Wednesday, April 6, 2016

安倍は米日軍事同盟を擁護【A16面(国際面)】

WSJ45日に行った安倍首相への単独インタビューの記事が、翌6日の国際面に掲載された。



米大統領選で、トランプ氏が在日米軍撤退の可能性に言及し、共和・民主両党の有力候補がTPPを批判する中、安倍首相は日米同盟を強く擁護し、TPPを推進する方針を示したとしている。記事の最後には、アベノミクスの効果に疑問を示し、伊勢志摩サミットにおいて新たな財政支出を提案するのではないかと予測している。
(WSJ日本語版に同じ記事が掲載されていたので、以下に掲載させて頂きました。)

***** 以下本文 *****
 安倍晋三首相は5日、米大統領選で日米安全保障条約に対して疑問が呈される中、日米同盟を強く擁護し、「ナショナリズムをあらわにした行動」をけん制した。

 安倍首相はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)との1時間のインタビューに応じ、米国をはじめとする先進国は既存の貿易協定を支持すべきだとし、環太平洋経済連携協定(TPP)を推進する方針を表明した。TPPをめぐっては、米大統領選で民主・共和両党の候補が米国にとって不利益な協定だと批判している。

 共和党候補指名争いでトップを走るドナルド・トランプ氏が在日米軍撤退の可能性に言及したが、安倍首相は米軍が撤退し日本を自衛に委ねることができるかとの問いに、「今、予見しうるなかにおいて、米国のプレゼンスが必要ではないという状況は考えられない」と明言した。

 さらに、日本が米国と共に海外で武力行使することを容易にする安全保障関連法について、「日米同盟が強化されることで抑止力が強化され、それは日本のみならず地域の平和と安定に貢献」すると語った。

 米国のアジア地域における軍事政策の根幹を成してきた日米同盟をトランプ氏が疑問視していることなどから、今年の大統領選では日本などアジア諸国が異例の注目を集めている。共和党の各候補に加え、民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官とバーニー・サンダース上院議員もTPPを批判している。同協定は昨秋合意に至ったが、米議会ではまだ批准されていない。

 安倍首相は「TPPによって、世界のGDP(=国内総生産)の4割の経済圏が生まれ、自由で公正なルールによって守られた経済圏ができる」とし、「それによって米国、日本、TPPに参加した国々は大きな利益を得て、成長の可能性を得ることができる」と前向きな見方を示した。

首相は各米大統領候補の発言についてコメントすることは控えた。ただ、米国の国益を最優先する必要があると主張するトランプ氏の見方には幾度か間接的に触れる場面があった。トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)などの同盟の米国一般市民に対する恩恵を疑問視しており、最近の遊説では、米国は同盟国に「食い物にされている」と非難。「それに米国がどう対処しているのかといえば、何もしていない」と発言した。日本については「自国のことは自国で対応させなければならない」と述べていた。

米国は日本に約5万人の米軍を駐留させている。目下、米軍が抑止力の対象としているのは拡大を続ける中国の軍事力だ。周辺諸国が領有権を主張する南シナ海で中国は人工島を建設するなど実効支配を強めているが、安倍首相は中国政府が建設を中止すべきであるとあらためて表明した。

 日本は5月下旬に主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)で議長国を務める。安倍首相はこのサミットが「ナショナリズムをあらわにした行動」を抑制するリーダーシップを発揮する機会となると述べた。また、各国はインフラ投資を拡大することで経済面の懸念に対応できるとの見方も示した。

 米国では賃金上昇の鈍さや、大統領選候補者が超富裕層に恩恵が偏っていると指摘するなど経済に対する有権者の怒りが強まっているが、安倍首相は日本国内でもこれに似た状況に直面していると述べた。首相に就任した201212月には、成長の後押しを図る経済政策「アベノミクス」を打ち出し、日本を過去20年の景気停滞から脱却させ力強い成長を促すと公約した。

 だが日本経済は過去3四半期のうち2四半期でマイナス成長となり、2015年の実質国内総生産(GDP)は0.5%増にとどまった。実質賃金は4年連続で減少した。日銀は今年、マイナス金利を導入したが効果は上がっていない。

5日の外国為替市場では円がドルに対し1410月以来の高値に上昇。これを受けて日経平均株価は前日比2.4%安となった。最近まで、企業利益が過去最高に拡大する一助となった円安はアベノミクスの数少ない実績の一つと見られていた。

 さらに、安倍首相はデフレからの脱却を約束しているが、最近の全国消費者物価指数(CPI)は生鮮食品を除く総合指数が前年比ゼロ近辺で推移しており、その達成が依然として遠いことを示唆している。

 安倍首相はアベノミクスを擁護し、成功の途上にあると述べた。トヨタ自動車のベースアップ(ベア)水準が低くなったことを認めつつも、雇用市場の力強さに加え、今春は中小企業の賃金が伸びたと指摘した。

 また、このところの国内景気の低迷は海外動向に起因するとの見方を示し、米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げを開始したことにも言及した。

 「中国経済、景気減速への懸念、原油価格の下落や米国の利上げ動向など」により、「市場が大きく動いていて、日本の市場も大きく変動している」と説明し、こうした中で「日本の経済のファンダメンタルズはしっかりしている」と評価した。

 ただ、エコノミストの間では今年、日銀の追加緩和と安倍政権による景気刺激策の強化が広く予想されている。安倍首相は、「先進国でも古いインフラのリハビリや、あるいは環境重視型の投資やインフラ導入が求められている」として、G7首脳会議で日本が新たな財政出動を提案し、他の先進国にも同様の措置を促す可能性を示唆した。