Thursday, February 9, 2017

円に取りつかれて【A18面(社説)】

WSJは9日に、日米共に円の水準に囚われすぎているとする社説を掲載した。


現在の円安(ドル高)は、米国経済の先行きへの楽観的な見方を反映したものだ。これを是正するには、規制緩和により、日本経済の先行きを明るくし、日本に投資を呼び込むしかなく、当局による為替操作は効力がないとしている。

***** 以下本文 ****
トランプ大統領による貿易の混乱を心配している投資家たちは、金曜日に行われるトランプ大統領と安倍首相のトップ会談に注目している。特に、トランプ大統領が、貿易交渉において、通貨操作反対の立場を示すかどうかが注視されている。安倍氏は、雇用を創設する様な投資の計画をお土産に持って行き、それによってトランプ氏が円安問題を持ち出すのを避けようとしている。貿易摩擦や日本のデフレへのより良い解決策は、金融政策に頼り過ぎず、国内経済の規制緩和へと向かうことだろう。
先週、トランプ大統領は、中国と日本は自国通貨を操作して安くしようとしているが、アメリカはそれをただ見ているだけで何もしなかったと発言したが、この発言は日本を混乱状態に陥れた。菅官房長官は、日本は為替レートを目標にしておらず、国内価格を目標にしていると反論した。
それはテクニカルには正しい。但し、安倍首相が2013年に経済プログラムを開始した時には、円安が明らかに目標になっていた。そして日本の権力者たちの為替に関するこれまでの見方は、明らかにトランプ氏の味方に近かった。官僚、政治家、経営幹部らは、円高は経済へのマイナスとなるが、円安は競争力を強化すると見ている。
しかし、この味方を裏付ける証拠は殆どない。過去をみると、日本は円高でも輸出が強かったし、経済が弱い時に円安だったこともある。為替レートは金融政策によって動くこともあるが、利率や投資の流れによる日米間の相対的な経済の強弱によっても動く。
トランプ氏の選挙での勝利の後、円は102円から112円へと下落した。このことは、投資家たちが、日本が未だにスタグネーションに陥っている一方で、アメリカ経済は明るいとみていることを反映している。米国債の利回りが上昇したが、それにより投資家たちは円高が継続するだろうという見方を変えた。
トランプ氏の発言の後、しばらくの間、円高と日本国債の利回り上昇が続いた。一部の投資家は、日銀が米国をなだめるために、国債の買付額を縮小するのではないかと考えた。日銀は、先週の金曜日に国債の買い付け額を増やし、利回りは下落した。
しかし、日銀のプログラムが機能していると信じる理由は見当たらない。インフレへの期待は1%程度にとどまっているし、国内の投資や消費は弱いままだ。労働者が不足しているのに、賃金は停滞したままだ。もし、日本のアメリカへの輸出が増えたとしても、その理由はアメリカの成長のスピードが速いからであって、円安によるものではない。トランプ氏と共和党の規制緩和と減税によってアメリカのアニマルスピリットが解き放たれたのだ。
日本経済の先行きが明るいという見方がでるかどうかは、安倍氏がトランプ氏と同じ様な政策をとるか否かにかかっている。労働法制はもっと柔軟であるべきだ。流通関連の法律は、大規模商店の競争と効率的な物流への投資を促すべきだ。農業改革によって、日本国民が食費にお金をかけずにすむ様にすべきだ。貿易障壁を無くし、日本のカルテルを破壊し、生産性をあげ、価格をさげるべきだ。こうしたことが、安倍氏とトランプ氏が会談しし、2国間での自由貿易協定について話し合うべき理由のひとつだ。
高齢化に向かう日本が、経済成長のスピードを速めれば、投資を呼び込み、円高に振れ、貿易は赤字となるだろう。これが、2国が共に繁栄し、貿易摩擦をさけるための道筋だ。通貨を巡って争っても、誰も勝者にはならない。