Monday, May 4, 2015

ジン・ビームの新しいオーナーはグローバルカクテルを混ぜる【A1面】

サントリーのジン・ビーム経営戦略について一面で報道した。

サントリーはアメリカのジン・ビームを昨年買収し、アメリカでも大きな話題になったが、買収後の状況と今後の戦略について、サントリーの新浪社長やビーム・サントリーのシャトック社長らの発言を引き合いに出して詳細に報じている。大変に読み応えのある記事だ。同社は、日米文化の融合に苦労する一方で、戦略が明確でその一部がうまく行きだしているとしており、その挑戦する姿勢を好意的に描いている。

***** 以下本文 *****

この記事は次のような書き出しで始まる。
「昨年の夏、東京六本木のエンターテインメント街に仮設のバーが出現した。長いカウンターに収められていたのは、ジム・ビームのバーボンのボトル700本だった。」
「若者がこのジム・ビームバーのターゲットだ。メニューにある30種類のカクテルはジム・ビームを使っている。それらは、異端者であるアメリカのバーボン愛飲家も魅了する様な作り方だ。人気のカクテルの一つにシトラスビームハイボールがある。その名の通り、ケンタッキーバーボン、クラブソーダ、絞りたてのレモン、オレンジまたはグレープフルーツで作られている。」

非常に長い記事なので暫く要約する。

サントリーは昨年ジンビームを買収した。それにかかった費用を回収するために、2020年までに蒸留酒の売上を倍にする計画だが容易ではない。蒸留酒の2大市場のうち、アメリカはバーボンの消費が活発だが、日本ではそうでもない。一方、日本のウィスキーである山崎や角瓶はアメリカではまだまだ知名度が低い。その上に、サントリーとジムビームという2つの企業文化を一緒にするのは簡単ではない。

「日米のメンタリティの違いを克服するのは容易なことではない。」とハーバードビジネススクール出身の新浪社長は言う。彼は、サントリーの創業家以外から出た最初の社長だ。ジムビームのマスター蒸留者のフレッド・ノウは、ジム・ビームの創業家出身で、ハンク・ウィリアム・ジュニアのマネジャーをやっていたこともあるが、彼が最近東京の拡販イベントに参加した際、サントリーの幹部をBuddieと呼び、やたらと幹部にハグをして、幹部達を当惑させた。
サントリーの世界進出のタイミングは良かった。2009年~2014年に蒸留酒市場は5%伸びているし、アメリカではビール市場からシェアを奪っている。新興国での伸びも期待出来る。しかし、サントリーは、世界2大蒸留酒メーカーであるイギリスのDiageo PLC、フランスのPernod Ricardに後れを取っていて苦戦が予想される。

世界への野望
サントリーは1930年に創業された。当初はウィースキーで成功したが、その後多角化して様々な飲料を扱う様になった。また2009年にOrangina Schweppers Groupを買収して海外進出も果たした。しかし蒸留酒の売上の90%以上が日本市場からの売上だ。そのための対策としてジム・ビームを買収したのだ。
サントリーはジン・ビームの本社を米国に置き、日本のブランドを含む全ての蒸留酒のグローバルオペレーションを任せることにした。経営陣には、イギリス人のマット・シャトック率いるアメリカの経営チームを充てた。「補完的な地域、補完的なポートフォリオを一緒にして、成功へのシナリオを作る。」とシャトック氏は言う。
3,200人のジン・ビームの社員は、サントリーの家族経営的社風が、ウォールストリートからの圧力を弱めてくれるものと期待したが、現実は違った。サントリーは日本の経営慣行である月次財務報告システムを導入し管理強化を行ったのだ。
また、文化の違いにも苦労している。日本では、謙虚、詳細、コンセンサスが重んじられるが、アメリカでは率直、柔軟、スピードが重んじられる。新浪社長は遠慮が無く正直なアメリカ式の方が好みだ。
買収後すぐにサントリーは数名の社員をジン・ビームに送り込んだ。彼らは会議に参加したが、発言はしなかった。その後、彼らだけで打合せをした。ジン・ビームの幹部は彼らはスパイだと思い当惑した。新浪社長は、優秀な米国人幹部から学ばせるために彼らを送り込んだと説明した。
ジン・ビームの蒸留所では、日本式のユニフォームや一貫したテイスティングのプロセスが導入された。現在、改善プロセスを導入すべく準備中だ。

サントリーの負債はジン・ビームの買収によって100億ドル増加し、ムーデーィズの格付けもA3からBaa2へと下がった。負債の殆どがドル建てなので、円安により返済のためにより多くの円が必要になっている。
一方、サントリーの蒸留酒の7大ブランド(ジン・ビーム、Courvisier、Sauza、角瓶、Maker's Mark、Pinnacle Vodka、Teacher's Scotch)の売上は昨年3%しか伸びていない。ビーム・サントリーによれば、同社は、1,000万ケースのバーボンと500万ケースの日本のウィスキーを販売している。2015年までにビール、ワインを含めたアルコール飲料の売上を18%引き上げる計画だが、この実現のためには売上の50%以上を占めるウィスキーの売上増が必須だ。そのためには、ジャックダニエルに挑戦せねばならないが、同社の売上はジン・ビームの倍だ。
バーボンの売上は過去5年間で米国で35%、海外で50%増加した。ウィスキーの売上も5%伸びており、他の飲料を上回る。サントリーはジン・ビームをインド、メキシコ、ブラジルで拡販しようとしている。日本ではカクテルへの使用等により新しい需要を生み出そうとしている。サントリーは日本のジン・ビームの販売網を引き継いだが、日本での販売は27千ケースから253千ケースへと増大している。これを2020年には800千ケースへ増やす計画だ。

Lost in Translation
2003年の映画'Lost in Translation'でBill Murrayはサントリーの宣伝に出演するアメリカ人俳優に扮した。サントリーは、ジン・ビーム拡販のために、日本人モデルのローラとレオナルド・デカプリオを起用した。以前は安いお酒のイメージが強かったジム・ビームはこうした広告の効果で若者や女性の心をつかんだ。2月現在、ジム・ビームを取り扱う日本のバーの数は、一年前の4,000から10,000軒に増えた。
一方、アメリカにサントリーの日本のウィースキーを普及させることには苦戦している。2014年のアメリカにおける日本のウィスキーの市場規模は75億ドルで全体の1%以下だ。シャトック氏はスコッチに味が似ている響を拡販しようと考えている。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「サントリーは、アメリカの流通網にサントリーの日本のウィスキーを拡販してもらうための施策を推し進めている。そのためにバーやレストランでのテイスティングをアレンジしたりしている。」
「Republic National Distribution Co.のトム・コール社長は次の様に言う。『彼らは、これらのウィスキーが産声をあげることを望んでいることを明確にした。』