10日に投開票された参議院選挙について、11日の社説で取り上げた。
安倍首相は、1990年から試みてきたのと同じ財政支出と金融緩和を続けているだけで、規制緩和への取り組みはこれまでのところ不十分だった。2014年には、労働市場改革に取り組もうとしたが、労働組合の反対で腰砕けになった。労働市場改革には、多方面化からの反対があるだろうが、今回の有権者から与えられたチャンスを政治力に転換し、何としても成し遂げて欲しいという内容。
(ウォールストリートジャーナル日本語版に同じ記事が掲載されていたので、下記に引用させて頂きました。)
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10日に投開票された参院選で、与党の自民党と公明党は改選過半数の獲得を達成した。この勝利はむしろ野党の弱さを反映したものだが、安倍晋三首相は国政選挙3連勝となった今回の結果をアベノミクスの再生に活用するだろう。
安倍氏は約束した経済改革を進める代わりに、日本が1990年代から試みてきたのと同じ財政支出と金融緩和を続けている。経済はリセッション(景気後退)への突入と脱却を繰り返し、5月の全国消費者物価指数が前年比0.4%下落するなど3月からデフレに舞い戻っている。本人が適任かどうかはさておき、今回の選挙は安倍氏に日本経済の衰退を阻止するチャンスがもう一度与えられた格好だ。安倍氏にとって最善の策は、労働市場改革に立ち向かうことだ。
2014年、安倍氏は正社員の解雇を難しくしている規制を緩和する構えであるように見えた。だが労組からの反発の中でそれは腰折れとなった。代わりに、米国との軍事協力強化を可能にする憲法解釈の変更に軸足を置いた。それ自体は立派な試みだったが、あまりに不人気な政策だったため、安倍氏は経済改革を実現させる政治的資本に欠くことになった。
今こそ再びトライする時だ。日本の労働法の下では、明らかに能力のない従業員でさえ何年にもわたる不当解雇訴訟を起こすことができる。日本経済新聞によると、日本には推定600万人の企業内失業者が存在している。
日本の終身雇用制度は、戦後の高度成長期には機能していた。だが経済成長が鈍化し、高齢化が進むなかで、企業は解雇が容易な非正規従業員に雇用をシフトした。それによって雇用の2層構造が生まれ、特に若者に痛みを強いている。
失業率が3.2%の低水準にあっても賃金が上昇しない理由は、非正規雇用の増加で説明がつく。企業は従業員を解雇する代わりに、非正規従業員の労働時間を減らしている。日本を圧迫しているのは失業よりもむしろ、大量の不完全雇用だ。
政府は規制によって非製造業を競争から守ってもいる。マッキンゼーによると、日本の労働生産性の伸びが過去20年にわたり2%を下回っている原因はこれだ。この問題はサービス業界で特に顕著で、そこでは日本の生産性は米国の半分程度だ。
東京大学公共政策大学院特任准教授の宮本弘曉氏は、日本の年功序列型賃金制度にも安倍政権は切り込むべきだと指摘している。成功報酬型の賃金は労働者の転職ないし起業に向けた柔軟性を高めるだろう。企業側には、さまざまな分野で経験を積んだ労働者を維持できるよう、退職年齢を引き上げる自由を与えられるべきだ。
労働改革は、民進党だけでなく連立与党内からも激しい抵抗を受けるだろう。だが有権者から安倍氏への負託はこれで3度連続なのだ。日本経済の再生に最も重要な改革を断行するのであれば、安倍氏が選挙の勝利を使えるのは今回が最後だろう。