米国金利の低下傾向は、米国が「日本が経験した成長スランプ」 に陥る危険を示しているとする記事が、6月17日の国内面に掲載 された。
米国連邦準備銀行の政策の動向に関係なく、 米国の金利が低下傾向にある。日本は、 長期にわたって低金利政策を継続して、 個人消費や企業投資を促しているが、 高齢化による労働人口の縮小と効率性低下という構造的な問題を抱 えているため、低金利政策が経済成長に結びつかず、 それが更なる低金利政策の長期化を招いてきた。 米国で起きていることは、過去20年間に日本で起きたこうした現 象のはじまりではないかとしている。日本は、 経済が十分に回復しないうちに、 金利や税金の引上げを行うという過ちを犯して、 低金利傾向を更に長引かせるという過ちを犯したが、 米国は今のところそうした過ちは犯していない。但し、 低金利政策から抜け出すためには、 労働人口の縮小と効率性低下という構造的な問題の解決が必要で、 これは非常に難しいとしている。 先進国全体が金融政策の限界に直面していると言っている様に読め る。
***** 以下本文 *****
「今週は、金利の設定については、 これまで中央銀行にスポットライトが当たってきたが、今週は、 債権市場が中央銀行からスポットライトを奪った。」
「 米国連邦準備銀行と日本銀行は金融政策についてこれまでの政策を 維持し、期待されていた政策変更を実施しない決定を下した。 にもかかわらず、国債の利回りは下落し史上最低となった。 ドイツではマイナス利回りとなり、 日本ではより大きなマイナス利回りとなり、米国でもここ3年で最 低となった。」
「この下落については多くの理由があるが、次の3つが主要なもの だろう。第一に、中央銀行による、 短期金利をゼロもしくはマイナスに設定し、 国債を買い付けることにより、経済成長を促進しようとする動き。 第二に、投資家が、来週のEU離脱についての国民投票の影響によ り、安全資産へ走っていること。第三に、 世界規模で起きている経済成長の鈍化だ。」
「最初の2つは短期的な事象だ。しかし、3つ目は制御が難しく、 従ってより悩ましい事象だ。そして、このことは、 米国や他の多くの国々が日本に似てくることを意味している。 日本の低迷する経済は、20年にわたる努力にもかかわらず回復し てこない。」
「国債の利回りは、投資家の次の10年間における『 予想短期金利』と、資金を長期的にロックすることに対する『 タームプレミアム』によって決定される。 タームプレミアムは歴史的にみると、平均して0.5~2%のレベ ルで推移してきた。しかし、投資アドバイザーであるCorner stone Macroによれば、現状のタームプレミアムは、米国でマイナス 0.6%、ドイツマイナス1.6%、日本ではマイナス1.7%だ という。」
「この様な状況になる理由の一つは、 中央銀行が国債を購入して供給量を押さえることにより、 投資家に国債購入のためにより多く支出させ、 結果として低利回りを受け入れさせようとしているからだ。( 国債の価格と利回りは逆方向に動く。) この様な政策によって期待されるのは、低金利が投資を促進し、 インフレ率を日銀の目標である2%に向かって押し上げることだ。 」
「 世界を取り巻く不安要素もタームプレミアムがマイナスになる要因 だ。国債は、投資家にとって最も安全な投資資産だ。 災害に見舞われた際などには、国債の価格は上昇し、 株式や社債など資産は下落する。米国における2008年の金融危 機、ユーロ圏におけるソブリン債危機、中国の経済スランプ、 テロリストによる大規模攻撃、疫病の流行等の可能性、 こうしたことが起こる度に、 国債は安全であるという評価を勝ち得てきた。 今起きているリスクは、英国のEU離脱の危機だ。もし、 英国が投票の結果EUから離脱することにでもなれば、 利回りゼロであっても、 最悪なケースに対するリスクヘッジとしては十分である。」
「不安は永遠には続かない。そして、 中央銀行の景気刺激策も永遠には続かない。しかし、現状では、 利回りを低く抑え込んでいる要因がもう一つある。そして、 この要因が、金利を押し下げるより大きな要因となっているのだ。 水曜日の連邦準備銀行の将来の金利引上げを遅らせると言う決定は 、この要因にスポットライトをあてることになった。」
「連邦準備銀行は長い間、物価安定・ 完全雇用達成時の利子率である自然利子率まで短期金利を引き上げ ることを想定してきた。しかし、 その数値は落ち込んでいる様に見える。ある連邦銀行高官は、20 13年には自然利子率を4%と考えていたが、現時点では3%と考 えている。ジャネットイェレンも水曜日に2%だろうと述べた。」
「彼女は低い自然利子率を『向かい風』だとして非難するが、 こうした向かい風は2008年の金融危機の後遺症がそうであった 様に消えてしまうものだ。しかし、水曜日に彼女は、 高齢化社会や生産性改善の世界レベルでの停滞など、『 長期に渡って継続するもしくはなかなか消えない』 要因を例に挙げた。
「労働人口の増加が緩慢になれば、 それに伴って設備投資も緩慢になる。 生産性の増加が緩慢になれば、賃金の伸びも緩慢になり、 結果として多くの家庭が借入を躊躇し、(なぜなら、かれらは、 借入の返済に充てるための将来の収入が減ると考えるからだ。) 多くの企業も投資に臆病になる。」
「我々はこうした状況をどこかで見たことがある。そう、 まさに日本が1990年以来、苦しんできたことそのものだ。19 90年に遡ると、日本は当時、年率4%での成長が続くと考えてい た。しかし、日本の労働人口は1995年にピークに達し、 生産性の伸びはスローダウンした。1990年以降、 経済成長率は平均で1%にも満たない。 ゼロ金利やマイナス金利ですら企業投資を誘発するための効果を発 揮していない。彼らは成長の機会を日本国外に求めている。」
「今日、多くの経済大国において、 労働人口の増加や生産性の伸びがスローダウンしているという事実 により、金利政策は十分にその効果を発揮出来なくなっている。 多くの新興国は過剰なコモディティー商品への対処に苦しんでいる 。2009年にアメリカが経験した国内生産の空洞化の様に。」
「日本の政治家は、 成長路線が再び軌道にのりつつあるという時期尚早な判断により、 税率や金利を何回か引上げ、これが事態を更に悪化させた。 結果としてインフレ率が期待した程の伸びず、 低金利政策の更なる長期化を招いた。連邦準備銀行は、 日本がおかしたこうした過ちを、 彼らはおかさないと決断した様だ。」
「しかし、高齢化社会、生産性向上の鈍化、 居座り続ける悲観論による企業投資意欲の鈍化などは、 克服するのが難しい課題だ。そして、 このところの国債市場の動きは、 こうした課題がすぐには克服出来ないことを示しているのではない だろうか。」