WSJは4月15日の1面に、日銀のマイナス金利政策が、黒田総裁が予想していなかった意外な結果を生み出しているとする特集記事を掲載した。
マイナス金利導入により、銀行が貸し出しを増やし、企業が投資を、消費者が支出を増やし、結果としてインフレが誘発され、デフレが終結するはずだった。ところが、日本の銀行が海外債権を買い漁る方向に向かって、肝心の日本国内での貸し出しが思った様に増えなかったり、ゼロ金利というかつてない政策に消費者が不安を抱いて逆に財布の紐が固くなったりと、黒田総裁が予測していたのとは逆の現象が起きている。
マイナス金利政策という壮大な実験は、デフレ脱却どころか、逆に日本の市場を冷え切らせてしまった。
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「日本の2ヶ月にわたるマイナス金利の実験は意外な結果を生み出しつつある。」
「マネーマーケットでは、通常、大手銀行などが金利を得るために余剰の現金を預金している。日銀はマイナス金利政策がより多くの経済活動を促すための起爆剤になると予測しているにもかかわらず、金融市場での取引は萎んでいる。一方で、国債への需要は、金利がほぼゼロにもかかわらず増えている。」
「日本円は、値下がりするどころか、ドルに対して18ヶ月ぶりの高値となっている。」
「それでも、日銀の黒田総裁は、水曜日にニューヨークで、経済成長を後押しするために、国債買取プログラムを更に拡大させ、金利を更なるマイナス方向に切り下げる準備があると語った。『日銀は、必要と判断すれば、質、量そして金利について、追加の緩和策を行うことに躊躇はしないだろう。』」
「日本市場で取引している人達は、以前の様に黒田氏の言うことを信じていない。インタビューの中で彼らは、マイナス金利政策によって混乱を増している銀行や財政システム、そしてそれが引き起こした結果について語っている。」
「『毎日がアリスの不思議な国にいる様だ。』とBNPパリパ証券日本のフクイトモヒサ氏は言う。『金利の水準は借入需要に殆ど影響を与えていない。市場の機能は低下している。全てが計画通りにいくとは限らない。』」
「1月に日本は、銀行が日銀に預金している準備金への金利を2月からマイナス0.1%にすると発表して、世界を驚かせた。そうした動きは、銀行の貸出を増やし、支出を増やし、インフレを誘導するために行われた。しかし、今までの所ではその様にはなっていない。」
「低金利は、通常では、その国の通貨の価値を低下させ、輸出者を助ける。それが、安倍首相の景気刺激策であるアベノミクスの主たる目的だ。」
「しかしながら、世界経済が不透明になる中、日本円が緊急避難的な通貨として再浮上していること、更に、米国連邦準備銀行が金利引上げを遅らせる中でドルが弱まっていることから、日本円は強くなってしまっている。」
「需要は今までにないところから来ている。海外投資家だ。彼らはこの2年間、日本の低金利を嫌って、日本市場での取引を避けてきた。ところが、円が安い金利で提供されるため、国債からのリターンが増加したので、最近この市場に戻ってきた。」
「また、投資家は、日銀がこれ以上の緩和策を取る余地は無いとみて、円買いに走っている。」
「『金利引き下げが、企業投資を活性化させたり、家計の貯蓄を消費に向かわせたりするという保証はない。』と日本最大の銀行である三菱UFJ金融グループのヒラノノブユキ氏は述べた。マイナス金利政策は、将来への不安を増幅させ、家計や企業の支出を減らす方向に働いている。」
「日本の銀行のコンピュータシステムにも問題がある。マネーマーケットのブローカー達が使用している取引確認システムは日銀がマイナス金利を導入してから1ヶ月以上の間、マイナス金利に十分対応出来なかった。このため、日本金融ブローカー協会によれば、マネーマーケットでの取引高は3月末に2011年以来の最低となり、1月のレベルの約10分の1にまで落ち込んだ。」
「マネーマーケットでは、銀行などの金融機関は、担保が無くても貸し借りを行うことが出来る。もし短期市場に投資する銀行が減少すれば、他の銀行オペレーションをつなぐために短期借入をすることがより難しくなる。」
「ミューチュアルファンドや年金ファンドのために資金管理を行っている信託銀行は、余剰資金を、マイナス金利をもたらしているオーバーナイト金融市場にお金を置くよりも、ここ数週間は日銀の預金口座に置いている。」
「『もし、金融市場が干上がったら、リーマンショックの様なことが起きるだろう。銀行は資金を調達するインフラを失うことになる。』と三菱UFJモーガンスタンレー証券のストラテジストであるムグルマナオミは言う。『そうなると金利は急上昇する可能性がある。』」
「中央銀行にお金をおいておくと、マイナス金利の費用を支払うことになる。この様にしてわきに置かれたキャッシュが信託銀行の目標を越えたら。」4月18日から三菱UFJ信託銀行は、その様な経費を、ミューチュアルファンドのマネジャーや、年金ファンドに転嫁する。金融市場への投資に使われた余剰資金に対して、0.1-0.06%の金利を課す。もう一つの大手銀行である住友三井信託銀行も同様のことを行う予定だ。」
「金融市場では黒田総裁の期待と逆の問題が起きている。先月、彼は市場のプレーヤー達はマイナス金利に慣れてしまい、マネーマーケットでの取引は増えるだろうと述べた。黒田氏は、銀行は余剰金を日銀に預けておくと0.1%の金利を払わなばならないので、より高い金利で貸すことを希望するだとうと述べた。」
「しかしながら、日本の金融機関は、国内に投資するのではなくて、より高いリターンが見込める海外に目を向け始めた。財務省によれば、日本の投資家は3月に5.47兆円(500億ドル)の外国証券を購入した。これは、2月に比べて11%も多い。」
「海外金融機関がドルを購入する日本人投資家に課す手数料は高騰している。円をドルに交換する3ヶ月契約にかかる費用は0.298円で、これは1年前の倍だ。」
「海外投資家は、日本国債に戻したお金を還流させている。ここ数週間、こうした国債の金利はマイナス、つまり、投資家は日本政府にお金を払わなばならない。しかし、米国の金融機関がドルの貸出にかける手数料があまりに高く、マイナス金利の国債を持つコストを凌駕しているので、日本円を置いておくのに最も安全な場所なのだ。」
「結論。日本の国債市場は、通常海外投資家による保有高は10%以下の退屈な市場だったが、このところ海外投資家の興味が高まっている。データがある月としては最も最近の月である2月の海外投資家の中期日本国債買付高は、過去12ヶ月平均の倍になっている。」