グローバルに規模拡大を追求するゴーン氏の経営手法は、既に時代遅れとなっており、今回の事件がなくても、遅かれ早かれ失脚していただろうと言っている様に読めるがどうだろうか。自動運転や電気自動車などの出現で、自動車業界の競争のルールが変わる中、新しい経営者たちは、規模を追い求めるのではなく、知の蓄積を求めはじめたことを、具体的な経営者の名前と共に紹介している。その上で、ゴーン氏の様なグローバル主義経営者が、ここ10年で失脚した例を幾つかあげている。また、そんな時代遅れのゴーン氏を日本のマスコミがスーパースターとして取り扱ってきたことも揶揄している。
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過去20年間、もしゴーン氏を捕まえたければ、飛行機に乗ることがベストな方法だっただろう。
レバノン人の両親のもとにブラジルで生まれた64才の自動車会社幹部は10,000マイル離れた所に本社を持つ2つの会社を結びつけ、大きな評価を獲得した。昨年、彼は、1年先までスケジュールが一杯だと私に言っていた。
「私は4つの職場を持っています。」とニューヨークでのインタビューで語った。タイトなスケジュールの中、多くの側近を連れて彼はインタビューに現れた。彼は、アムステルダム、パリ、東京の2ヶ所に本拠地を置いていた。それに加えて、現実に起きていることから乖離しない様に、分刻みでの仕事をこなしていた。
超多忙な生活は月曜日に突然停止した。東京で虚偽の申告の疑いで逮捕されたのだ。彼は1990年代に救済した日産は、彼を追い出そうとしている。日産は、ゴーン氏が築きリードしてきたアライアンスでルノーと連合を組んでいる。
自動車会社の幹部と言えば、以前は、フェースブックのマーク・ザッカーバーグやアマゾンのジェフ・ベゾスなどのシリコンヴァレーの創設者たちが今日果たしている様な役割を果たしていた。アイア・コッカやヘンリー・ザ・ドゥース・フォード2世、フィアットのジアンニ・アグネリらの様な象徴的な大物たちは、華やかな生活や精力的な経営スタイル、よく引き合いに出される様な上手いコメントなどで注目されていた。
ゴーン氏はこうした時代の大物たちの再来だ。その功績により、日本のマスコミは彼をスーパースターとして扱ってきた。彼はコミックブックでもヒーローとして描かれた。主要新聞の協力により自伝も出版した。2006年には私と同僚で「地球上で最も熱い自動車業界の人物」としてウォールストリートジャーナルでも取り上げた。
「こうした通常よりも偉大な人物というのが、すごいことを成し遂げるためには必要だ。しかしこうした人々は同時に大きなマイナス面ももたらす。」とボブ・ルッツは月曜日に私に言った。彼は、GMの副会長などの幹部職を歴任して長い間自動車業界で活躍した人物だ。葉巻をくわえたルッツ氏もいつもスポットライトを浴びていた。
ゴーン氏の突然の失脚は、彼が経営する一企業という枠を越えた、グローバルな自動車ビジネス全体の変化の当然の帰結だ。彼は、自動車業界で頑張っている最後のグローバル主義者だの一人だ。いまや、多くの自動車業界のリーダーたちは、自動車業界は、地域毎に特性が異なり、統合することは困難だと考えている。
ゴーン氏と同じ様な考え方を持った人たちは、ここ数年、道端にどんどん倒れてきた。複数の頭を持った巨人であるフォルクスワーゲンのアーキテクトの一人だったマーチン・ウィンターコーン氏は2015年の排気量操作スキャンダルで失脚した。チェインスモーカーでフィアットとクライスラーの提携を主導したセルジオ・マルキオーネは7月に亡くなった。ゴーン氏の盟友でもあったダイムラーのCEOであるディーター・ゼッシェ氏は6ヶ月後に退任する。
ゴーン氏とマルキオーネ氏は、循環的で多くの資金を必要とする自動車事業には大きな規模が必要だとの見方を共有していた。この原則に従えば、バッテリーの開発やAIの研究にかかるコストをシェアするためにアライアンスが形成される。
しかし、合併はいまや自動車産業ではその効果が疑問視されている。今世紀頭のクライスラーとダイムラーの合併の失敗が、合併はうまくいかないという例になっている。
ゴーン氏が最も大きな希望を抱いてから長い時間が経過した。10年程前に、彼は日産・ルノー連合にGMを加えようとした。しかし、それはGMの幹部に拒否された。当時、GMは、利益を求めて規模の拡大は犠牲にしていたが、それでも売上はナンバー1だった。
トヨタの豊田章夫やフォードのビル・フォードのような他の幹部も、自動車業界の将来が益々不透明になる中で、守りの姿勢を取った。「より小さく、よりリーンで、よりシンプルなベンチャーが必要だ。」とルッツ氏は言った。
マルキオーネ氏は2010年代初めにGMとの合併を試みたが、GMのCEOのメリー・バーバラはその申し出を拒否し、必ずしも大きくなることが必要なのではなく、より賢くなることに投資していく必要があると指摘した。
一方、ゴーン氏は、拡大の野望を捨てていない。最近も、スキャンダルまみれの三菱自動車を買収し、世界で売上高トップの自動車メーカーに躍り出た。
彼はまた、過去の自動車産業と将来起こることを結びつける橋を築こうとしている。日産・ルノー連合の殆どの自動車は、120年前のテクノロジーに頼っているが、一方で、ゴーン氏は、自動運転や電池自動車の推進者でもある。日産のリーフは、業界発の電気自動車で、今でも売上トップの地位を維持している。
日産とルノーは持ちこたえるだろう。しかし、もしこの2社が今回のゴーン氏の事件で別れてしまったら、自動車会社のグローバル化への動きは大きく後退することになるだろう。