11月にWSJ(ウォールストリートジャーナル)に掲載された日本関係の記事は10件だった。1月から10月までの月あたり掲載数が、平均6.5件だったので、掲載数として平均を上回った。
テーマ別では、政治関係が0件、経済関係が9件、社会関係が1件。
11月20日までは、日本関係の記事の掲載件数は1件しかなく(若者の自殺者数がここ30年で最高を記録)、掲載回数の最低記録更新かと思っていが、11月19日にゴーン氏が逮捕されると、翌20日からこの関係の記事を9件も掲載した。
9件のうち、実に6件が1面掲載(うち、1件は1面トップ)、社説掲載が2件で、このニュースが米国でも大きな関心を集めたことが覗える。この時期は、米国は感謝祭の休暇時期で、新聞発行日数が少なかったことを考慮するとなおさらだ。
19日にゴーン氏逮捕、22日に会長職解任、24日には未記載報酬のうち50億円が退職後の支払いになっていることが明るみにと、この事件は、連日のように大きな進捗があり、そのたびにWSJは、1面で大きくかつ詳細に報道した。
まさにゴーン氏一色だったが、9件の記事では、下記の5つの点が、日本のマスコミとは少し切り口が異なっていて面白いと感じた。
(1) ゴーン氏の経営手法は時代遅れ
ゴーン氏は、グローバルに規模の拡大を追求しているが、自動運転、電気自動車へとシフトする中、自動車業界の競争力の源泉は「規模」から「知の蓄積」へとシフトしている。今回の事件で失脚しなくても、ゴーン氏の経営は行き詰まり、遅かれ早かれ失脚していただろう。
(2) ルノーが主導権を握ってもフランスは雇用を守れない
今回の事件の背景には、ルノーと日産の主導権争いがあるとされる。ルノーの背後には、フランスの雇用を守りたいフランス政府がいる。しかし、フランスは、最近のイエロー・ジャケット運動などを見ても分かる様に、労働者が強く、人件費が高い。この様な状況では、いくらルノーが主導権を握っても、フランスでの雇用を維持するのは難しいだろう。
(3) 日産の対応の不可解さ
仮にゴーン氏への容疑が裏付けられたとしても、何故、日産幹部がこれらの点ついて知らなかったのかが大きな疑問として残る。本当に知らなかったのならば、コーポレートガバナンス上の大問題。実は日産はもっと大きな疑惑を握っていて、検察と裏取引しているではないかとも思えてくる。東芝やオリンパスが同様の問題を起こした時には、幹部は逮捕されておらず、どうしてゴーン氏だけがこんなにひとい扱いをされるのかも疑問。
(4) ゴーン氏が報酬を隠そうとした背景に民主党政権
ゴーン氏が高報酬を隠そうとした理由は、多くの従業員の解雇を実施した企業トップがあまりに高報酬を得ることに、日本国民の理解を得られないと考えたからという理由に加えて、当時の左寄りの民主党政権からの高報酬に対する暗黙の圧力があったらしい。
(5) 司法制度の特殊性による情報の欠如
検察がゴーン氏を長期にわたって拘束しており、ゴーン氏本人口から主張が聞くことが出来ない、弁護士も日本人だからか、また取調べに同席出来ないからか、弁護士からの情報提供も無い。日本の習慣なのか、検察からの情報提供もない。本人、弁護士、検察いずれからも情報提供がない中、マスコミは憶測情報に基づいて、興味本位の報道を繰り返さざるを得ない。
批判の矛先が、フランス人であるゴーン氏の経営手法、フランス政府、日本企業である日産、日本の政治、司法、マスコミにまで及んでおり、一味違う。
なお、掲載箇所では、1面が6回、社説が1回、国際面が3回だった。日本関係の記事がこれだけ1面に掲載されるのは異例のことだ。