安倍首相が集団的自衛権容認を閣議決定したことが、社説で取り上げられた。ウォールストリートジャーナル日本版にも類似の記事が掲載されたので、若干の修正を加えて使用させてもらった。
「日本政府は1日の閣議で、憲法を再解釈して集団的自衛権の行使を容認することを決めた。アジアの民主主義諸国の安全保障を強化する重大かつ長年懸案だった決定だ。だが、これと同じほどに重要だと思われるのは、この決定が中国の行動が大きなきっかけであることを北京(中国政府)に思い至らせるだろうという点だ。つまり、東シナ海での中国の侵略的な行動が、日本をこの地域でより積極的な役割を担うように決意させたということだ。」
「安倍晋三首相はタカ派であり、集団的自衛権をめぐる今回の動きを強く推進してきたが、他方で、日本の安保環境の変化がそれを必要で不可避なものにした。こうした変化には、中国の軍事力が急速に拡大していることや、係争水域の尖閣諸島の現状(ステータス・クオ)変更のため中国が力を行使していることが含まれている。 中国外務省は1日、猜疑(さいぎ)の目をもって反応した。また国営新華社通信は論評で、日本は「戦争の亡霊とたわむれている」と非難した。しかし過去5年間にわたって、この東アジア地域全体を警戒させてきたのは、中国の好戦的な発言であり、その一方的な行動だった。」
「日本が軍国主義的な過去に戻るというのは問題外である。平和主義的な日本国憲法は、第2次世界大戦後に米国が日本に課したものだが、それを弱体化することに対し日本の一般国民に依然ためらいがあることは頭にとどめておくべきだ。幾つかの主要なニュースメディアが今月実施した世論調査では、日本人の過半数が集団的自衛権の再解釈に反対していることが判明した。安倍政権はこの再解釈を可能にするため憲法改正によらずに閣議決定という形を使った。このため同政権は、今回の変更を慎重に履行しなければ、一般国民の反発によって弱体化しかねない。」
「今回の変更は日本の軍事力に課されている多くの制限を取り払うものではない。安倍氏は、平和主義的な連立パートナーである公明党の支持を取り付けるため、譲歩しなければならなかった。したがって日本の集団的自衛権は非常に限定的だ。」
「集団的自衛のドクトリンによって、日米防衛同盟における日本の役割はより対等なものになるろう。日本の自衛隊は、日本の沿岸越えた水域ではどのような紛争でも、矛先としての役目を果たす公算はほとんどないが、例えば部隊防護には参加するかもしれない。日本と米国を北朝鮮の攻撃から守るため、イージス搭載艦がミサイル防衛システムに統合される可能性もあるだろう。」
「地域的にも、日本は用意周到に足を踏み出さねばならない。とりわけ韓国に対してはそうだ。韓国政府は1日、日本が朝鮮半島における集団的防衛に韓国の招請なしで参加するのは容認されないと慎重な姿勢で強調した。」
「ただ、他の民主主義諸国との安全保障上の関係を強化する余地は増えるかもしれない。日本はフィリピンとベトナムに対して沿岸警備艇を供給すると約束しており、オーストラリアとの間では潜水艦の共同開発の取り決めに署名した。一方、オバマ政権は軍事費を削減しており、敵対勢力が一線を越えた場合の軍事行動に消極的になっている。この結果、アジアでは米国が提供する安保に対する信頼性に懸念が高まっており、日本が埋めるべきギャップができつつある。」
「第一次世界大戦前夜のヴィルヘルム2世時代のドイツと今日の中華人民共和国との類似点について多くのことが書かれてきた。権威主義的でノン・ステータス・クオ(現状打破志向)的な大国の台頭は、双方の政治家によって対応することができる。しかし平和の究極の保証は、民主主義諸国が団結して、侵略に対抗し、ルールに基づいた国際秩序を防衛する能力があるかどうかにかかっている。他の民主主義諸国の防衛に駆けつけねばならないという日本の認識は、アジアでの平和維持に決定的に重要なのだ。」