11月19日にゴーン氏が逮捕されたが、WSJは23日の1面で、ゴーン氏がいなくなると、ルノー・日産連合を維持していくのが難しいとする記事を掲載した。
この記事は、まず、ゴーン氏が羽田空港で逮捕された瞬間を詳細に描いている。その日、羽田に着いたゴーン氏はお嬢さんとお寿司を食べにいく約束をしていたのだが、お嬢さんは約束を反故にされる。そして、逮捕後の東京拘置所でのゴーン氏の一日の暮らしに着いても詳細に描いている。(ちなみに有罪なら、懲役10年程度とも報じている。)
また、ルノーは、日産に対し、検察からゴーン氏の容疑が裏付けられる説明があるまでは、ゴーン氏の会長解任決議を行わない様に要請したが、日産はこれを無視して、22日に会長職を解いた。ここまで、日産とルノーの溝が深まるに至る経緯についても具体例を交えながら、詳細に描き出し、そうした状況でもなんとかアライアンスが持ちこたえてきたことには、ゴーン氏の貢献が大きいとしている。
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自動車業界で最も知られたリーダーの一人、カルロス・ゴーン氏の逮捕は突然で、劇的だった。しかし、これにより、ゴーン氏が10年以上かけて構築し、支配してきた日産とルノーのアライアンスに亀裂が入った。
ルノーのCEOで会長であるゴーン氏は、日産での4,400万ドルの報酬を報告しなかった容疑をかけられている。ゴーン氏は日産の会長も兼務している。木曜日に日産の取締役は、無記名投票により、ゴーン氏の会長職を解いた。
また関係者によれば、日産の内部調査では、ゴーン氏が数100万ドルの不明瞭な日産の資金を使って、豪華な家を購入し改装したことが分かっている。
ゴーン氏は日本の拘置所の抑留されている。月曜日に東京に到着してから数時間後に逮捕されたので、ゴーン氏からの公の説明は聞けていない。また、コメントを得るために、ゴーン氏に接触することも出来ない。日本の公共放送であるNHKは、元検察官で現在は弁護士の大鶴基成がゴーン氏の代理人となっていると伝えた。弁護士事務所にコメントを求めたが拒否された。
ゴーン氏が不在の間に、長い間心にわだかまっていたストレスが表面化しつつあり、ルノー・日産のアライアンスが以前思われていたよりももっと問題をはらんだものだったことが分かってきた。フランスと日本の自動車メーカーの時代を先取りする様な結婚に関係した10名以上の人達にインタビューした結果分かったことだ。
売上が日産より少ないルノーの労働組合幹部たちは、忍び寄る「日産化」に飲み込まれてしまうのではないかと懸念している。日産では、多くの日本人従業員が、外国人が早く昇進し給与も良いことに不満を持っている。ベテラン従業員が会社をその設立時の精神に戻すために、外国人の駆逐を企てていると密かに話す従業員もいる。
ゴーン氏の逮捕の数時間後、ルノーの取締役会は、パリの本社に急遽集まり、非公式の会議を持った。取締役達はセーヌ河のほとりにある事務所のU字型のテーブルに座った。一部の取締役は電話で参加した。日産出身の取締役は参加しなかった。
ゴーン氏は長い間日産のリーダーとして君臨したが、日産は声明を発表し、ゴーン氏がトップだった期間は不正に満ちていたとして非難した。日産の西川廣人CEOは記者会見を行い、ゴーン氏は会社の金を個人目的で使い込んだと発言した。ゴーン氏はまだ起訴されていない。もし報酬を開示しなかったことが裏付けられれば、ゴーン氏は10年程度刑務所に収監されるだろう。
ルノーの取締役は、日産によるこの事件の取扱いに、ショックを受けている。
「とても乱暴だ。」
緊急会議に参加したあるルノーの取締役は、他の取締役に「これは、とてもとても乱暴だと思う。」と言った。
その会議で、ルノーの筆頭外部取締役のラガイエット氏は西川氏からのメッセージを大きな声で読み上げた。日産は、ルノーと日産のジョイントヴェンチャーでありオランダに本社を置くルノー・日産BVで不正が行われた可能性があるという証拠を持っている。
この話にルノーの取締役たちは驚いた。ルノー・日産BVはゴーン氏が連合を組むのを助けた日産・ルノーという2つの会社を繋ぐための会社だからだ。取締役は、日産、ルノーから同数が派遣されていて、ゴーン氏が会長、西川氏が副会長を務めている。ルノーの取締役は、ゴーン氏が日本の刑務所に収監されている限り、パワーバランスが西川氏や日産に有利に働くのではないかと心配している。
ルノーの取締役たちは、日本の捜査官が、ルノーの関与無しにアライアンスの記録を調査することに反対だ。「我々は、彼らだけで調査させることはしない。」と取締役の一人は他の取締役たちに言った。
次の夜は火曜日だが、ルノーの取締役会は公式の会議を招集した。関係者によれば、今回は、日産から派遣されている取締役は、参加してはならないと告げられた。何故なら、彼らには利益相反があると見做されるからだ。
2日後、日産の取締役会は4時間にわたる会議を開催した。そこで取締役たちは、ゴーン氏に対する容疑についてサマリーを受けた。
ルノーの取締役会に詳しい人によれば、日本の検察からもっと多くの情報が得られるまで、ゴーン氏についての決定を延ばして欲しいと要請した。
日産の対応
日産の取締役会は、(ルノーの要請にもかかわらず)ゴーン氏の会長職を解くことを決定した。
ウォールストリートジャーナルは、日産の取締役会からルノーの取締役会へのレターをレビューしたが、日産の取締役会は、ルノーにゴーン氏の交代となる取締役の指名をさせないと明言した。理由としては、ゴーン氏は日産の取締役としての地位は解かれていないし、日産から見れば、ルノーは日産の取締役会にこれ以上の取締役を送る権利をもっていないからだ。日産のスポークスマンは、ゴーン氏の取締役の地位を解くためには、株主総会の決議が必要だと述べた。
ルノーが日産に要請した情報の提供は、進展しなかった。日産の取締役会のレターによれば、東京地検による操作を妨害していると見做されるので、日産は情報は提示出来ないとなっている。
この件について、ルノーの広報官にコメントを求めたが拒否された。
木曜日に開催された取締役会の後、日産は声明を出したが、そこにはゴーン氏は3つの重大な不正を犯したと記載されている。長年にわたる報酬の不正申告、会社の資金の私的使用、経費の不適切な申告の3つだ。
ルノーと日産は1999年にアライアンスを組んだ。この年、ルノーは苦境に陥った日産を支援し、再建を指揮させるためにゴーン氏を#2として送り込んだ。ゴーン氏は日産を赤字から転換させ、数年の内に、世界で最も大きな利益を生み出す企業へと育てあげた。しかし、彼のコストカットのやり方に対しては、日本では憎しみも生み出した。
気まずいアライアンス
「日産とルノーのアライアンスは、外部には綺麗な協力関係として見せられているが、実際には日産幹部にとっても、ルノー幹部にとっても好ましいものではなかった。」と元日産の幹部社員は言った。彼は、西川氏のゴーン氏への動きを、ブルータスのシーザーに対する裏切りに例えた。
西川氏は、記者会見で、ゴーン氏の解任はクーデターかと聞かれ、「そうではないと思います。」と答えた。
フランスのルメール経済財務大臣は今週、ルノーの15%の株式を保有しているフランス政府は、法の支配の原則を重んじており、ゴーン氏に向けられた嫌疑を裏付けるいかなる証拠も見ていないと述べた。
木曜日にルメール氏は、日本の世耕経済産業大臣とパリで1時間にわたって会談した。会談の後2人の大臣は、ルノーと日産のアライアンスに対する強いサポートと、両国に利益をもたらすこのアライアンスを維持したいという共通の思いを再確認した。
関係者によれば、ゴーン氏の家族は彼に会うことが出来ていない。フランス大使館によれば、ブラジル生まれでフランス国籍を持つゴーン氏は、在日本フランス大使の訪問を受けた。
東京拘置所に詳しい弁護士によれば、収監者は地位にかかわらず、同様の扱いを受ける。彼が経験していることが他の人達と同じであれば、80スクエア平米の広さの部屋で過ごし、午前7時に起きて、午後9時に就寝する。収監者は、週に2-3回の入浴を許され、米、麦、おかずからなる食事を3回食べられる。
その弁護士によれば、昼の間は主に検察の取り調べを受ける。そこでは、弁護士の出席は許されていない。但し、弁護士は短時間の訪問をすることは出来る。
これは、ゴーン氏にとっては、秒刻みの生活からの決別だ。彼は、東京とパリの自宅を行ったり来たりし、会社のジェット機で移動していた。2017年に、タウンアンドカントリー誌は、ゴーン氏とその妻の、マリー・アントワネットをテーマにしたヴェルサイユでの結婚式について大きく取り上げた。18世紀の衣装とかつらをつけた俳優が出席し、テーブルにはケーキやペイストリーが高々と積み上げられていた。
逮捕された月曜日には、ゴーン氏はガルフストリームのジェット機で、東京の羽田空港に午後3時41分に到着した。ベイルートからの5,500マイルの旅の後だった。彼は、娘と寿司ディナーを楽しむ約束だった。しかし、娘の代わりに、日本の検察官たちが機内に入ってきた。5時間も経たないうちに、彼は東京のど真ん中で逮捕された。
ゴーン氏の他に、日産取締役で長い間ゴーン氏の補佐をしてきたグレッグ・ケリーも逮捕されたが、検察は、2人が少なくとも5年にわたって、ゴーン氏の報酬を少なく申告してきたという疑いも持っている。関係者によれば、検察は、申告されたなかった報酬の中には、インセンティブ報酬の1種である株式評価益権が含まれるとみている。株式評価益権は、株式がある価格を越えたら支払われるものだ。ゴーン氏同様、ケリー氏も起訴されていない。
ケリー氏にコンタクトしてコメントをもらおうとしたが、出来なかった。
西川氏は、記者会見で、ゴーン氏の決然として実践的な経営スタイルは権力が集中し過ぎた時に、マイナスに働いたとの考えを示した。
「同じ人があまりに長く権力の座にいると、問題が発生し始めると思う。ガバナンスの観点ばかりでなく、オペレーションの観点からもだ。」と西川氏は述べた。
日産の多くの社員にとって、西川氏は、日産が今やルノーとのアライアンスをリードする地位を得るチャンスを象徴する人だ。日産社員は、日産がアライアンスをリードするに値すると感じている。昨年、日産の売上は、日産・ルノー連合の実に60%を占めた。ここ数年、日産には、日産のルノーへの出資比率15%を増やすとか、ルノーの日産への出資比率43%を減らすとかいった案が浮上した。
キー・プレーヤー
「我々は、自分たちをアライアンスにおけるキー・プレーヤーだと認識すべきだ。」と西川氏は、2017年9月のウォールストリートジャーナルとのインタビューで発言した。その時、彼は、ゴーンの後継として指名されてから、4ヶ月が経っていた。「私たちは、アライアンスの成長と統合の主要な推進役になるべきです。」 2016年以降、アライアンスには、第3の自動車会社である三菱自動車が加わった。
日産とルノーは技術でも対立した。日産の技術者の中には、日産の方が先端技術では優れていると言って、ルノーのコスト主体のアプローチに不満を表明するものもいる。
こう言ったケースの一つが、電気自動車用バッテリーでのせめぎ合いだ。
2010年頃、日産は電気自動車であるリーフの充電用に自社製のバッテリーを開発した。ルノーは、ルノーが韓国のLGシェムから調達している安いバッテリーに切り替える様に圧力をかけてきた。
ルノーのチームは、日産のバッテリーは高すぎると言った。日産は、自分たちのバッテリーはより安全だとして、それに固執した。
しかし、安価な中国製のバッテリーが出現し、日産は8月に自動車用バッテリー事業を売却することに合意した。
ゴーン氏はこうした緊張関係によって、2社間の溝が取り返しがつかない程大きくならない様に、2社をうまく率いていた。
ゴーン氏の娘は、月曜日に東京でディナーを取りながら父とのデートを楽しむ予定だったが、結局父とは会えなかった。
彼女は、ゴーン氏のマンションで待っていた。その時、携帯がニュースアラートを受信し、父の逮捕を知ったのだった。