、原油高が影響しているもので、日本の経済ファンダメンタルが強くなったことによるものではない。日本が強い成長と価格上昇に戻るとみている人は殆どいない。
デフレは、経済成長を阻害するという意味で、経済にとて悪い影響を与える。企業の収益がは下がるので、彼らは、投資を控え、賃金をカットし、採用を止めてしまう。経済の先行きが不透明な中で、消費者は支出を止めてしまうので、負のスパイラルが更に推進される。
超低金利を導入した背景には、インフレを起こすことにより、消費者や企業に支出を促そうとう考えがある。しかし、デフレマインドが非常に強いので、消費者や企業は、どんなに中央銀行が金利を下げても、支出を控えたままだ。実際のところ、金利を下げたことが、逆に消費者の不安を煽り、「支出する」のではなく、「経済状況が悪化した際に備えて貯蓄する」という現象を招いた。
中央銀行が即効性のある対応をする時代にあっても、ここまで過激なことをやった国は日本以外にいない。日銀は、1999年に金利をほぼゼロまで引き下げたが、これは欧州やイギリス、米国が2008年の経済危機に対応するために導入するよりずっと前だった。2001年には日本は金融市場にキャッシュを投入し、インフレと成長を喚起しようとしたが、これは量的緩和と呼ばれ、のちに西側諸国でも導入された。
黒田氏は、2013年に大量のキャッシュを金融市場に投入し始めた。その額は年間7,000億ドルに及んだ。多くの投資家が、ハイパーインフレが起き、資産バブルが起きることを懸念した。しかし、それは起きなかった。昨年、日銀は欧州中央銀行に追随してマイナス金利を導入した。銀行がお金を借りないと損する様にして、銀行にもっとお金を借りさせようとする過激な試みだ。
日本の今日の苦境は、1980年のバブル期には考えられなかった。その頃、日本の大企業はニューヨークのロックフェラーセンターの様な有名不動産を買いあさり、東京の不動産価格は世界で最も高かった。日本は金利を上昇させていったが、それが不動産と株式市場のバブル崩壊へとつながった。
それ以降、年間成長率は1%以下となり、周期的にリセッションを経験した。1990年代後半には価格下落も始まった。経済規模では、中国が日本を抜いて第2となり、日本は第3位に下落した。日経株式市場の平均は、1989年のピーク時の半分だ。不動産価格は広い範囲で、ここ4半世紀下落を続けている。
冷凍デザートメーカである赤城乳業は、昨年25年ぶりに9セントの値上げを行い、謝罪広告を出した。日本の企業には、約2兆ドルのキャッシュが眠っている。こうしたお金は投資にまわるべきだと政府要人は考えている。
デフレの世界は、価格下落が始まってから成長した20歳から34歳までの2,000万人に頭に深く刻まれている。賃金が上昇することや、株価があがることや、銀行が預金に対して魅力的な金利を支払ったりすることは、彼らにとっては単なる仮説にすぎない。彼らは、今日買ったものが、明日にはもっと安くなっている世界に生きてきた。彼らは本能的に安全な行動を取るし、節約家だ。
彼らは親の世代の消費主義を否定する。ルームメイトとグループホームに住む者もいる。日本では新しい現象だ。そして、3ドルの牛丼をたべる。何かにお金を使うとすれば、旅行だ。買ったものの価値は下がって行くが、経験の価値は下がらない。
戦後の貧困の時代を経験した高齢者世代にとっては、今の若者世代のやる気のなさが心配だ。日本には「ニート」という言葉があるが、これは学校にも行かず、働きもせず、職業訓練もしない若者のことを表現する言葉だ。また、「フリーター」というのは、パートや契約社員の様な、安定しない職についている若者のことを言う。「パラサイトシングル」は親元を離れない若者のことだし、「草食男子」とは女性に興味を示さない若い男性のことだ。
「彼らの問題は、彼らの暮らしがあまりにも快適なことにある。」と元経済財政担当大臣の竹中平蔵は言う。「彼らの期待は低い。我々は格好良い車を持ちたいと思ったものだが、彼らはそうしたものには興味がない。」
多くのエコノミストが、日銀の2013年の景気刺激策は、低成長と価格下落のダウンスパイラルから日本を脱出させるために十分な対策だと考えた。黒田氏と安倍内閣の官僚たちは、刺激策実施直後のインフレ傾向や成長が、この刺激策が最終的には機能することを示していると考えた。金融政策は、2014年の消費税増税によって邪魔されるまでは機能していたと言う人もいる。
10月の日銀の世論調査によれば、来年に支出を増やすとした回答者は全体の5%に過ぎず、実に48%が支出を削減すると回答した。
香川県の公務員であるカメヤマケイタさんは、ここ数年間40,000ドルの給与の約25%を貯蓄し、遂に長い間交際してきたガールフレンドと結婚した。かれは、母親と一緒に住み、古いホンダ車を運転し、殆ど買い物はしない。中央銀行の経済刺激策は、カメヤマさんの消費行動に殆ど影響を与えない。彼は、未だに彼のお金を普通預金に塩漬けにしている。彼は、日本の長期にわたる経済不振により年金を受け取れないのではないかと恐れているし、彼の母親の面倒を見るために十分なお金がないのではないかと心配している。20歳から34歳の人口に比べて、60歳以上の人口が倍になっている日本では、こうした心配が増大している。
彼は、マイナス金利の中で、殆ど利子のつかない、銀行口座が唯一の貯蓄方法だと考えている。香川県最大の銀行である百十四銀行の金利は0,05%で、1995年以降ずっと1%以下のままだ。
「香川県の人々は貯蓄をするのが好きです。」とカメヤマさんは言う。「日銀が人々にお金を使わせようと必死になっているのは知っています。でも、私は財布を開かないだろうと思います。」
多くの日本の若者が節約しているのは、お金が無いからだ。低賃金で福利厚生の無い非正規従業員の数が増えている。
「多くの企業は成長していないし、解雇出来ない多くの高齢者を抱えている。」とエコノミストでリサーチ会社ジャパンマクロアドバイザーズ創設者の大久保豚史氏は言う。「従って、若者を雇う余裕は無い。」
「自動車、ビール、化粧品の会社は、若者向けの広告を減らし、代わりに退職者向けの広告を増やしている。」と博報堂の若者向けマーケティングを担当するハラダヨウヘイ氏は言う。「親と子供の役割が反対になっている。バブル世代の親たちは未だに子供の様に暮らし、格好良い車を買いたがる。バブル後に生まれた子供たちは親たちの無駄遣いを心配している。」と彼は言う。
サイトウタカシさん(23歳)は未婚の起業家だ。2015年に彼が起業を決断した時、彼は東京のグループアパートに住んでいた。彼のアイデアは、沢山の服を着たいけど、服を買うお金のない女性をターゲットにしたオンラインでの服のレンタル会社だ。45ドル払えば、月に3着の服がレンタル出来る。
サイトウさんは、日銀は銀行の貸出増を誘導するために低金利政策を取っているのだから、小さいビジネスでも簡単にお金が借りられると思っていた。ところが、そうではなかった。
彼は、小さなビジネス向けのローンを行うために国が設立した日本政策金融公庫に行き、$200,000のローンを要求した。沢山のお願いをさせられた割には、彼が得られたのは$50,000以下だった。1年後、ビジネスが大きくなったので、ローンの増額を依頼したが、断られた。この件について、日本政策金融公庫にコメントを求めたが断られた。
銀行アナリストは、日本の銀行はより保守的になっていると言う。低金利のせいで利益が減少しているので、担保を持たないスタートアップ企業に対しては及び腰にならざるを得ない。マイナス金利になった後の11ヶ月間、日本政策金融公庫のローンポートフォリオは縮小した。
斉藤さんは貯金を取り崩し、家族からお金を借り、今はベンチャーキャピタルに望みをかけている。
日本の衣料ブランドであるユニクロは、デフレの時代にあって、ヒットを飛ばしている。低価格の衣料が、節約家に受けているからだ。しかし、2015年にユニクロが値上げをした際には、お客がユニクロの購入を止めた。ユニクロは仕方がなく、再び価格を下げて、売上を戻した。
ユニクロの創設者である柳井正氏は、マイナス金利や量的緩和などの政策は、消費者を心配させるだけだと言う。「それは、未来に対する不安を抱かせる。」と彼はインタビューの中で発言した。「彼らはマイナス金利を止めるべきだ。ばかげている。」
JPモルガンチェースのエコノミストであるカンノマサアキ氏は、デフレマインドが深く刻まれているのは当然のことだと言う。25年間も賃金が変わらないのだから、若者は将来収入が増えるということを信じていない。
エコノミストの中には、政府は更なる財政政策と金融緩和を行うべきだと主張する人もいる。一方で、景気刺激策の結果、日本はGDP230%という大きな国債を抱えており、このままでは経済崩壊につながるという人たちもいる。
東京に住むシバタさんは、母のクロゼットを漁っているが、最近、職業斡旋の仕事を週3回に縮小した。そのために、彼女は以前の半分の賃貸料で済むアパートに引っ越し、買い物も止めた。彼女は、自分のキャリアのために時間を使うことに意味を見いだせなくなったのだ。代わりに、彼女はモダンダンスを楽しんでいる。
「企業に自分の時間を吸い取られてしまうのは、割に合わないと思います。」とシバタさんは言う。「だって、幾ら働いても、昇給は期待できないのだから。」