Sunday, December 31, 2017

** 2017年のまとめ **

2017年のウォールストリートに掲載された日本関係の記事は114件だった。2014年の180件に対しては激減だが、2015年の110件、2016年の115件とほぼ同様の掲載数だった。




テーマ別では、政治関係が56回(2016年:49回、2015年:39回、2014年:75回)、経済関係が30回(2016年:38回、2015年:40回、2014年:62回)、社会関係が28回(2016年:28回、2015年:31回、2014年は43回)。ここ数年の掲載回数と比較すると、政治関係が増加、経済関係が減少、社会関係が横這いという傾向が見られる。

政治関係の記事には2つの山がある。
1つは、2月の安倍首相の訪米だ。この時、トランプ大統領は、安倍首相をフロリダの別荘に招いて多くの時間を割くなど、破格の扱いを行なって注目を浴びた。WSJもそれに呼応する様に、この訪米について8回も報道した。ちなみに、11月のトランプ大統領の訪日の際は2回しか報道しなかった。大統領就任から1年近くが過ぎ、熱が冷めたということか。
もう1つの山は、7月から10月の4ケ月わたる政治のドタバタ劇だ。7月の都議会議員選挙での自民党惨敗、その後の安倍内閣支持率急落に始まる今回のドタバタ劇は、稲田防衛大臣の辞職、蓮舫民進党代表の辞職などにも発展したが、8月の内閣改造により一旦は落ち着くかに見えた。ところが、その後、9月の突然の衆議院解散、それに続く、希望の党立ち上げ、民進党の解党とサプライズが続いた。結局、10月の選挙で自民党が圧勝し、元の鞘に収まった。WSJはこのドタバタ劇を詳細に報じ、7〜10月の政治関係の記事掲載数は、実に27件に上った。

経済関係では、日本の景気回復の軌跡を統計数値を愚直に追うことによって報じた。
「四半期GDP数値」は、5四半期連続伸長となった1〜3月期に始まり、7四半期連続伸長となった7〜9月期まで毎回、速報も交えて4回報道した。「消費者物価指数」についても、1年1ヶ月ぶりにプラスに転じた1月実績から、11ヶ月連続プラスを記録した11月までの間に、3回報道した。
日銀の動きについても、密接に報道した。金融政策決定会合の結果については、速報を交えて5回報道、その他も含めると日銀関係だけで実に9回も報道している。
一方で、以前は、ソニーやホンダといった1企業の動向を紹介する記事が多かったが、今年は大垣共立銀行を取り扱った記事1本だけだった。日本企業に元気がないということか。


社会関係では、1面の下に、世界の面白い文化や習慣を紹介するコラムがあり、ここに日本のことが毎年数件紹介されていたのだが、今年は1件の記事が紹介されるにとどまったのが気になる。日本も不思議の国から普通の国になってしまったのだろうか。

掲載箇所別では、1面が6回(2016年:13回、2015年:15回、2014年:25回)、国際面が93回(2016年:83回、2015年:87回、2014年:125回)意見欄が11回(2016年16回、2015年:7回、2014年:24回)、その他が4回(2016年:3回、2015年:1回、2014年:6回)となっている。
1面が大きく減少した。1面を飾った記事は、安倍首相訪米、北朝鮮日本に向けミサイル発射、衆議院選挙の3つ以外は、特集記事が2本、コラムが1本だった。

これらの114件の記事の中から1面に掲載された6件と、社説に掲載された8件の記事を詳細に分析し、恒例の「WSJが選んだ2017年日本の十大ニュース」を、独断と偏見で選んでてみた。

重大ニュース10件は下記の通り。 順位は、1面トップ:5点、1面:3点、社説:2点、その他:1点として得点順。同点の場合は掲載回数と掲載順(掲載時期が早いものを上位)で決定
1位:  衆議院解散総選挙(14点、11回掲載)
2位:  日銀金融緩和政策維持(11点、9回掲載)
3位:  安倍首相訪米(10点、8回掲載)
4位:  北朝鮮ミサイル発射(10点、8回掲載)
5位: 日欧EPA締結へ(8点、6回掲載)
6位: 慰安婦問題(5点、5回掲載)
7位: フィッツジェラルド号衝突事件(5点、5回掲載)
8位: マティス国務長官来日(3点、2回掲載)
9位: ペンス副大統領来日(2点、2回掲載)
10位: トランプ大統領来日(2点、2回掲載)
11位: 大谷翔平エンゼルス入団(2点、2回掲載)

トランプ大統領の来日が、マティス国務長官やペンス副大統領の来日よりも下位に来ているのが注目される。

ちなみに読売新聞の読者が選んだ2016年の重大ニュースの上位10は次の通り。

1位: 14歳棋士、藤井四段が29連勝の新記録
2 位: 天皇退位特例法が成立。19年4月末退位、5月改元へ
3位: 横綱日馬富士が暴行問題で引退
4位: 秋篠宮眞子さま婚約内定
5位: 衆院選で自民圧勝。突然の解散で民進分裂、立憲民主が野党第1党に
6位: 陸上100メートル桐生、日本人初の9秒台
7位: 神奈川・座間のアパートで切断9遺体
8位: 上野動物園でパンダ誕生
9位: 「森友」「加計」問題などで内閣支持率急落
10位: 稀勢の里が第72代横綱に

WSJ,、読売双方のトップ10に入っているのはニュースは「衆議院総選挙」のみ。残りの9件は、WSJでは全く取り上げられなかった。相撲や皇室関係のニュースはWSJでも取り上げられても良さそうだが。
ちなみに、トランプ大統領来日のニュースは、読売では11位に入っている。

アメリカから見た日本と、日本からみた日本には、微妙な違いがあり、面白い。

*** 12月のまとめ ***

12月にWSJに掲載された日本関係の記事は13件。2月と7月の15件に次いで3番目に多かった。

2月は安倍首相の訪米、7月は自民党の都議会議員選挙での惨敗とその後の政治劇(稲田防衛大臣辞任、蓮舫民進党代表辞任など)など、大きなニュースが掲載回数を押し上げたが、12月はそれ程大きなニュースがなかったにも関わらず、掲載回数が増えた。

テーマ別では、政治関係が5件、経済関係が4件、社会関係が4件だった。

政治関係は、日本の近隣諸国との関係悪化とそれに伴う防衛力強化に関する記事が中心だった。
9日には北朝鮮の脅威を念頭に自衛隊が長距離巡航ミサイルの配備を決めたことを速報、21日には中国の脅威を念頭に石垣島に自衛隊が基地を建設中であることを詳細に報じた。
中国関係では、13日に日米欧の首脳が中国の貿易慣行を批判したとする記事を、14日には日米がサウジアラビア政府に対してアラムコ石油の株を中国に売却しないように迫ったとする記事を掲載した。
また、日韓関係では、29日に、韓国政府が慰安婦問題に関する2015年の日韓合意を見直す可能性を示唆したというニュースを速報した。

経済関係では、日本の景気回復を示唆する記事が中心となった。
2日には10月の消費者物価指数を、27日には11月の消費者物価指数を速報し、日銀の目標とする2%には届かないものの順調に上昇しているとして、景気の回復を印象付けた。これに伴って、日銀が金融緩和策の出口戦略を模索し始めたとする記事を18日に掲載した。
さらに12月8日には日欧EPAが妥結したが、WSJはこのままでは米国は日欧に遅れをとるとする社説を15日に掲載した。

社会関係では、大谷翔平選手のエンゼルス入り決定を、大きな写真入りで2回も取り上げた。1回目は入団発表について翌9日に速報、2回目は11日にエンゼルスが大谷を射止めるために提示した詳細な育成計画について報じた。
その他では、7日に最高裁がNHK受信料について初めての判断を示したとするニュース、23日には丸の内クリスマスパレードのニュースをそれぞれ取り上げた。

12月は日本では真珠湾攻撃の頃に、戦争関係の記事が特集されるが、WSJでは私がこのブログを始めた2014年以降そうした記事は一切掲載されていない。(昨年は、安倍首相が真珠湾を訪問したので例外だが。)米国では未だに真珠湾攻撃に関する関心は高く、こうした記事が掲載されても良さそうだが、日米関係に配慮しているのだろうか。

掲載箇所では、社説が1件、大リーグ特別面が2件、国際面が10件だった。

Friday, December 29, 2017

韓国は日本との過去の問題を再燃させる【A7面(国際面)】

1227日に韓国政府の諮問委員会は「2015年の慰安婦に関する日韓合意は犠牲者の意見を十分に反映していない。」とのレポートを発表したが、WSJ29日の国際面でこの問題を大きく取り上げた。



この合意内容は、20151222日に日本から提案され、提案から2週間も経たない28日に合意されたとしている。その間に、犠牲となった女性たちの意見を十分に聞いた形跡もなく、合意を急ぎすぎたのではないかと指摘している様に読める。


***** 以下本文 *****
戦時中に日本の慰安所で強制的に働かされた韓国人女性についての日韓間の紛争は2015年の合意により一時沈静化していたが、韓国はこの合意は犠牲者の希望を反映していないというレポートを発行し。この問題を再燃させた。
このレポートは、韓国外務省が任命した専門家による委員会でまとめられ、水曜日に公表された。
日韓両国は、高まる一方の北朝鮮のミサイルや核の脅威に対抗するために、米国と協力して、経済制裁や防衛協力を協調して行なっているが、こうした動きは日韓2国間の協力関係を損ねかねない。
日本の外務省は。もし韓国が合意に変更を加えるのなら、日韓関係はコントロールできない状況になると述べた。韓国外務省は、生存する犠牲者たちの意見も聞き、来年早々に対応を決定すると述べた。
いわゆる「慰安婦」問題への対応は、1991年に1人の女性が戦時中に韓国を占領していた日本から受けた扱いについて証言を行なったことを皮切りに、常に日韓間での懸案となってきた。
日本は何年にも渡って謝罪してきたが、韓国のリーダーたちはその誠意に疑問を呈してきた。
2015年の突然の合意のもとで、安倍首相は再度謝罪を行い、犠牲者やその遺族のために約9百万ドルを韓国の基金に拠出した。
当時の日韓両政府は、合意は最終的かつ不可逆的なものであるとし、オバマ政権はこの合意を歓迎した。しかし、翌年、朴槿恵大統領が失脚し、後を引き継いだ文在寅は、その合意は韓国國民の側に立っておらず、どのようにしてまとめられたのか再調査すると述べた。
委員会のレポートによれば、政府は、この合意に際して、犠牲者の意見を十分に聞かながった。
その当時は、40人以上の犠牲者が生存していたが、その多くは80代、90代だった。それ以降生存者の数は減少し、現在は32人になっている。
「日本軍の性奴隷として徴用された女性のための委員会」は、1980年以来犠牲者を支援してきたソウルの市民団体だ。同委員会は、この報告を歓迎し、韓国政府が合意を破棄することを要求すると述べた。
日本が拠出した基金を管理している韓国政府関係の団体によれば、2015年以降、拠出した基金のうちの約4百万ドルが、すでに34名の女性や遺族らに支払われた。
ソウルで行われた記者会見で、韓国の康京和外相は、このレポートにどの様に対応するかは、日韓関係への影響を考慮して、慎重に決断すると述べた。
「この問題は、他の外交問題とは異なる。こうした問題は、犠牲者の声を聞き、それらの声を反映させることが必要だ。」と外相は述べた。
韓国が再びこの問題を再燃させようしている動きに対して、日本では怒りが高まっている。政府関係者によれば、日本国民の韓国に対する感情は悪化している。河野外務大臣は、この合意について日韓政府は適切に議論したと述べ、韓国に対しその合意の完全な実施を求めた。
両国の外交官は、この合意がどの様にまとめられたか説明したが、その説明によれば、犠牲者の意見を聞く時間は極めて少なかったとのことで、この点が合意の基盤を弱くしている。
最初の雪解けは、2015年に安倍首相がソウルを訪れ、2013年に就任した朴大統領と初めて階段した際に訪れた。この会談の後、安倍首相はこの問題について、外交官同士の会談を加速させると述べた。日韓関係にさらに関心が集まったのは、その年の1217日だ。朴氏の名誉を毀損したとして、日本のジャーナリストが韓国の裁判所によって起訴されたのだ。
ある外交官によれば、この起訴によって、安倍首相は、合意の概要策定を急ぎ、1222日に合意概要案と共に外交団を韓国に送り込んだ。日本側は、朴大統領の任期が年末に切れることを念頭に、合意を急いだ。
両国間の交渉に関与した韓国側外交官によれば、韓国側は突然の日本の申し出に驚いた。彼は、その申し出を、日本による電撃攻撃と呼んだ。

「日本からの提案の中には、韓国が求めてきた重要事項、つまり再度の謝罪と女性たちへの賠償が含まれていたので、韓国側は合意せざるを得ないと感じた。」とこの外交官は言う。ソウルの日本大使館の職員たちは、合意に向けた準備のために、休暇の計画を短縮する様に求められた。そして、申し出があってから2週間も経たない1228日に合意は成立した。

Wednesday, December 27, 2017

日本の消費者物価はゆっくり上昇【A6面(国際面)】

総務省が1226日発表した11月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は11カ月連続で上昇したが、WSJはこのニュースを翌27日の国際面で速報した。

多くのデータが、日本経済の回復を示しているが、インフレ2%達成のためには、継続的で力強い賃金上昇が必要だとしている。

***** 以下本文 ******
日本政府が火曜日に発表したデータによれば、日本経済の改善はさらに進み、ゆっくりではあるが、日銀が掲げる2%のインフレ目標に近づきつつある。
11月の生鮮食品を除くコア物価指数は、1年前の同月に比べて0.9%上昇した。10月は0.8%の上昇だったので、上昇のペースは少し早くなっている。日銀が使っているもう1つの指標は、生鮮食品とエネルギーを除外しているが、やはり10月の0.2%から上昇して、1年前から0.3%の上昇となった。
政府が火曜日に発表したもう1つのデータによれば、11月の失業率は予想を超えて下落し、消費者物価も予想以上の上昇だった。日本経済は7四半期連続して改善しているが、こうしたデータはそうした動きが継続していることを示すものだ。
「日本は、ようやく、需要増が物価上昇に結びつく段階に入ったようだ。」と日本のソシエテジェネラルのチーフエコノミストであるアイダタクジ氏は言う。
最近のインフレは、エネルギー価格の上昇に助けられている。アイダ氏によれば、こうした傾向は、2018年上期には終息する。彼によれば、賃金の上昇が期待でき、それが2018年下期に消費や物価を押し上げるだろう。
他の中央銀行が、金利引き上げに動くのとは対照的に、日銀は、2%のインフレ達成に向けた勢いを維持したいとして、今年は過激な金融緩和策を継続してきた。10年物国債の金利をゼロにする政策も維持している。
何人かのアナリストは、もし消費者物価が1%以上のペースで上昇し、2%のインフレ達成に向けての勢いを維持できるのなら、10年物国債の利子をあげることに前向きになるだろうと述べている。
日銀と日本の政治家たちは、賃金、消費、価格の好循環を生み出すことによって、数10年続いているデフレと不景気を克服しようとしている。日銀の黒田総裁は、労働者不足から生じる賃金の上昇を、企業はまもなく消費者に転嫁するようになるだろうと述べた。
11月の失業率は、10月の2.8%から2.7%へと下落したが、これは過去24年間で、労働市場が最も逼迫した状況にあることを示している。労働供給は改善している。100人の求人者に対して、156の仕事ある。これは10月の155から改善していて、過去44年間で最も良い数値だ。
19801年代の日本のバブル経済の頃、高い賃金と強い消費意欲によって、価格は急速に上昇した。この時の失業率が3%以下だったとソシエテジェネラルのアイダ氏は言う。
11月の家計支出は1年前に比べて1.7%上昇したが、これはエコノミストの予測の0.5%を上回るものだ。最近政府が公表したデータによれば、正規雇用者の賃金はあまり上がっていないが、パートタイム労働者の10月の賃金は1年前に比べて、2.1%上昇した。
多くのデータが日本経済の強さを示しているが、アナリストの中には、将来について懸念を表する者もいる。「大きなそして継続的な賃金上昇によって、サービスの価格が上昇すれば、2%のインフレ目標を達成することが可能でしょう。」
とみずほ証券のチーフマーケットエコノミストのウエノヤスナリ氏は言う。「しかし、そうなる可能性は極めて低い。」