Monday, September 10, 2018

さあ、もう大阪なおみの話をしよう【A14面(スポーツ面)】

米国時間8日のUSオープンで大阪なおみが見事優勝を飾ったが、WSJ10日のスポーツ面で、このニュースを大きく取り上げた。



この試合、何かと対戦相手のセレーナ・ウィリアムズ選手のことが話題となっているが、勝ったのは大阪なおみ選手なのだから、彼女の話をしようと読者に呼びかけている。面白い記事だ。

****** 以下本文*****

この週末、ニューヨークで行われたメジャーなテニストーナメントで優勝した大坂なおみ選手についての話をしよう。
土曜日に行われたUSオープン決勝で大坂なおみ選手が勝利して以来、ほとんど全ての話題は、彼女が打ち負かした選手のことに集まった。セレーナ・ウィリアムズ選手だ。メジャー大会で23回の優勝を誇る伝説のプレーヤーである彼女は、主審と口論になり、その振る舞いについてペナルティーを課され、それが敗退へとつながった。
多くの人々が沢山の推測をしている。ウィリアムズ選手が行き過ぎだったのか?それともカルロス・ラモス審判が一線を越えたのか?ゲーム関係者の中にも、好意的な見方をする人もいればそうでない人もいる。それはどんなスポーツでもそうだ。ラモス審判は、一瞬、一瞬にもっと注意を払い、もっとウィリアムズ選手に警告をすべきだったのか?ウィリアムズは、審判と対決した最初の選手ではない。これは、USオープンの決勝だ。
この出来事に関連して、スポーツマンシップ、感情コントロール、性差別、ダブルスタンダードなど、色々なトピックについての会話が盛り上がった。ウィリアムズ選手は、男性プレーヤーだったら同じ行動をしても罰則を受けないだろうに、彼女が女性だから罰則を受けたと感じている。2004年、2009年、2011年の試合において役員と口論になったことなど、ウィリアムズ選手にはオープンでは苦い歴史がある。
そんな中で、私は、大坂なおみが2018年のUSオープン女子シングルのチャンピョンであるということを指摘したい。
私は、あの現実離れした重大な出来事を軽視しているわけではない。この出来事は、テニスファンの間で何年も語り継がれるだろう。
私は、ただ、メジャー大会で最初の優勝を飾った大坂なおみ選手を正当に評価したいだけだ。
でも、この試合がどの様に異常な試合であったかには触れておきたい。第一セットを落とした後、ウィリアムズ選手は何とか自分を取り戻そうとしたが、うまくいかなかった。
まず、ウィリアムズは、試合中にコーチからアドバイスをもらったとして警告を受けた。(オープンの様な試合では絶対にやってはならないことだが、あまりとられない違反でもある。)彼女が違反行為をしているという指摘に、彼女は信じられないという気持ちで試合を再開したが、その後、ラケットを壊してしまった。このため、彼女はコード違反を取られ、ポイントを減点された。いらいらした彼女は、ラモス審判から気持ちが離れられなくなり、彼を「泥棒」と呼んでしまった。これにより、彼女は更に減点を受けた。彼女は、ラモス審判に誤る様に執拗に迫った。ラモス審判は、もう十分だと判断し、ウィリアムズ選手から1ゲームを奪った。(ウィリアムズ選手は、このつの違反によって、17,000ドルの罰金を課された。)
これは大きかった。これにより、大坂選手の第2セットのポイントは4-3から5-3へと有利になったのだ。
これは、また、セレーナ・ウィリアムズはセレーナ・ウィリアムズだという意味で、大きな出来事だった。偉大なチャンピョンであるウィリアムズ選手は、歴史上タイ記録となるメジャートーナメントシングルでの24回目の優勝をかけてこの決勝戦に臨んだ。最初の子供を産み、生命を脅かすような事態の併発により何回か手術を繰り返したために、ほぼ1年間この機会を待たねばならなかった。
36才のウィリアムズ選手は、多くの人々にとって、大きな存在なのだ。
その多くの人々の1人が、大坂なおみ選手だ。
この試合は、20才の大坂選手にとって、長い間憧れてきた夢の試合だ。彼女の憧れの人と、アメリカ最大のステージで戦うなんて。大坂選手は、日本人の母とハイチ人の父の間に日本で生まれたが、米国で育った。そんな彼女は、彼女はウィリアムズ選手以上偉大な選手はいないと思っているが、1年前には、その自分にとっての大ヒーローをスタジアムで見ていた。ウィリアムズ選手も大坂選手も、何事も可能だと信じる父にテニスを教わった。
大坂選手はウィリアムズ選手の試合のやり方を真似た。それは今日のゲームからも見てとることが出来た。大坂選手は息を飲むようなストロークや110マイルを超えるサーブで主導権を奪った。彼女は、ウィリアムズ選手の打撃練習相手であるサーシャ・ベイジンをコーチとして雇った。ウィリアムズ選手のオビウェンスタイルを習得しようとしたことは明らかだ。大阪は重要なポイントを取ると、ウィリアムズ選手の有名なおたげび「カモン」を真似た。声の小さい版だったが。
ウィリアムズ選手同様、大坂選手もテニスだけで有名なのではない。彼女は、今や、メージャートーナメントを制した最初の日本人プレーヤーだ。そして、ハイチのコミュニティーも彼女の快挙を喜んでいる。
大坂選手の勝利は、新しいスターを待望しているスポーツ界にとってビッグニュースだ。彼女は、若い選手にありがちな、ヒーローに見とれるために来たのではない。勝ちに来たのだ。彼女は、試合開始直後からウィリアムズ選手を追い詰めた。そして、第1セットを6-2で取った。ウィリアムズ選手は、第2セットは盛り返し、3-1とリードした。しかし、ウィリアムズ選手とラモン審判がやりあっている間も、大坂選手は乱れることがなかった。そして、アーサー・アッシュスタジアムのウィリアムズ寄りの聴衆が、まるでボクシングの試合かの様に、ラモス審判に対してブーイングを始めた。
そのブーイングはどんどん大きくなった。年下の新人は、このドラマの中で、穴に入りたいくらいだったろう。怒った米国の聴衆は、怒った米国のスーパースターのために、米国最大のスタジアムで、必死でブーイングしたのだから。
たまたまそこに居合わせることになってしまった大坂は冷静だった。「正直、私は彼女から多くのことを学びました。」と試合後ウィリアム選手は話した。
大坂は試合後、少しは緊張の糸がほぐれた様だ。トロフィーの授与式で、ライトを浴びた時、もう1度ブーイングが巻き起こり、大坂選手は泣き始めた。そこで、ウィリアムズ選手が間に入って、聴衆にもうブーイングは止めて、大坂選手の業績を讃えましょうと呼びかけた。大坂選手は、話す機会を与えられると、勝利したことを聴衆に謝った。
これには心を動かされた。大坂選手は何も謝ることなどないのだ。それでも、彼女はその気持ちを次の様に語った。「私はコートに入った瞬間に、違う人間になった気持ちがしました。もう、セレーナのファンではなかったのです。私は、テニスプレーヤーと戦う1人のテニスプレーヤーになっていたのです。」
「でも、私がネット越しに彼女とハグをした時」と彼女は込み上げるものを抑えながら言った。「私は小さな子供に戻っていたのです。」
テニス界にとって、とても大変な夜だった。そんな夜に、大坂選手は憧れの人の尊敬を勝ち得た。彼女は、トロフィーも獲得した。そして、3.8百万ドルの小切手も得た。大坂選手は、2018年のUSオープンの勝者なのだ。
これこそ、この記事を締め括るに相応しい言葉だ。