12月8日に日欧EPA交渉が妥結したが、WSJはこのニュースを15日の社説で取り上げた。
トランプ大統領のTPP離脱の決断により、日本が欧州とのEPA妥結を優先させ、結果として米国民は大きな損害を被ることになったとして、トランプ大統領の決断を厳しく非難している。豚肉、牛肉、ワイン、チーズなどの例をあげ、米国民の損害が如何に深刻か数値を交えて詳しく解説している。
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先週、日欧間の貿易交渉が妥結したが、これは、トランプ大統領の保護主義が米国の企業や農民を苦しめるであろうことを示している。この合意により、95%の品目について関税が廃止され、非関税障壁も縮小される。特に重要なのは、欧州が、日本の大きな農業市場にアクセスできることだ。米国は12ヶ国間での貿易協定であるTPPから離脱することでその機会を失った。
ここは重要な点だ。TPPは米国を除く11ヶ国で交渉が続けられているが、TPPがアベノミクスの拠り所のひとつである安倍首相は、トランプ政権が孤立することの痛みから、交渉に戻って来てくれることを期待している。
米国農業省によれば、日本とEUの合意により、日本向けの欧州の豚肉に対する数量制限が撤廃され、10年かけて関税は80%から17%に削減される。これは米国の農民を苦しめることになるだろう。米国は、現在、日本において、フレッシュと冷蔵豚肉の58%、加工豚肉の63%の市場を保有している。一方、欧州は冷凍豚肉の62%のシェアを持っている。
欧州は、牛肉の輸出者としてはメジャーではないが、38.5%の関税は15年かけて9%へ削減される。これはTPPの内容と同じだ。EUはまた、3月末までの期限付きで米国産冷凍牛に課されている50%の暫定関税の様な措置も免除される。欧州の高級牛肉生産者は、USDAプライムステーキの市場を狙っている。
欧州のワイン業者は、協定が施行されればすぐに、15%の関税撤廃の恩恵を受ける。30%の関税がなくなるチーズ業者も同様の恩恵を受ける。EUは、加工食品の日本への輸出は価格ベースで170%から180%程度増加すると期待している。それは、カリフォルニアのワイナリーにとっては、酸っぱいぶどう(言い訳)になり、中西部の酪農家にとっては固いチーズの運(不運)になるだろう。
日本は、車に対して税金をかけていないが、米国は、非関税障壁によって、渡辺さんたち(日本人)がデトロイトの車(米国車)を買うのを止めてしまうと、長い間不満を述べてきた。日本は、その様な障壁を欧州車に対しては縮小すると約束した。2011年に施行された欧州と韓国の間の貿易協定も同様の条項を含んでおり、欧州の韓国への車の輸出量はその後の4年間で3倍に増えた。
日本の市場開放の見返りに、欧州は、現在車にかかっている10%の関税と、車の部品にかかっている3%の関税をゼロに引き下げることに合意した。日本の自動車産業は、輸出の13%を欧州向けが占めているが、その巨大な市場への輸出を増やす絶好の機会とみている。米国の自動車メーカーも同様の対応を求めてロビー活動を行ってきたが、米欧間での貿易交渉は止まったままだ。トランプ政権は、この協定を死なせてしまいたい様にも見える。
関税の縮小は重要だ。しかし、安全基準やその他の規制が貿易の大きな障害となることもある。欧日間の協定では、食品、車、薬、医療用品などの分野で、こうしたルールを協調させることを約束している。こうした協定により、米国企業は競争上大きく不利になる脅威に晒されることになる。
米国は、TPPで新しい多国間の貿易スタンダードを作るチャンスがあった。またTPPは米国の輸出を増やしていただろう。米国が撤退した後、安倍首相は欧州の方を向いてリーダーシップを発揮し始めた。彼は、米国との2ヶ国交渉は引き延ばすだろう。貿易パートナーから譲歩を引き出そうというトランプ政権の計画は、彼らが新たな同盟を作ることを誘導するので、自分たちにとっての火の粉となるだろう。米国企業と米国労働者は、機会を失ったことに対する代償を払わねばならないのだ。