Saturday, May 4, 2019

ソフトバンクは1,000億ドルファンドのIPOに重点を置く【A1面】

ソフトバンクがヴィジョンファンドのIPOと第二ファンドの設立を計画しているというスクープが、54日のWSJ1面に掲載された。



 当初4年間かけて使う予定だったソフトバンクヴィジョンファンド1,000億ドルを、投資意欲旺盛な孫氏は2年足らずで使い果たしてしまった。その対策として、ヴィジョンファンド自身のIPOと第2ファンドの設立を検討しているとしている。IPOについては、様々な規制を乗り越えられるか、第2ファンドについては投資元を見つけられるかなど、多くの課題があることを指摘している。

***** 以下本文(WSJ記事全文和訳)*****
関係者によれば、ソフトバンクは、大胆なファンドレイジングを検討している。1,000億ドルの投資ファンドの公開オファリング(IPO)と同様の規模の第2ファンドの創設を含む。急成長が見込めるスタートアップを的確に捉えるのが狙いだ。
もっと早いところでは、ソフトバンクは、既存の1,000億ドルのヴィジョンファンドへの10億ドルの投資について、オマーンと交渉している。ヴィジョンファンドは、ほぼ全ての現金をサウジアラビアやアブダビから調達してきた。
ファンドのスタッフは、ソフトバンクの創設者でCEOの孫正義氏の驚異的なディールのペースについて行くのに四苦八苦している。孫氏はヴィジョンファンドが持ち込んだほぼ全ての資金をわずか2年間で投資に使ってしまったのだ。
新しいファンドの必要性について話そう。孫氏は最近中国を訪問し、数10億ドルの非公式なディールについて交渉した。関係者によれば、このディールに必要な数10億ドルをヴィジョンファンドはまだ調達していない。
ヴィジョンファンドは、その1,000億ドルを4年間で投資にまわす予定だった。しかし、たった2年で使い切ってしまうことになりそうだ。
UberWeWorkなど投資した会社がIPOすることにより、若干の資金は調達可能だ。しかし、孫氏が購入したいもの全てをカバーするにはまだ不足している。孫氏のトップの代理人がロサンゼルスの会議で最近語ったところでは、ファンドは今後18ヶ月間で、スタッフを今の倍の800人にまで増やす予定だ。
関係者によれば、ヴィジョンファンドのIPOは、ファンドが完全に投資されてから行われる模様だ。秋頃までには行われることになるだろう。その意図するところは、ウォーレン・バフェット氏のバークシャイアー・ハザウェイの小型版を創設することだ。但し、投資対象は、電力・ガス、保険、エネルギー会社の様な十分に確立した安定企業ではなく、まだ利益も出ていない若いテクノロジー会社ばかりになる。もし成功すれば、マムアンドパプ(mom and pop)投資という新しい資金プールに入り込むことになる。あまり経験のない投資家をリスクの高い資産から守ることも目的とした規制があるため、こうした小さい投資家は、ベンチャーキャピタルファンドに投資することは、通常あり得なかった。

関係者によれば、ソフトバンクの幹部たちは、こうした規制を乗り越えるために努力しているが、オファー(IPO)は実現しないかもしれない。もう1つの障壁は、ファンドの最もホットな投資先が今年公開上場されるかもしれないことだ。こうなるとオファー(IPO)の魅力が減少してしまう。
「グローバルなアセットマネージャーとして、我々は多くの資金の出資元を評価している。」とヴィジョンファンドの広報官は言う。いかなる決断も行われていないことも付け加えた。
ソフトバンクはまた、第2のファンド創設計画を進めている。これは、孫氏が公の場で、欲しいと表明したものだ。代理人のトップは、ロサンゼルスでの会議で、この案を議論した。
関係者によれば、東京に本社を置くこの会社は、銀行に、これらの資金の1部の調達を手伝ってくれないかと話している。新しいファンドには2つのクラスを設ける予定だ。確定したリターンを保証するリスクの少ないものと、ファンドが最低限の利益を上げた場合にのみ支払いが行われるリスクの高いものだ。
1つ難しいのは、機関投資家を見つけることだ。例えば、年金ファンドや保険会社で、通常彼らが求めるようなガヴァナンスやプロセスがないファンドに積極的に投資するようなところだ。今のところ、ファンドは、通常こうした要求をしない政府系投資ファンド以外からは資金を調達できていない。それに加えて、サウジやアブダビを探し回ることによって、幾つかの企業から少額の投資を得た。こうした企業の中には、アップルやクワルコムがいるが、彼らの運命はソフトバンクと絡み合っている。ソフトバンクは、日本の大手携帯電話キャリアの親会社だし、米国のスプリントの主要オーナーでもある。アブダビはコメントを拒否。サウジの担当者にコメントを求めたが返答が無かった。
資金の大きなプールを利用することは、孫氏が描く様なサイズのファンドには極めて重要だ。ヴェンチャーキャピタリストは、通常、数10億ドルの資金を調達する。昨年は、産業全体で550億ドルが調達された。彼らは、小さなファンドや裕福な家族、設立者や寄付などからお金を調達する。
オマーンから資金を調達するのは難しいことが分かった。同国は経済的な問題に直面しているからだ。オマーンにもコメントを求めたが返答は無かった。
もう1つの課題は、現在のヴィジョンファンドは、幾つかの投資に関して問題を抱えている。事情に詳しい人によれば、リターンを持ち上げるための計画の1は、アームホールディングズの株式をソフトバンクに移管することだったが、現在は見合わせている。アームホールディングズの業績は期待を下回るものだったので、リターンもヴィジョンファンドが投資家に示したい数値を大きく下回った。
ファンドの株主への支払いは60億ドルに達しているが、これまでのところ、2つの投資から支払われている。1つはインドのイーコマース会社フリップカート社の株式のウォールマートへの売却。もう1つは上場されているNvida株取引からの利益だ。
ソフトバンクは、現金とその他の資産で、第2のヴィジョンファンドに500億ドル投資したいと考えている。しかし、同社は、負債の負担が重いことと、スプリント社の業績が悪いことから、財務的には重圧を抱えている。ソフトバンクはスプリントをTモバイルに売却しようとしているが、当局からの抵抗にあっている。

Wednesday, May 1, 2019

徳仁天皇が即位【A8面(国際面)】

新天皇の即位について、WSJ1日の国際面で速報した。


 【要約】コンパクトな記事だが、「退位の儀式で明仁天皇が台の上からお言葉を述べられた後、美智子様に手を差し伸べられ、美智子様が台から降りられるのをお手伝いした。」という小さなエピソードをわざわざ取り上げている。私もこの仕草には感動したが、WSJもこの仕草から、明仁天皇の暖かいお人柄を感じたのだろう。

 ***** 以下本文(WSJ記事全文和訳)*****
日本は、水曜日、踊りや花火で、徳仁天皇の即位を歓迎した。新たな元号である令和もスタートした。
59才の徳仁は深夜0時ちょうどに、正式に新しい称号を継承した。それは、彼の父である明仁天皇が日本国民にお別れの言葉を述べ、30年間の治世を終えた数時間後だった。
天皇が自ら退位するのは、光格天皇が1817年に退位して以来、200年以上振りだ。
「これまで天皇としての務めを、国民への深い信頼と敬愛をもって行い得たことは、幸せなことでした。」と明仁は皇居で行われた退位の儀式で述べた。
85才の明仁は、20168月に体力の衰えに言及し、退位の希望を示唆した。
明仁は、300人の閣僚や延臣の前で高い台の上に姿を現し、刀や宝石などの皇位を示す宝物の前で、はっきりとした完璧な口調で、事前に準備されたお言葉を読み上げた。その後、台の上から降りた明仁は、妻であり皇后である美智子に手を差し伸べ、彼女が台から降りるのを助けた。
日本国憲法では、天皇は国家の象徴であり、政治的な権力は持っていない。

神が世俗と出会う場所【A13面(文化面)】

49日から630日までオハイオ州のクリーブランド美術館で「神道-日本美術における神性の発見」展が開催されているが、WSJはこの展示会について51日の文化面(LIFE&ARTS)で取り上げた。


 【要約】長い間かけて日本人の中に定着した神道は、非常に複雑な側面を持ち、簡単には理解出来ないとしている。その上で、この展示会では、神道と「庶民」の係わり合い、「貴族」との係わり合い、「他の宗教」との係わり合いが、順路に従って展示されており、神道を考える上で必要となる基礎的な知識が理解出来ることを報じている。

***** 以下本文【WSJ記事全文和訳】*****
クリーブランド美術館で開催されている展示会「神道-日本美術における神性の発見」を見終わった人は誰でも、元気に溢れた祭りの様子から神を思い起こすイメージまで、凄い作品たちとかかわったと感じていることだろう。これらの作品の中には重要文化財に指定されているものもあり、多くは日本からの貸与品だ。そして多くの作品が神への尊敬と結びついている。これらの作品は、10世紀から、政府が神道を国家宗教だと宣言した1868年までのものだ。日本が長い間かけて積み重ねてきた神の道は、簡単に定義することは出来ない。それは素晴らしいことだ。
米国の美術館は、日本美術の収集品の中に、神道に関する作品を入れることが多いが、この日本の土着宗教ともいえるものに特化した展示会は珍しい。このテーマは、とても大きく扱いにくいものだ。しかし、クリーブランド美術館の日本美術の主事であるシネッド・ヴィルヴァーは、崇拝者と神の係わり合いにフォーカスすることによって、基礎的な知識が理解できるようにアレンジしてくれた。もと神は、もともとは自然の精神的な力として考えられていて、神は石や木などに宿っていた。6世紀半ばの仏教の伝来に影響を受け、神を人間の形をした像として彫り始め、10世紀までには、農業や記念行事に合わせたお祭りのスケジュールが確立していた。そうした行事は、仏教の寺や、神のための家とも言える神社などの神聖な建物で行われた。
こうしたお祝い行事は、最初はショーだった。そして、絵や美術品から見てとれる様に、神を喜ばせようとする一方で、世俗的な楽しみにもなっている。例えば、17世紀の2枚の屏風の前にしゃがみこむと、ちょうど目の前で、組み合っている相撲力士や、もがきながらも馬に跨る人や、ドラマチックなポーズをとる着物を着た役者を見ることが出来る。少し近寄って役者の顔つきを見ると、酔っ払って一歩ごとに飛び跳ねる客の赤くなった顔つきをからかっていることに気づくことが出来る。
この祭りの雰囲気に満ちた色とりどりの喧騒は、やわらかく描かれた2つの屏風に歩いて近づくにつれて、消えてしまう。1つは15世紀前半、もう1つは16世紀のものだ。どちらも鹿が雲の断片に立って、頭を上げて、肩からこちらを見ているところを描いている。その鞍からは、5の仏教徒が描かれた金の玉を高く掲げる木の枝が伸びている。この優美な動物が力強い神の乗り物だということを知らなくても、我々は、現世から神の領域へ渡っていることに気づくのだ。端っこには、木の彫像で満たされた空間がある。しかし、このショーのレイアウトは、まず最初に神と仏教の神、力強い貴族たちとの関係を描いた部分へいざなう。
例えば、鹿は14世紀の仏陀の遺品を含んでいると主張されている整骨箱の中にも再び現れる。17世紀の屏風には悪口によって引きずり下ろされた尊敬されていた貴族も取り上げている。図に示されている様に、彼の怒りはとても強く、死後、強力な神である天神になってもその怒りはおさまらない。このことを頭に入れておくと、我々は、彫刻展示室の中央にある像が、彼であることにすぐに気づく。現実的で印象的な美術として知られた時期である1259年に彫られたこの「座った天神」は、口をへの字に曲げ、鼻の穴を大きく開き、眉毛がくっついてチェックマークの様になっている。眉毛の下で、目はレーザーの様な鋭さで睨みつけている。3週間後には、一部の作品が入れ替えられるが、その時には1261年の同じような天神が展示される予定だ。
物理的にも感情的にも、彼は他の神像よりも大きい。神像とは神が宿るもののことだ。これらの神像は全て2フィートより小さく、自己充足していてよそよそしい平穏さを発している。これは適切だと思う。何故なら、礼拝者は、離れた広間から、礼拝し、願いことをお願いするからだ。神道はもともと精霊信仰に根ざしているので、時間と共に、神像の表面が取れて木が剥き出しになっているのも、違和感は無い。これにより、神像は統一した外見に見える。しかし、1つだけ10世紀の彫像は仏教の僧侶の様に見える。彼は、八幡だ。八幡とは、菩薩となった最初の神だ。12世紀の軍人の彫像は、神像の様だが、1つの木を彫ったものだ。彼は、神秘的な占いのシステムと結びついている。
ここから先は、信仰の絡み合いが強まる。神は巡礼者を受け入れるだけでなく、巡礼の旅に出かけることもしていた。17世紀の日枝山王祭りの巻物を描いたにみられる様に、神は、籠に乗って旅をしていた。人気の目的地は山だった。16世紀から17世紀初頭の大きな巻物に描かれた神格化された滝が示す様に、山はそこに住む神ゆえに崇められた。禁欲的な宗派である修験道の創設者である縁の行者も山を崇拝していた。13世紀の彫像は、彼が聖なる言葉を唱えているところを描いている。同時代の彫像は、縁が山を守るために呼び集めた恐ろしい仏教の神を描いている。

最後の展示室は、神が仏教と関係する他の方法を示す作品で占められている。幾つかの絵画は、特定の菩薩と仏陀の関係について描いている。しかし、ここにも修験道と道教が現れる。我々が、神道を、今まで無かった様なきちんとした静的なパッケージにまとめようとする衝動を阻止するのだ。

Monday, April 29, 2019

安倍首相はWTO改革を推進【A6面(国際面)】

安倍首相は428日午後、カナダ・オタワでWTO改革に取組む意向を表明したが、WSJはこのニュースを翌29日の国際面で速報した。



 この意向はカナダ・オタワでトルドー首相と共同記者会見の際に表明されたこと、6に大阪で開催されるG20で、WTOの紛争処理のあり方を議論する考えを示したこと、などをコンパクトに伝えている。この背景に、「韓国よる水産物輸入規制解除を求める日本の訴えをWTO上級委員会が退けた問題」に対する安部首相の苛立ちがあることは伝えていない。代わりに「米国はWTOに公正に扱われていない。」というトランプ大統領の苛立ちに触れている。

***** 以下本文全文和訳 *****
日本は今年G20の議長国だが、安倍首相は、この機会にWTO改革を推進したいと述べた。
オタワでのカナダのトルドー首相との共同記者会見において、安倍首相は、WTOは変化する経済状況にうまく対応していないと述べた。
「貿易ルールを作る際には、21世紀の現実が反映されねばならない。」と安倍氏は語った。「WTOは経済の変化に追いついていない。従って、WTOは変革されねばならない。」
WTOの交渉機能は再興されねばならないし、その紛争解決の仕組みは期待通りに機能せねばならないとも付け加えた。
安倍首相は、G20の首脳を6月に大阪で迎える。
西側諸国は、WTOの改革にフォーカスしているが、これは主にトランプ大統領の懸念に対応するためだ。トランプ政権は、WTOは米国を不当に扱っていると主張している
昨年、カナダは、米国と中国を除く主要な西側諸国を招いて、ジュネーヴに本部を置くWTOの欠陥にどう対処するかを討議する会議を主催した。WTOについては、政府の補助金によって歪められている取引きを公表したり取締ったりすることを十分にやっていないし、IP保護を統括するルールも不十分だなどの懸念が寄せられている。

Saturday, April 27, 2019

トランプ大統領は安倍首相に関税撤廃を迫る【A6面(国際面)】

426日に行われた日米首脳会談について、WSJは翌27日の国際面で速報した。



【要約】日米会談のトピックの中心は「2国間の貿易協定」で、トランプ大統領は、日本が農産物への関税を撤廃しないなら、日本の自動車への関税で対応すると発言したとしている。これに対して、安倍首相は、日本は米国に巨額の投資をしており、多くの雇用を生み出していると強調したとしている。トランプ大統領は、5月の訪日時に、協定にサインをしたいと意欲を示したことも報じている。トランプ大統領の5月の訪日目的は、徳仁天皇の即位式出席のためとしているが、これは誤報だろう。なお、北朝鮮問題についても話し合われたとしているが、拉致問題についての言及は無い。


***** 以下本文【WSJ記事全文和訳】 *****
トランプ大統領は、日本との新しい貿易協定について、楽観的な見方を示した。しかし、金曜日には、米国農産物に対する日本の関税は撤廃されねばならないと発言し、対抗措置として日本の車に関税をかけることを示唆した。
大統領執務室に日本の安倍首相と座って、トランプ大統領は、日本は我々の農産物に大きな関税を課していると発言した。そして彼は次の様に付け加えた。「我々は彼らの車に関税をかけていない。ならば、そこを何とかしなければならないと思う。」
通訳を介して、安倍首相は、日本は、何百億ドルもの投資を米国にしていると指摘した。そうした投資により、数万人分の雇用が生まれた。
貿易での対立はあるものの、両リーダーは個人的には仲が良いとトランプ大統領は語った。トランプ大統領は、来月、日本の次の天皇である徳仁の即位のために日本を訪問する際に、サインをしたいとも述べた。
貿易以外にも、両リーダーは、北朝鮮の非核化についても議論する予定だ。土曜日には、2人は、ヴァージニア州スターリングにあるトランプゴルフクラブでゴルフをする予定だ。
両国は、貿易協定について交渉しようとしている。その様な時に、安倍首相の訪米は実現された。この協定によって、日本に米国でより多くの車を生産する様に誘導するだけでなく、農業市場の開放を迫る。
日本の茂木経済産業大臣と米国のライトハイザー通商代表の間で行われるハイレベル交渉は、先週ワシントンで始まった。両国ともに、協定締結に向けてこの交渉を重要視している。
日本は、米国が昨年課した鉄鋼とアルミに対する関税の撤廃を求めている。また、トランプ大統領が自動車と自動車部品に25%もの関税を課すと脅しているが、これを避けたいともしている。一方、米国は、日本との貿易において、米国の輸出者が不利になっているとして、こうした状況を改善するために協定の締結を求めている。
日本よりも貿易額が大きい国は、中国、カナダ、メキシコの3国だけだ。2018年に米国は、日本から1,430億ドルの製品をを輸入した。その中で最も多いのは400億ドルに上る乗用車だ。米国は、より多くの乗用車が、日本から輸入されるのではなく、米国内で製造されることを望んでいる。
米国の通商代表部は、これだけ貿易額が大きいにもかかわらず、自動車、農業、サービスなど主要分野の米国の輸出者は、数十年にわたって日本の関税もしくは非関税の障壁に悩まされてきており、こうした障壁が日本に対する慢性的な貿易不均衡をもたらしているとしている。
日本と米国は、もともとはTPPの交渉メンバーだった。TPP環太平洋の10ヶ国(日本を除く)による貿易協定だ。トランプ政権はこの交渉から撤退したが、他の11ヶ国は協定を締結させた。これが意味するところは、カナダ、メキシコ、オーストラリアなどのTPP署名国は、対日貿易において、米国より有利な立場にあるということだ。
2月にハノイで行われたトランプ大統領と金正恩主席との会談が具体的な成果を出せず、その後、米朝会談の行方は不透明になっている。安倍首相の訪米はそうしたタイミングでもあった。金曜日にトランプ大統領は、彼が金正恩主席と大変に良い関係を維持しており、中国、ロシアの両国も米朝両国を支援していると述べた。

日本のトランプ大統領への贈り物【A12面(社説)】

426日に行われた日米首脳会談について、WSJは翌27日の社説で取り上げた。


 【要約】まず、今回の会談で日米関係の重要性が再確認出来たとしている。その上で、今後の日本との貿易交渉の進め方として、トランプ大統領は、日本車に対して25%の関税をかけるという強硬姿勢を軟化させ、その見返りに米国の農民にとって有利な貿易条件を日本から引き出すべきだと主張。米国の農民はTPPや日欧貿易協定の締結によって、大きな不利を被っていて、その事態改善が必要との立場。

***** 以下本文【WSJ記事全文和訳】*****
トランプ大統領は、金曜日に日本の安倍首相をホワイトハウスに招いて、貿易や防衛について議論した。9月に会談して以降、お互いを必要としてきたが、今回の会談でそのことが、より明確となった。貿易問題では、トランプ大統領は自動車輸入を問題視しており、このままではお互いに有利がディールが期待できない。トランプ大統領がこうした点を克服出来るかどうかが争点だ。
米国の農民たちは、トランプ大統領がTPPから離脱したことにより、経済的な機会を失った。11ヶ国でのディールが12月に施行されて以来、米国の市場シェアは他の国々に奪われてきた。日本が牛肉への関税を38.5%から26.6%へと引下げると、カナダとニュージーランドからの輸入は、それぞれ、345%133%と跳ね上がった。もし、こうした輸入急増がセーフガードの関税のトリガーとなったら、米国産ビーフへの関税は50%となるが、TPP10ヶ国の関税26.6%のままだ。
カリフォルニアワインの醸造業者も日本市場では壊滅的だ。ナパヴァレーの輸出業者は15%の関税を払っている。一方でオーストラリアのワインへの関税は、5.6%まで下がった。欧州のワインメーカーに至っては、2月に施行された日本とEUとの条約により、関税無しで日本市場へのアクセスが可能だ。この条約では、欧州の科学製品、乳製品、制約業などの、米国と激しい競争を繰り広げている分野でも、欧州が有利になる。
「米国の麦、牛肉、豚肉、乳製品、ワイン、ジャガイモ、果物、野菜などの輸出業者は、日本での市場シェアの壊滅的打撃に直面している。日本での有利な販売条件が他に国々に奪われているからだ。」と今週、88の米国の食品企業と食品団体が、米国の通商部のライトハイザー通商代表に手紙を書いた。
TPPは農民にとっての援助となるだけではなく、サプライチェーンのスリム化により、製造業者も便益を得たであろうし、テクノロジー企業、製薬産業、ハリウッドの娯楽産業などもIP保護により便益を得たであろう。この条約は、経済分野での中国に対する対抗措置となるが、米国無しではその有効性は低い。
トランプ大統領は、日本との2ヶ国間条約の締結を模索している。彼にとって幸運なのは、日本の対中国輸出が不振なので、日本が米国に対する反対姿勢を緩和させていることだ。安倍首相は、北朝鮮に関してもトランプ大統領の支援が欲しい。日本の経済関係の官僚は、トランプ大統領が25%の関税を自動車にかけるという強硬姿勢を諦めれば、その見返りに米国の農民のために市場を開放することを示唆した。
これは、トランプ大統領にとっては、魅力的なディールだろう。いずれにしても、日本車の70%は米国で製造されているのだから。トランプ大統領がTPPに参加しないとしても、少なくとも日本との良い条件での貿易を受け入れられるのだ。

Tuesday, April 16, 2019

福島原発で核燃料取出しを開始【A6面(国際面)】

15日に東京電力福島第一原発3号機の使用済み燃料プールにある核燃料の取り出し作業が始まったが、WSJはこのニュースを翌16日の国際面で速報した。



【要約】3号機からの取出し作業は4年遅れでようやく開始になったこと、3号機だけで取出し作業に1年かかること、1,2号機に3号機の倍の核燃料が残されているがこれらの取出し作業は3機の作業完了後になること、核燃料取出しの後には「溶け出した核燃料」の取出し作業が待ち受けているが、これについてはまだやり方も固まっていないことなど、これからの作業がいかに前途多難であるかをコンパクトに整理して伝えている。

***** 以下本文【WSJ記事全文の和訳】*****
損壊した福島原発の運用会社は、2011年の津波被害でメルトダウンした3つの原子炉のうちの1つから核燃料を取り出す作業を開始した。何十年にも及ぶ廃炉に向けた重要なプロセスの1つだ。
3号機の冷却プールには566の使用済みと未使用の核燃料が保管されているが、東京電力は作業者がその中の最初の1つを取り出す作業を行ったと述べた。原子炉上部のプールにある核燃料は、被害があったにもかかわらず、そのまま放置されている。プールは密閉されていないので、2011年に津波を引き起こしたのと同等の大地震が起きた際には大被害を起こす可能性がある。そうした可能性を避けるためには、核燃料を安全な場所に移動させることが極めて重要だ。
東京電力は、第3号機からの核燃料の取り出しには3年はかかると言う。そして、その後、未だに約1,000もの核燃料がプールに残っている2つの原子炉についても同様の作業が必要だ。
冷却プールから核燃料を取出した後には、原子炉内部から溶け出した核燃料を取出すという更に難しい作業が待ち受けている。この難しい作業をどの様に行うのかについての詳細は未だによく分かっていない。冷却プールから核燃料を取出す作業は、想定外の事故や高い放射線量、原子炉がメルトダウンした時の爆発による燃料デブリなどにより、4年以上遅れている。
作業者は、クレーンを遠隔操作して、核燃料を格納庫から持ち上げ、輸送容器に入れる。それぞれの輸送容器には7つの核燃料が格納され、プールから引き上げられる。そして、トラックまで引き下ろされ、施設の他の場所にあるより安全な冷却プールへと運ばれる。
核燃料を取出すことにより、溶け出した燃料を除去するための広いスペースが確保される。

Friday, April 12, 2019

日本は貴方を笑顔で迎えてくれます。【A15(専門家投稿欄)】

日本はサービスに溢れた素晴らしい国だとする専門家の投稿が、12日の専門家投稿欄に掲載された。


 【要約】「日本ではフライトアテンダントが笑顔だ。」「日本の電車の駅には必ずトイレがある。」「東京のビジネスホテルのコスパは凄い。」「日本の建物内はどこも明るい。」「日本の電車は速くて正確。」など、日本では当たり前だが、米国人にとっては信じがたいことが、羅列されている。思わず笑ってしまう。


***** 以下本文【WSJ記事全文の和訳】)*****
飛行機に乗ったら笑顔で迎えられたいですよね。目的地に到着したらリーゾナブルな価格のホテルでゆっくりと寝たいですよね。必要な時に近くにトイレが見つかると良いですよね、ニューヨークやアルバカーキーではあり得ないこうしたサービスが、ユーザーに優しい日本では提供されているんです。
最近、全日空で東京からニューヨークに向かったのですが、フライトアテンダントがみんな笑顔なんです。35歳のユウコさんが特に笑顔に溢れていたんですが、彼女によれば、フライトアテンダントの笑顔の80%は訓練によって人工的に作られているそうです。「でも、私の笑顔は自然なんですよ。」彼女には3才と6才の子供がいます。彼らは何故お母さんが頻繁にいなくなるのか分かっていないのですが。子供が病気だったり、家族に問題があったりする時は、笑顔は難しくないですよね。暖かくて親しみのある笑顔が出てきます。「私はあなたを助けるためいるんです。」という気持ちのこもった笑顔は、日本のサービス業全体に広がっています。ユナイテッドやアメリカンで日本まで飛んで、全日空との違いを実感してみて下さい。
・「公衆トイレ」について。ニューヨーク交通局が最近4,000万ドルをかけて、72番街とセントラルパーク西の駅を大改造しました。でも、駅にはトイレがないままなんです。同性愛者のトイレの権利は異常なまでに強調されていますが、通常の人の公衆トイレに対する要求は多くの場合無視されてしまうのです。日本では全ての電車の全ての駅にトイレがあります。ビジネス関係の建物には殆どの場合、きれいな公衆トイレがあります。日本人は異常なまでに清潔さを求めますが、こうした清潔なトイレから、日本人の礼儀正しさが読み取れます。東京の地下鉄では、エスカレーターのハンドレールを掃除しているのを見かけます。しかも、エスカレーターはめったに故障していません。
・「リーゾナブルな価格のホテル」について。友人に、ニューヨークの良いホテルを教えてくれと尋ねられると困ってしまいます。ニューヨークではホテルは通常、一泊200ドル以上します。私は日本では、東横インかルートインという全国展開のホテルを使いますが、たった50ドルから80ドルくらいの値段で、信じられない程のサービスが得られます。インターネット、朝食、新聞、ズボンプレッサー、こうしたものが全て無料です。こうしたホテルの多くは、駅のすぐ近くにあります。部屋が信じられない程小さいのが問題ではありますが、すぐに慣れてしまいます。東京や大阪の不動産価格は、ロサンゼルスやシカゴと同様に高いです。日本のホテルのビジネスモデルは、アメリカでも採り入れることが出来るはずです。
良く知らない土地に着いた時には、ちょっとしたヘルプが欲しいですよね。日本では観光客が多い殆どの町に観光局があります。アルファベットでINFORMATIONと書かれていますが、これはいまや日本語の一部になっています。
・「明るさ」について:様々な分野の心理学者が明るい環境は、生産性を向上させ、人を幸せな気分にすると言っています。日本では、お店もホテルも電車の駅も、灯りで照らされていてとても明るいです。アメリカの首都・ワシントンの地下鉄に乗ったことがありますか?お葬式が出来てしまいそうですよね。
・「信頼出来る交通機関」について:日本は高速鉄道を1964に発明しました。新幹線は東京・八戸間392マイルを2時間48分で疾走します。何故、我々アメリカ人は、日本と同じ様な効率的な鉄道や地下鉄を作れないのでしょうか。ボストンからワシントンまでアセラ特急に乗ると7時間もかかりますが、新幹線なら3時間です。

そして日本では生活を便利にするためのちょっとしたものがあるんです。トイレの小便器の横には、傘をかけるためのフックがあります。銀行に行くと拡大率の異なった複数の虫眼鏡があります。多くの電車の駅にはコインロッカーがあります。ポータブル簡易トイレは、80歳台の人が外出を嫌がるという問題を解決しています。

Thursday, April 4, 2019

ゴーン氏は新たな罪で逮捕【A1面】

東京地検は4日早朝にゴーン氏を特別背任の疑いで逮捕したが、WSJはこのニュースを同日の1面で速報した。




【要約】今回の再逮捕の理由は特別背任であること、ゴーン氏は無実を主張していること、今後3週間にわたって拘束される可能性があることなどを、検察、ゴーン氏の主張を公平に扱いながら、コンパクトに伝えている。


***** 以下本文【WSJ記事の全文和訳】
日産のゴーン会長が、保釈されてから1ヶ月も経っていない木曜日の早朝に、新たな金銭的な不正の疑いで、東京で再逮捕された。
検察は金曜日の早朝にゴーン氏の東京のマンションに押しかけ、特別背任の疑いで逮捕すると告げた。特別背任とは、彼が日産での地位を悪用して、私腹を肥やしたという意味だ。
検察によれば、2015年から2108年の間に数回、ゴーン氏が個人的にコントロールしている会社が、日産が海外の販売代理店に送金したお金の一部を受け取れる様に、ゴーン氏がアレンジしていた疑いがある。販売代理店に送金した1,500万ドルのうち、ゴーン氏は500万ドルを個人的に受け取った疑いがあると検察は主張している。 
検察は、販売代理店の名前や国については明らかにしていないが、この事件に詳しい人たちによれば、ゴーン氏が数100万ドルの会社のお金を、オマーンの代理店であるスヘイル・バウワン・オートモービルズ(SBAを通して個人的に使用した可能性について、日産は調査してきた。日産の調査では、同社がSBAに支払った資金の一部がゴーン被告の家族のクルーザーや、被告の息子が一部所有する米国の投資ファンドに流れていた証拠が見つかった。
「今朝の私の逮捕は、法外で恣意的だ。」とゴーン氏は代理人によって発表された声明の中で述べた。「私の心を折る目的以外に、逮捕する理由があるのか?私は負けない。私はくじけることはない。根拠のない疑いについて、私は無実だ。」
今週の頭に、ゴーン氏の弁護士であるジャンイヴレノーヌ氏はオマーンの事件について、「批判される様なことは何もない。ビジネスに関係した通常の支払いだ。」と述べた。
ゴーン氏は金融関係の罪で起訴された後、36日に保釈された。彼は、1119日に逮捕された。
検察は、逮捕後48時間、ゴーン氏を拘束できる。その後、裁判所の許可を得れば、さらに10日間拘束可能だ。さらに裁判所の許可を得れば、さらに10日間拘束を延長することも出来る。つまり、ゴーン氏は3週間にわたって、取調べを受ける可能性がある。その後、検察は、彼を他の罪で起訴するか、釈放せねばならない。
木曜日のこの出来事の1日前に、ゴーン氏はツイッターのアカウントを開設し、「何が起きているのか真実をお話しする準備をしています。411日木曜日に記者会見をします。」とつぶやいた。
声明の中でゴーン氏は、「108日にわたって間違って収監された後、今私の最も大きな希望と願いは、公正な裁判だ。」と述べた。
以前、ゴーン氏は、当局に提出された日産の年次会計報告書の中で繰延報酬について虚偽の記載をし、個人的なお金の問題でゴーン氏を援助したサウジアラビア人の友人のビジネスに日産のお金を横流しした罪で起訴された。
ゴーン氏は、将来の報酬について仮定の話はしたが、金額は確定していなかたので、報告の必要は無かったと述べている。彼はまた、日産に大きな利益をもたらす重要なサービスの見返りに、日産はサウジアラビアの企業に支払いをしたと述べている。

Monday, April 1, 2019

新元号は令和に【A9面(国際面)】

41日に新元号が発表されたが、WSJはこのニュースを同日の国際面で速報した。


 【要約】令和は「Auspicious(幸先の良い)& Peace(平和)」を意味すること、万葉集からの引用で、中国の古典から引用するという伝統からの離脱であること、年号は天皇の在位期間毎に付けられることなどがコンパクトに報道されている。

***** 以下本文【WSJ記事全文和訳】*****
日本は何ヶ月もの間「年号当てクイズ」に沸いたが、月曜日に日本政府は、51日の徳仁親王の天皇即位による新元号を令和にすると発表した。
この新元号は、2つの漢字から成る。伝統的書物で幸先の良いを意味する「令」と平和を意味する「和」だ。官房長官の菅義偉は、この新元号の名称は、日本古来の詩集である万葉集から取ったと述べた。中国の古典から年号の名称を引用するというこれまでの伝統からの離脱だ。

日本では、政府などの機関は、西暦の代わりに、天皇の在位で数える年号を使っていて、それぞれの天皇の在位期間に対応する年号が付けられる。今年は平成31年だが、これは明仁天皇が即位してから31年経ったことを意味する。

Sunday, March 31, 2019

*** 3月のまとめ ***

 3月にWSJ(ウォールストリートジャーナル)に掲載された日本関係の記事は5件だった。2018年の平均が7/月、1月が5件、2月が2件だったので、少し少なめ。

面白かったのは、掲載箇所だ。このブログを開始して初めて、国際面への掲載回数がゼロだった。
1面が4件、専門家投稿欄が1件。
1面にこれだけの記事が取り上げられるのも珍しい。

 テーマ別では、政治関係が1件、経済関係が2件、社会関係が2

政治関係では、米国はもっと日本を大切にすべきだという専門家の投稿が掲載された。日本はイスラエル同様に周りに敵ばかりの孤独な国で、唯一の友人である米国に頼るしかない。米国はそのことをよく理解して、日本とは仲良くして、東アジアでのパワーを維持すべきだという意見。日本とイスラエルを同じ立場として描いているのが新鮮だった。

経済関係では、ゴーン氏関係の記事が2件掲載された。7日にはゴーン氏の保釈のニュースを1面に取り上げた。また、29日には独自取材によりこの事件の核心に迫る渾身のレポートが、これもまた1面に掲載された。フランス政府とゴーン氏の裏取引や、日産と検察の司法取引などが生々しく描かれていて面白い。

社会関係は、ユーモラスな記事が、7日の1面下部のコラムに掲載された。こんまりこと近藤麻理恵さんのネットフリックスの番組が大ヒットした影響で、欧米で片付けブームが巻き起こり、中古品ショップが悲鳴をあげているとのこと。また、千鳥が淵の満開の桜の写真が30日の1面トップを飾った。

Saturday, March 30, 2019

日本で桜が開花し花見客が【A1面】

330-31日の週末、東京では桜が満開となったが、WSJ千鳥が淵でのお花見の様子を30日の1面トップで写真入りで大きく伝えた。


 【要約】桜が咲いて、日本中がお祭り気分(FESTIVALに包まれていると報じている。写真に少し短い注釈が付いただけの記事だ。

***** 以下本文(記事全文和訳)*****
お祭り気分の時。東京の皇居近くにある千鳥が淵のお堀には、ほぼ満開となった桜のお花見をするためにボートに乗る人たちが。この地域は、お花見のベストスポットの一つとされている。お花見の季節はとても短いが、日本中がお祭り気分に包まれる。

Friday, March 29, 2019

日産の反ゴーンの策略の背後にフランス支配への恐れが【A1面】

2018年初頭のフランス政府とゴーン氏の裏取引」、「20186月の検察と日産の司法取引」を軸に、ゴーン事件の核心に迫る記事が、329日の1面に掲載された。


【記事要約】
2018年初頭に、ゴーン氏がフランス政府と裏取引。ルノーの大株主であるフランス政府はゴーン氏にルノーCEOの地位を約束することの引き換えに、ゴーン氏にルノーと日産の完全合併を推進することを約束させた。日産は、フランス政府がルノー・日産の合併を推進していることを察知し、経産省や首相官邸に、フランス政府と交渉するように迫ったがあまりうまくいかなかった。また、これまで合併反対派だったゴーン氏が、地位に目がくらんで、賛成派に寝返ったことも把握。たまたま、ゴーン氏による不正容疑の情報を入手した日産幹部が、20186月この情報を使って司法取引。「日産が、役に立たない『政府』の代わりに『検察』を利用してゴーンを失脚させ、フランス政府に抵抗している。」というのがこの事件の本質だと言っている様に読める。

***** 【記事全文和訳】*****
カルロスゴーンが逮捕され、収監され、ルノーと日産での肩書きを剥奪された後、日産・ルノー連合の幹部2名がアムステルダムで面会した。雰囲気を一新するために。
通常の取締役会の後に開催された夕食会は、ルノーと日産のトップにとって、お互いを知る絶好の機会だった。それはとても友好的な会だった。しかしその後、ついでの話という感じで、日産の西川CEOが爆弾を落としたのだ
2人の会話に詳しい人によれば、日産の幹部数人がゴーン氏にとって不利になる証拠を集め、ある一つの目的のためにそれらの証拠を検察に提出したはずだと西川氏は発言した。日産の幹部たちは、日産とルノーの完全合併の可能性を排除したかった。彼らはゴーン氏が合併を推進しているのではないかと恐れていた。日産の反抗分子たちは、日本の会社である彼らの会社が、フランスの支配下になることを恐れていたのだ。
131日の夕食会の会話の中でのこの驚きの告白は、アライアンス構築のために世界中を飛び回る自動車業界の巨人であ65歳のゴーん氏に対して、何故日産が突然半旗を翻したのかを説明するものだ。
ドキュメントや捜査に詳しい人によれば、2人の日産の幹部は、更なる合併への動きを停止し、ゴーン氏についての調査を開始し、長い間噂されていた疑惑を追及し、問題となっている金融犯罪についての証拠を見つけて検察に渡したのだ。彼らの最大の目的は、日産を守ることだった。日産は、文字通り、日本の産業を意味するのだ。こうした見方は、まさに世界中の国々が自国の主要企業を守りたいと考えていることを映し出している。
ドキュメントによれば、彼らは調査を20184月に開始した。その同じ月にルノー株の15%を持つフランス政府は、何故合併を推進したいかという理由を説明した。
「もし外国の企業が来て、過半数の株式を取得すれば、それは衝撃だろう。」と業界のシンクタンクであるオートモーティブリサーチのCEOあり、日産の元幹部であるカーラバロ氏は言う。「日本は誇り高い国家だ。」
ゴーン氏は容疑を否認しているが、108日間にわたって拘留された後、36日に9百万ドル近い保釈金を支払って、保釈された。検察は、ゴーン氏が2つの日本の法律に違反しているとして起訴した。一つは、企業の財務情報開示に関する法律、もう一つは、企業幹部がその地位を利用して私腹を肥やすことを禁止した法律だ。彼は、日産とルノーでの幹部としての肩書きを失っている。2ともに、彼を取締役からも排除する計画だ。
ゴーン氏の失脚を計画した日産の幹部が望んだ通り、合併の話し合いは振り出しに戻った。
ゴーン氏の弁護士である広中淳一郎氏は、こうした動きをゴーン氏の弁護に使いたいと考えていると語った。日産の幹部は、ビジネス戦略を巡る確執が理由で行動をとったのであり、それが刑事事件をゆがめてしまっていると彼は指摘する。
日産の報道官であるニコラス・マックスフィールドは、内部告発者の動機は必ずしも適切ではないとしながらも、日産の調査によれば、明らかに非倫理的な行動についての多くの証拠が見つかったと言う。「この一連の事件の唯一の原因は、ゴーン氏の主導による犯罪行為だ。」
ゴーン氏は、世界最大の自動車業界のアライアンスの指揮を執っていた。ルノー、日産、と3つめのアライアンスメンバーである三菱自動車3社を合わせた、昨年の乗用車販売台数は1,076万台で、これはライバルの誰よりも多い。彼は日産をうまく経営して成果を出し、それによって彼は日本ではビジネス界のスーパースターとなった。
彼の逮捕以来、ルノーの株価は9%以上下落し、日産の株価は上下しているものの8%以上下落した。
「日産は日本のチャンピョンだ。日本人にとって、簡単に失えるものではないのだ。」と2008年から2012年まで駐日フランス大使を務めたフィリップ・フォール氏は言う。

紛争の種
日産はルノーより多くの車を売っているが、アライアンス内での力関係では弱い。1999年に日産が苦境に陥った際にルノーが救済したため、その後はルノーは日産の株式の43.4%を保有している。一方、日産はルノーの議決権無しの株式を15%保有しているだけだ。
日産株からの配当や部品購入や設計での規模の利益が無ければ、ルノーは自力では生き残ることが出来ない。この点については、両社の関係者も合意している。
ルノー株の15%を保有しているフランス政府は、国内の自動車工場はフランス製造業の要だと考えている。同時に、ルノーの株式を保有し、ルノーへの支配力を維持することによって、その意思決定に大きな影響力を持つことになるとも考えている。
ルノーと日産の独立は微妙なバランスの上に保証されてきたが、昨年、ゴーン氏のルノーでの会長とCEOの契約が更新されことによって、その微妙なバランスが揺らいだ。ゴーン氏は、何年にもわたって、アライアンスを永久に続くものにせよというフランス政府からの圧力をうまくかわしてきた。しかし、いまや、ゴーン氏は、自身のリーダーシップ継続に対するフランス政府からの支援を確実にすることを選んだのだ。
ルノーに詳しい筋によれば、ゴーン氏はルノーのCEO職から降りようと考えていた。それは、20年近くにわたって彼が維持してきたアライアンスへのコントロールをある程度失うことになる。
「彼は、アライアンスの次のステップを実現するために、CEOに留まることを決意した。」と当時ゴーン氏と話をした人物は言う。
2018215日のルノーのニュースリリースによれば、ゴーン氏は、若干の給与カットを受け入れ、アライアンスが逆戻りしない様に決然とした態度をとることをコミットした。
ある日産の幹部は、ゴーン氏の態度はその頃から変化したと言う。「彼は、色々なことを強く要求する様になりました。合併についても、どの程度のスピードでそれを実現すべきかについて考えを持っていた様でした。そしてそのスピードの通りに進まないと非常にイライラしていました。」
フランス政府は、ルノーの取締役会に送り込んでいるマーティン・ヴィアルを通して、より直接的に関与するようになった。マレーシア生まれの日産のベテランで、日産CEO室長のハリ・ナダは423日にヴィアル氏と面会し、ナダ氏が歓迎しない合併に関して実現への強い要求を受けた。このことは、ナダ氏がゴーン氏との打合せ用に作成したレポートに示されている
ヴィアル氏は合併のメリットについてのドキュメントを送ってきたが、日産の株主からのコメントや考え方については何も考慮していないとナダ氏はゴーン氏に報告した。
ゴーン氏を知る人によれば、彼は10年以上両社のCEOを務め、両社の独立性の擁護者として認識されてきた。
ナダ氏はヴィアル氏に日産の要求を伝えた。日産の保有株の減少、ルノーが日産の支配を求めないという約束、フランス政府の撤退だ。
ナダ氏がゴーン氏に宛てたレポートによれば、ヴィアル氏はこの要求をあまりに犠牲が大きいとして拒否した。
同レポートによれば、ここで、日産の対政府関係責任者のカワグチヒロシが参戦した。彼は、経済産業省の役人と頻繁に連絡を取って、日産のサポートに回る様に要求した。
同省は、ナダ氏の要求を明文化したフランス政府との間の合意書のドラフトを作成した。要約すれば、フランス政府は日産の独立性を尊重せねばならず、いかなるコミュニケーションも日本政府を通して行わなければならないというものだ。
それは、日産の幹部から見てもあまりに過激な要求だった。カワグチ氏はゴーン氏に「ドラフトを通すのは無理だろう。」と語った。日産のCEOの西川氏は、日産は首相官邸に通産省をより確実にコントロールするように要求すべきだと語った。カワグチ氏は、さすがにそれは日産が出来る領域を超えていると思った。
日産は難しい立場にいた。フランス政府の介入を回避ために日本政府の助けを求めていた。しかし、日本政府にとってフランス政府をコントロールするのは難しかった。ゴーン氏はそれまで日産の独立性維持のために発言してきたが、それを維持してくれるのかどうかは不確かとなっていた。フランス政府とゴーン氏からの圧力によって、ゴーン氏のかつての盟友は、彼を終わりにするための計画者になっていった。
日産の調査に詳しい人によれば、ナダ氏はゴーン氏に何年も仕え、オランダのZi-A Capitalという日産の関係会社に関する奇妙な金融取引をみてきた。同社の開設に詳しい人によれば、その会社はスタートアップ企業へ投資する会社のはずだった。
その代わりに、その会社はゴーン氏がコントロールするオフショアの会社を通して、ゴーン氏の家を購入していた。ゴーン氏のスポークスマンは、その家は会社が保有していて、購入は適切なチャネルを通して行われたと言っている。
日産の内部調査により、ゴーン氏が行ったとされる不適切な行為が幾つも発覚した。その中には、日産が資金負担したベイルート、リオデジャネイロ、パリの家を彼が使用していたことも含まれる。ゴーン氏の家族は、それは日産の他の人からも認められていた役員の特典だったと述べた。
6月にはナダ氏は日本の検察と司法取引をした。それによって犯罪捜査は加速された。
ゴーン氏はこうした動きには全く気づかず、2つの会社の統合をさらに進めるという彼の計画を推進していた。

失脚
フランス政府は、ゴーン氏に、政府の要望をどの様に満たしていくかのロードマップを、615日までに示すように求めた。ルノーの株主総会までに計画を発表したいという考えだった。しかし、日産が抵抗を続けたために、期限守れなかった。
夏の間、西川氏は、日産を分割する計画を密かに作成していた。西川氏がゴーン氏に送った書類によれば、その計画は、本社機能をアライアンスに移し、実働部隊を日本に残すというものだ。その中で、西川氏は、これ以上待つよりも、20203月までに新しい枠組みを作った方が良いと書いていた。ゴーン氏が尋ねると、西川氏は、両社にとって受入れ可能なシナリオを作っていると答えた。
関係者によれば、秋までにゴーン氏は枠組みについて決定した。日産、ルノーと小さなパートナーである三菱自動車の上に、持株会社を作るというものだ。この案によれば、持株会社のそれぞれのユニットは、独立して機能することを約束されるが、一つの株式として取引される。
内部調査に詳しい日産社員によれば、検察がゴーン氏を刑事告訴するための十分な証拠を掴んだということを、、西川氏は10月初旬に部下のナダ氏やカワグチ氏から知った。
その後数週間にわたって、ナダ氏は検察がゴーン氏の飛行機が東京に着陸したらすぐに中に踏み込むためのアレンジをした。
一方、西川氏は、アライアンスの将来について話し合うためのゴーン氏との個人的な会談をモロッコで行った。その会議の結果について報告を受けた人によれば、彼らは1時間半にわたって話し合ったが、西川氏は捜査については触れなかった。それが2人が会った最後だった。
ゴーン氏が1119日に東京に着陸すると、検察官が踏み込んできた。ゴーン氏は最初は動揺したが、日産の政府関係役員であるカワグチ氏に電話をした。ゴーン氏の長い間の部下であるカワグチ氏が事態を打開してくれると信じて。ところカワグチ氏が、事態を打開する代わりに、弁護士を送ってきた。
彼に対する多くの容疑について有罪となれば、15年以下の禁固刑となる。彼の裁判は早ければ秋には始まる。