日本の円安政策はうまくいっておらず、それは同様の政策を推し進めようとしる欧州にとっての警告だとする記事が社説に掲載された。
円安によって企業収益を増やし、その収益を投資に回して生産性を向上させ、結果として賃金上昇、内需拡大、経済成長を達成させるのが日本が今取っている経済政策の柱だが、実際には日本の実質賃金は減少しており、この政策はうまく行っていない。これは、安倍首相が、第三の矢を放っておらず、規制緩和が遅々として進まないからだとしている。
その上で、欧州も似た様な状況にあり、規制緩和を進めないと日本の二の舞になるとしている。
確かに我々は、円安による収益増加で安心してしまい、収益をどの様に投資して生産性を上げていくかという肝心の議論が欠けている様に感じる。
***** 以下本文 *****
この記事は次の様な書き出しで始まる。
「欧州中央銀行が先週ソブリン債の購入を開始したことによる興奮の最中、欧州の人々は日本の実質賃金が1月に再び下落したという事実を見過ごしているのかもしれない。日本の家計所得は2008年の金融危機以前に比べると7.5%も下落しているのだ。そして、その下落幅の約半分は、東京が量的金融緩和政策を実施している間の下落だ。これは、欧州に対する警告である。」
「安倍晋三が首相に就任した2013年の日本と現在のユーロ圏とは驚くほど類似点が多い。日本はデフレの中にいた。欧州の状況もこれに近い。日本は、2012年に円が1ドル当たり77円まで高騰していて、円が実力よりも高くなっていることを危惧していた。欧州中央銀行のマリオ・ドラギ氏は、昨年ユーロが1.38ドルだった昨年の4月に、為替の高騰は、もし他の条件が同じであれば、財政の引き締め、インフレへの悪影響、潜在的には継続的な経済回復への脅威となると警告していた。」
暫く要約する。
日銀もECB(欧州中央銀行)も金融バスーガにより、通貨切り下げを誘導し、デフレの脅威を退治しようとした。弱い通貨は、輸出増をもたらし、利益をあげた輸出業者がその利益を投資に回し、ついには賃金上昇に結び付き、内需を押し上げ、経済成長をもたらすというシナリオだ。
しかし、日本では賃金が減少しており、このシナリオがうまくいっていないことを示している。
まず、輸出業者が円安を利用して、商品の価格を下げて、グローバルなマーケットシェアを拡大しようとしていないのだ。その代りに、海外での価格をそのまま維持して、日本円換算での利益を押し上げようとしている。為替調整後の輸出はあまり増えておらず、2008年以前から25%も減少している。
また、投資が増えていないので、労働者の生産性は上昇しておらず、賃金はインフレ調整後で下落している。円安は輸入製品の価格を押し上げ、家計は苦しくなるばかりだ。
欧州は、日本が経験した幾つかのネガティブな要因を回避可能だ。欧州では、原油価格の下落が、その他の輸入製品の価格高騰を補ってくれるが、2013年では日本はこの恩恵に浴せなかった。実際、ドイツを含む数か国では、安いエネルギー価格のおかげで、賃金が実質的に増加している。また、日本が行った馬鹿げた政策である、消費税増税も実施予定の国は無い。
しかし、よく観察してみると、日欧間には類似点がある。
日本企業が何故投資にお金を回さないかと言えば、安倍首相が「第三の矢」を放たなかったからだ。日本企業は、未だに、過度の規制、高い税金、保護主義、競争の欠如など、投資を阻害する要因に直面している。労働市場が改革されていないことは特に問題だ。規制により正規従業員を解雇することが困難なため、非正規従業員が増加している。これにより、労働市場が堅調であるにもかかわらず、賃金が上昇しなのだ。
欧州でも同様に規制緩和が進まない。フランスではマクロン氏が日曜日の店舗営業を年間12日まで認めようとしているし、スペイン、ポルトガル、アイルランドなどでも同様の規制緩和の動きが見られるが、イタリア等他の国々ではまったく規制緩和は進まない。そして、そうした国々の期待によりユーロは、昨年5月の$1.4から$1.0457まで切り下がり、企業の収益改善に貢献している。欧州は日本の様に単一国家ではなので、幾つかの国では、こうした収益改善が企業の投資を生み、生産性を改善し、賃金を上昇させるだろ。競争力が低い南欧諸国は、ドイツやオランダの様な欧州北部の様に生産性を向上させる必要がある。しかし、量的金融緩和政策がもたらす低金利が改革の必要性を低下させ、コストを下げることなく輸入製品価格の高騰だけが起こることになる。これは、まさに日本で起こっていることだ。
この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「日本の現状は、欧州の避けることに出来ない将来ではない。欧州は、日本ほど高齢化が進んでいないし、日本ほど規制が硬直化していない。輸出による利益が増えれば、多分、文化における何かがより競争力のあるビジネス行動を誘発することになるだろう。多分、欧州の比較的強い労働組合がより大きな賃上げを引き出すだろう。」
「しかし、ドラギ氏以外の政治家が、金融政策や通貨切下政策の限界やリスクを理解していない。ドラギ氏は過去一年間、欧州の政治家にサプライサイドの改革実施を迫ってきた。サプライサイドの改革が、彼の金融政策を欧州を日本に様にすることから守るからだ。」