Tuesday, October 3, 2017

日本の選挙のドラマは、実際には安定をもたらす【A17面(国際面)】

WSJは、103日の国際面で、日本の衆議院選挙について「希望の党の出現など自民党に不利な展開になっている様に見えるが、実際には自民党の一党支配を更に強める結果となる。」とする逆説的な記事を掲載した。



要約すると以下の通り。:日本では、改革を主張する人は実はそれを隠れ蓑にして既存概念の強化を狙っている場合が多い。小池氏は、表向きは改革を主張しているが、実際に強化しようとしているのは、安倍首相が推し進める国家主義的な戦略だ。日本では、政党間の政策やイテオロギー論議が重要な意味も持ったことが無く、自民党内の派閥間の抗争の方がより重要な意味を持ってきた。小池氏の「希望の党」は、この意味で、西洋的な政党では無く、むしろ自民党の派閥がもう一つ出来たと理解すべきだ。従って、希望の党と自民党が幾ら争ったところで、誰が首相になったところで、最終的には自民党の一党支配強化につながる。そして、それは、日本の防衛体制が短期間で強化されることにつながり、地域社会にとっても世界にとっても良いことだ。

【以下本文】
日本は、世界の大国の中で最も過小評価されている国だが、常に最も穏やかな国でもある。自民党は1955年の結党以来、日本の政治を支配してきた。自民党は、連立相手である公明党と共に、衆参両院で2/3以上を支配している。
しかし、日本はいつも以上に、不安定に見える。安倍首相は、回復傾向の人気と野党の混乱に乗じて、先週、衆議院を解散し、1022日に総選挙を行うと発表した。それが、この不安定な状況の始まりだった。安倍首相の発表のすぐ後に、カリスマ性のある東京都知事である小池百合子氏によって、安倍氏の計画は大きく狂うこととなった。彼女は、「希望の党」を立ち上げ、全国的に候補者を擁立すると発表したのだ。小池氏率いる地域政党である「都民ファーストの会」とその連立政党は、どこからともなく突然現れ、東京都議会の127議席の内、2/3に近い議席をあっと言う間に確保してしまった
このドラマは、それだけに止まらなかった。国政レベルの最大野党である民進党が、驚くべき発表をしたのだ。衆議院の民進党は解党し、民進党の現衆議院議員は、次の選挙では希望の党からの公認で出馬することとしたのだ。これらの動きにより、突然、安倍首相の勝利は、もはや確実なものではなくなった。早期に選挙を行うという安倍首相の今回の決定を、イギリスのメイ首相のドタバタ劇に例えるコメンテーターも出てきた。
今の時点では、小池氏の影響が、どの程度まで彼女を押し上げるかは不明だ。自分自身が衆議院議員に立候補するためには、彼女は東京都知事を辞任しなくてはならない。国民の72%は、彼女は都知事の職を継続すべきだと言っている。いずれの道を選んだとしても、彼女は批判を浴びるだろう。枝野幸男氏は、小池氏が保守に偏り過ぎていると感じているリベラル派を取り込むため、新党を立ち上げる。この段階での世論調査は、引き続き安倍氏の勝利を予測している。しかし、また、自民党とその連立与党が、衆議院で2/3以上を維持するのは困難だとも予測している。
これは、大きな問題だ。それは、安倍首相の最大の目的を達成するためには、2/3以上が必要だからだ。安倍首相は、日本の参戦を禁じている1948年の憲法の改正を狙っているのだ。この憲法は、第二次世界大戦の際に米国が押し付けたものだが、それにより日本は、軍備を再構築することや、安倍首相の言う「普通の国」なることを、スピード感を持って行えなくなっている。

しかし、非常に保守的な日本においては、変化というのは、現状を守るための戦略に過ぎないことが多い。確かに、ある観点で言えば、小池氏は革新的な人物だ。前例の無い権力を掌握し、日本の女性に将来への希望を抱かせ、彼女が以前所属していた政党や、彼女の以前の庇護者に対する仕返しも果たした。しかし、外交政策について言えば、彼女は、安倍氏の国家主義的な考え方を共有している。安倍政権の初期段階において、彼女は防衛大臣の職につき、過激な発言や態度で評価を得た。彼女は、様々な議論のある靖国神社に定期的に訪問した。その神社は、第二次世界大戦の戦死者を祀っているが、そこにはA級戦犯も含まれている。彼女は、また、戦時中の日本の残虐行為に関する教科書の記述を修正する運動を支援している。
小池氏の突然の出現は、今までの政治を終わらせることとは程遠く、何十年も日本の政治を支配してきた基本的な政治モデルを強化することになるだろう。過去の60年間の殆どの期間において、日本は実質的に1党支配の国だった。自民党内の派閥間の抗争に比べれば、政党間の明らかな違いはあまり重要ではなかった。これらの派閥は、強大な力を持つ人物や政治的領袖と繋がっていた。派閥を隔てるものは、抽象的な政治の理想の違いでは無く、権益を求める産業界や政界のロビーストたちの違いだった。
小池氏の東京における「革命」は、実は多くの自民党の幹部に密かに指示されてきた。彼女の新党である「希望の党」は、西洋的な意味での野党ではなく、むしろ、伝統的な自民党内の派閥の1つの様に見える。小池氏が率いる候補者と安倍氏が率いる候補者は、選挙戦で戦うだろうが、どちらが勝っても、最終的には自民党を利することになるだろう。存在感のある最後の野党は、解体され、いまや自民党のもう一つの派閥とも言える政党のの1部になってしまったのだから。
確かに安倍氏は、この秋、彼が思っていたよりも厳しい選挙戦を戦うことになるだろう。しかし、彼の最も強力なライバルが、彼の考え方の多くを共有していると言う意味で、彼の成功をもたらずことにもなるだろう。日本は、中国からの激しい競争や、北朝鮮からの脅威に直面している。米国からの安全保障面での庇護も、以前程は確実なものではなくなって来ている。誰が首相になろうとも、世界は、日本の国家戦略や軍事姿勢が、早いスピードで進展していくことを望んでいる。