Thursday, August 11, 2016

日本の高齢者は増大する貧困の危機に直面【A12面(国際面)】

日本で貧困にあえぐ高齢者が増えているという記事が掲載された。


40代、50代の日本人が老後の生活に不安を感じていて、それが日本の消費が停滞している一因だとしている。特にいまや労働者の3人に1人を占める非正規従業員は、正規従業員に比べ十分な老後の福利厚生が期待出来ず、停滞に拍車をかけている。人々を幸せにするはずだった長寿社会は、労働生産性の低下を招き、貧困を増やすという暗い側面がある。移民受け入れなどの思い切った政策に取り組むべきだが、不人気な政策に敢えて真剣に取り組む政治家は出てこないとして、日本の将来に警鐘を鳴らしている様に読める。

***** 以下本文 *****

記録的な数の高齢者が貧困にあえぐ中で、社会に不安が広がっているが、シミズヨシツグさんの生活はそういった不安を象徴するものだ。
シミズさんは、以前は革製品の起業家だったが、一年前に破産を宣言し、その後離婚した。現在は、横浜市寿町にある55スクエアフット(注:約5平方メートル)の部屋で生活保護に頼って生活している。寿町には安いホステルが密集し、酒を手にした高齢者が集まっている。
「まさか私がこんな状況に陥るとは全く想像していませんでした。」と63歳のシミズさんは言う。
日本ではシミズさんの様な貧困にあえぐ高齢者が増えている。3には、生活保護を受給している人達の中で、高齢者が占める割合が半分を越えた。
こうした高齢化社会をどう生き抜くかという不安は、安倍首相が直面する課題が如何に大きいかを示している。安倍首相は、日本に刺激を与え、過去20年間続いている経済停滞状態から脱却させるべく努力をすると同時に、人口の構成変化(高齢化)に対する対応をしければならない。多くのエコノミストが、何もしなければ確実に日本は衰退に至るとみている。
勤労世代の人々の多くは、政府は、多額の負債と人口の高齢化に押しつぶされ、老後を寿町の様な場所で過ごさねばならない状況から守ってくれないのではないかと心配している。日本では賃金や年金支給額が長期的にみて減少する中で、社会保障費の支払い額は増えており、多くの労働者が定年後にお金を残せなくなってきている。

「定職につき、普通の生活を送って来たにもかかわらず、なぜか貧困に追い込まれた人々と話をしてきた。」と社会福祉士で、ベストセラーとなった「下流老人」の著者でもある藤田孝典氏は言う。
お金の無い老人になることへの恐怖は、長期化している消費不振を悪化させ、経済の重荷となるだろうとゴールドマンサックスは4月のレポートで報告した。2013年の生命保険機構による調査によれば、80%以上の人が年金が十分に支払われないことに不安を表明していた。
特に40代、50代の人々が消費を抑える傾向にあるが、この世代は節約することにより、こうした不安に備えようとしているとゴールドマンサックスは言う。
OECDによれば、2009年には65歳以上の日本人の5人に1人が貧困層だったという。ある大学の調査によれば、2014年までにこの割合は26%に達した。
非正規従業員が定年にさしかかり、問題は更に悪化するものとみられている。非正規従業員は、今や労働者の3人に1人とみられるが、正規従業員の様な福利厚生や給与を受け取っておらず、定年退職時に所有するお金は少ない。
安倍首相はこの問題を解決するために、高齢の貧困者に現金を給付し、医療費をカットし、高齢者の雇用を促進しようとしている。しかし、他の問題を解決しようとする政府の取組みが彼らの苦しみを悪化させている。膨らみ続ける福祉の費用を削減しようという努力が高齢者を苦しめているのだ。家賃が安くなっていることを理由に、厚生労働省は昨年、福祉の受給者に対する家賃補助の金額を減らした。これにより横浜市は寿町の住人に対する家賃補助を減らし、何人かの住人が住めなくなってしまった。
人口問題の専門家であるマツタニアキヒコは、長寿には労働生産性の低下が伴うと言う。「長寿は貧困と密接に関係しています。人が長く生きると言うことは、長く働くことも意味するかというとそうではありません。」
高齢者の間でも所得格差が発生しており、多くの専門家は、移民を受け入れることによりこうした長期的な問題に対応すべきだと主張する。しかし、この不人気な政策に、敢えて真剣に取り組もうという政治家は現れない。
そうしているうちに、かつては日本の戦後高度成長を支えてきた日雇い人夫の街だった寿町の住人にも変化が表れている。ある68歳の住人は、彼の持ち物で一杯となっている小さな部屋に住んでいる。
「この街は以前は、仕事の後の一杯を楽しむ人々で満ち溢れていたが、今や高齢者か病人しか住んでいない。」