Monday, April 27, 2015

強い日本を目指した安倍のビジョンは過去に悩まされる【A1面】

安倍首相の訪米を前にして、安倍首相の政策全般を網羅的に整理した記事が、一面に掲載された。



1面から始まり、10面のほぼ全ページを割いた力作だ。安倍首相の政策全般を好意的に描いているが、唯一彼の第二次世界大戦についての発言や態度が近隣諸国に誤解を与えていることを批判している。せっかく世界平和に貢献しようといて、集団的自衛権等の問題に取り組んでいるのに、そうした善意の政策が、彼の偏狭な戦争史観のせいで正しく伝わっていないとしている。
それにしても、福島瑞穂の「戦争法案」発言や、佐高信の「民主主義の敵は安倍晋三」等も登場していて、広範な取材力に驚く。安倍首相がUSC(南カリフォルニア大学)に通っていたので、ロサンゼルスに関する記述も多く楽しい。安倍首相は、今回ワシントンに加えて、ボストン、シリコンバレー、ロサンゼルスを訪問するが、この3ヶ所は偶然にも私が暮らしたことのある米国の3つの町で、こうした偶然も嬉しい。

***** 以下本文 *****

この記事は次の様な書き出しで始まる。
「安倍晋三首相は今週ワシントンを訪問し、沢山の華やかな行事をこなすが、非常に難しい問題のバランスを取るという問題に直面する。アメリカ人に彼の将来のビジョン、つまり新たな活発で強くより平等な日本のパートナーという考えを売り込み、同時に彼の過去に関する見方によって作り出された疑いを鎮めようと試みる。」
「重要なメッセージはこうだ。『1足す1が遂に2になる。』安倍氏は先週行われたウォールストリートジャーナルの独占取材においてこの様に述べた。これは、彼がバラク・オバマ大統領と共に発表しようとしている新たな軍事同盟についての重要性について述べたものだ。」

非常に長い記事なので、暫く要約する。

中国が地域に緊張をもたらす中で、米国は日本の協力に感謝しているし、安倍首相がここ数年で最も強い日本のリーダーであることを喜んでいる。アベノミクスにより株価は上昇しているし、軍事面では、日本版海兵隊を作り、武器輸出を許容し、太平洋地域の国々との安全保障上の連携を強め、軍事支出を増やしている。オバマ大統領は、安倍首相と二人で撮影した写真に「晋三、貴方の強いリーダーシップに感謝します。」というコメントを添えたが、その写真は安倍首相の執務室に飾られている。

あいまいな謝罪
しかし安倍首相の先の大戦での侵略に対するあいまいな態度が、米国をいらだたせている。例えば、戦争時の蛮行についての記述を和らげるように米国の教科書会社に要求したりしたのだ。
この問題は米国が警告すると暫くおさまるのだが、しばらくするとまた再燃して、周辺諸国や米国をいらだたせている。
安倍首相がワシントンを訪問する際には、彼は慰安婦問題について譲歩を迫る韓国系アメリカ人からの抗議に見舞われるだろう。カリフォルニア民主党で日系アメリカ人のホンダ氏は、87歳の元慰安婦を国会で紹介し『いまこそ、安倍首相は明確で、議論の余地が無く、反駁することが出来ない謝罪をすべきだ。』と述べた。
従って、安倍首相にとって最も重要なのは、政策そのものではなく、過去についてどの様に表現するかだ。安倍首相をの現実主義的なブレイン達は、アメリカ人に安倍首相は過去の歴史の修正主義者でもないし、タカ派でもないことを理解してもらいたいとしている。
ワシントンは安倍首相を歓待するための準備を進めている。火曜日には晩餐会が開催され、翌日には議会で演説が予定されている。安倍首相は、英語で演説を行う予定で、自宅で何時間も練習した。
60歳になる安倍首相は、ボストン、シリコンバレー、ロサンゼルスも訪問する。彼は、70年代に2年間、南カリフォルニア大学(University of South California)に在籍し、アメリカのダイナミックさに感動した。
63年に及ぶ日米の同盟関係は、過去25年の間少し厳しい状況にあったが、安倍首相の1週間に渡る訪米は双方にとって象徴的な変換点になる。1989年から17人もの首相が就任して政治的空白を招いた。特に鳩山首相が沖縄の米兵の数を減らし、北京との関係を強化し、日米中の等距離の三角形構想を提唱した時には、アメリカ人はすくみきったものだ。
米国にとって重要なパートナーであるイギリスが、米国を無視して、AIIB参加を決定した際にも、日本は踏みとどまって米国との連携を維持した。オバマ氏と安倍氏は米日軍事ガイドラインの1977年以来初めての改定案を発表する。また、TPP交渉の進展についても発表したいとしている。

日本での複雑な反応
安倍首相の強いリーダーシップに対して、日本国内では2極化した見方が出てきている。安倍内閣の支持率そのものは高いが、個別の政策に対する支持率は必ずしも高くないのだ。集団的自衛権に賛成する国民は23%にすぎないし、「民主主義の敵は安倍晋三」といった本も出ている。
安倍氏の、時に高圧的ともいえる対応は、政治家やマスコミとの軋轢を起こすこともある。先日も国会で、彼の安全保障法案を「戦争法案」と名づけた議員に対して激しくやり返した。
安倍首相は、彼は、日本で国家の安全保障問題に正面から取り組んだ最初の政治家で、最終的には米国によって記章された憲法を改正したいとする。世界的にみれば、彼が実施しようとしている安全保障上の変更は、ゆるやかなものだ。米国のある学者は、この変更は他の同盟国と比較した場合には10段階で3だが、日本の過去の歴史と比較すると10段階で8になってしまうと言う。
安倍氏はアメリカ好きでもある。40年前に南カリフォルニア大学に在籍していた時に、フォードマスタングを運転し、ロサンゼルスの食べ物の大きさに驚き、グリフィス天文台で天体観測を楽しんだことなどを、今でも友人と懐かしがる。サラリーマンになってからは、一年間ニューヨークに駐在しており、彼の妻も、ブロンクス動物園で、彼とデートしたことを覚えている。首相になっても、アメリカのポップ音楽が好きで、ローアンドオーダーやハウスオブカードに心酔している。
しかし安倍氏の第二次世界大戦観は、米国、アジアの近隣諸国、そして日本人をすら苛立たせている。こうした大戦観により、彼の軍事強化政策が、誤った形で伝わることを懸念している。特にアメリカのもう一つの同盟国である韓国との関係悪化は、米国の安全保障政策を複雑にする。
彼は自民党の国家主義者の支持を受けており、彼らは中国や韓国に対しては既に十分に謝罪したと主張している。多くの首相は、A級戦犯が祀られている靖国神社訪問を避けてきたが、安倍首相は2013年に訪問し、日米関係が一時悪化した。彼の祖父の岸晋介は戦犯として非難はされたが、有罪とはならなかった。

自虐史観
安倍首相はかねてから日本の自虐的な歴史教科書を批判してきた。新しい指導要領を擁護し、教科書検定で日本の侵略の表現を和らげさせた。「歴史には明暗がありそのバランスをとるべきだ。」と安倍氏は述べる。彼が歴史表現にこだわるのは、過去70年間の歴史教育が日本人のプライドを無くしてしまい、その結果、多くの改革に際して、日本人がすっかり受け身になってしまい主体的に考えることが出来なくなったと感じているからだ。しかし、安倍首相の側近でさえも、彼の歴史問題の扱い方が、彼の世界でより積極的な役割を果たそうとする意図に誤解を与えてしまうとする。ここ数ヶ月、安倍首相は態度を軟化させ、過去の謝罪を否定する意図は全くないとし、先週の靖国神社の春の大祭での参拝も見送った。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「多くのアメリカ人は、水曜日に予定されている議会演説で、戦争に対する新しい形での反省を織り込んで欲しいと望んでいる。彼を批判する人達や近隣諸国の人達に新しい平和の象徴を示して欲しいのだ。アメリカの退役軍人のグループは下院議長のジョン・ベイナー氏に抗議文を送った。そこには、演説は4月29日に行われるが、その日は裕仁天皇の誕生日で日本では祝日だし、その日はアメリカ人捕虜が日本帝国の収容所で最敬礼を無理強いされた日だと書かれている。」
「演説では、日本の戦争時の態度について何か発言されますかという問いに対し、安倍首相はむしろその後に起きたことに焦点を当てたいと示唆した。『「戦争について反省した後、アメリカと日本は戦後共に前進してきた。そしてこの同盟のおかげで我々は日本と近隣地域の安全と安定を維持してきたのだと言いたい。』」