Thursday, August 13, 2015

日本は新たに戦争の遺産と戦う【A6面(国際面)】

戦後70年の終戦記念日を前に、日本はどれほど深く謝罪すべきかという議論が高まっているという記事が、国際面に掲載された。


慰安婦問題を巡る吉見氏と秦氏の論争を例にあげ、先の戦争における日本の行為をどこまで謝罪すべきかについて、日本の世論のコンセンサスが十分に取れていないとする。安倍首相については、日本兵達を加害者としてというより英雄とみようとしていること、韓国のパク・クネ大統領の対日外交を心情に基づく外交としていること等を引用し、慰安婦問題についての日本軍の関与を認めない立場を取っていることを暗に示唆している。WSJは、慰安婦問題についての安倍首相のこうした対応には批判的だ。
(WSJ日本語版にほぼ同一内容の記事が掲載されていましたので、同一部分については日本語版をそのまま下記に引用しました。)

***** 以下本文 *****
先月、東京の裁判所で繰り広げられたシーンは、安倍晋三首相がなぜ1年間ずっと第2次世界大戦終了70周年談話をめぐってあれこれ思いをめぐらさなければならなかったかが分かるような光景だった。
 裁判所の外には酷暑のなか数十人の人々が並び、傍聴席を確保するためのくじ引きを待っていた。日本の著名な歴史家2人の討論を聞くためだ。この討論は、「性奴隷」という用語は、大戦中の日本軍の売春宿(日本兵向けの慰安所)で働く女性たちを正確に表現しているか否かというもので、名誉毀損(きそん)訴訟の一環だった。
 このテーマは、戦後70年たった今日もなお大勢の人々の関心を集めている。その事実は、この日本という国が依然としていかに大きく分裂しているかを示している。そしてそれは、戦争についての日本の談話が長年行きつ戻りつ大きく揺れる理由になっており、周辺の隣国をいら立たせる原因でもある。
 14日に発表される今年の首相談話が、近隣のアジア諸国を満足させる公算はほとんどない。これら隣国の対日関係は冷え込んでいる。そして安倍首相に対し、何人かの前任者たちがそうしたように大きな声ではっきり謝罪するよう求めている。
 2012年末に就任して以降、安倍首相とその政権は戦争の歴史に関する正統的な見解に繰り返し異議を唱えてきた。とりわけ日本が「慰安婦」と呼ぶ人々をめぐる問題について。彼らはまた、日本国内で教科書を改訂し、米国でも教科書を変更するよう要求した。
 安倍首相は、日本の誇りと国際的な評価を取り戻すのが使命だと述べている。同首相、そして同じような考えを持つ保守派にとって、この使命実現のため、同首相の言うところの自虐史観は払拭(ふっしょく)されなければならないものだ。
 側近たちによれば、安倍首相は終戦70年談話で、日本が戦後、平和的で繁栄した民主主義体制を構築してきたことに焦点を当てるという。同首相は戦時中の日本の行動に対するremorse(反省、悔恨)を表明する公算が大きいが、明確な形で謝罪するかどうかは不透明だ。
韓国と中国は注意深く見つめている。
中国の程永華駐日大使は7月、「過去の加害者が反省を表明する時の誠実さは、犠牲者たちにとって極めて大切だ」と述べた。そして「彼ら加害者が恣意(しい)的にあいまいな態度で、侵略の責任をできるだけ小さくしようとしたり、否定しようとするならば、それは犠牲者の傷を再び広げ、傷口に塩を塗るのに等しい」と語った。
安倍首相は2013年の終戦記念談話で、それまでの伝統的な「深く反省し、犠牲者とその遺族に、哀悼の意を表する」という表現を使わなかった。同首相はまた、日本の兵士や市民たちが払った犠牲を表現した際、「心ならずも」という言葉を削除した。
 「The Long Defeat: Cultural Trauma, Memory and Identity in Japan」の著者、橋本明子氏は、安倍氏の言葉の選択には、戦時中の軍部、ひいては日本の国家的なアイデンティティーを復権させようという意図があり、兵士たちを、「加害者」ではなく英雄とみなそうとしていると述べる。
 それと同じ歴史が今、東京の裁判所で審理されている。
原告の吉見義明氏(68)は1990年代初頭に画期的な本を書いた。その中で同氏は、史料に基づいて旧日本軍が戦時中に何万人もの女性を「性奴隷」として性的サービスに従事させたと結論づけた。
 吉見氏は中央大学教授だ。同氏は、この結論はねつ造だと述べた保守系の国会議員(当時)を相手取り、名誉毀損で訴えている。吉見氏は法廷で、政治家による学問への介入は許されないと述べた。
これに対し、日本大学名誉教授の秦郁彦氏(82)が被告側の証人として法廷に呼ばれた。秦氏は、女性たちの大半は売春婦であって、性奴隷とは呼べない、と述べた。そして、性奴隷というレッテルは女性たちにとって「非常に大きな侮辱」だろうと語った。
 安倍首相は今年の終戦記念日に向け、第2次世界大戦を再検討するため有識者20人から成る諮問委員会(21世紀構想懇談会)を設置し、6カ月間討議させた。今月6日に提出された長文の報告書は、日本がアジアに破壊をもたらしたことを認めたが、一部の行動を弁護し、韓国の朴槿恵大統領について「心情に基づく対日外交」を推進していると批判した。
法廷において、秦氏と吉見氏は共に、反対に位置する部屋から証言台へと近づき、お互いを見ることなく、肩を寄せ合いながら立って宣誓をした。2人の証言は併せて4時間にも及んだ。
この名誉棄損訴訟に対する判決は年内に言い渡される見通しだ。