Friday, March 1, 2019

日本で強まる米国への不安【A15面(専門家投稿欄)】

「日本は米国にとって極めて重要な国であるにもかかわらず、トランプ政権が日本を不安に落とし入れるような発言を繰り返している。」と批判する専門家の投稿が、1日のWSJに掲載された。



【要約】日本は、イスラエルと並んで、「孤独な国」だとしている。中東にイスラエルの友人がいないのと同じ様に、アジアに日本の友人はいない。アジアで孤立する日本は、米国との同盟に頼るしかない。米国はこうした日本の立場をうまく利用して、日米同盟を軸にしてアジアにおける米国の勢力を維持すべきである。トランプ政権は、アジアにおけるプレゼンスを低下させるとも取れる発言を繰り返しており、これを不安に感じる日本は軍事化に突き進んでいる。トランプ政権がこうしたスタンスを続けると日米同盟弱体化につながるとして、トランプ政権を批判している。そうした中、今回の北朝鮮との交渉決裂は、トランプ大統領が北朝鮮にハードスタンスを取り、米国の朝鮮半島における米国のプレゼンスの維持を示したという意味で、日本を安心させる効果があり、評価に値するとしている。

***** 以下本文【WSJ記事全文和訳】*****

米国と中国が長期にわたって対立しているが、これは今後数十年にわたる地政学を形成するかもしれない。こうした状況のなか、アジアの安定を確実なものにするためには、日米同盟が未だかつてない程重要になってきている。朝鮮半島における米国のプレゼンスを低下させるようないかなる行動も、日本そしてアジア全域に悪影響を与えることを、トランプ大統領は認識すべきだ。
日本は、アジアの他のいかなる同盟国よりも重要だ。韓国は、北朝鮮の恐怖の前で、中国に対して理不尽なかたちで譲歩してしまう。フィリピンは誤った方法で統治されていて、十分に組織化されていない半島だ。オーストラリアはアングロサクソン系の国だが、人口は2,500万人に過ぎず、軍事的にも経済的にも影響力に欠ける。ベトナムは民主的ではないし、日本のような米国との歴史的な絆に欠ける。
日本は12,700万人の人口をもつ世界第3位の経済大国だ。その軍隊は世界で最もハイテクな軍隊のひとつで、いつでも展開可能だ。海軍は英国の2倍の規模を誇り、アジアにおける力の均衡を保つためにきわめて重要だ。米国が日本に50,000人の兵力をもち、前方展開可能な空母艦隊を配備していることも忘れてはならない。
日本は、他のアジアの同盟国と比べても、良好な国だ。国内政治は安定している。イギリスやフランスはもはや安定しているとは言えないし、ドイツはロシアとのエネルギー交渉で譲歩してしまった。国家主義が再来してはいるが、欧州のように不快はポピュリストの形態はとっていない。
最も重要なことは、日本が極めて孤独な国だということだ。これは米国にとって有利に働く。もう一つの信頼出来る米国の同盟国であるイスラエルだけが、同様に地域で孤立している。日本は東アジアに本当の友人がいないのだ。第2次世界大戦での日本の侵略の傷はまだ完全には癒えていない。日本の非人道的な犯罪行為は、大量虐殺とは言えないが、大規模な残虐行為や殺人であり、ナチスドイツ並みにひどい。このため、日本は戦争犯罪を完全に清算することを避けてきてきた。完全に清算しない限り、日本はアジアの隣国から完全に許されることはないだろう。
中国は日本にとって益々脅威となっている。日本の近海にあり通商ルートにある日本の島の領有権を主張しているのだ。朝鮮半島も日本にとっての脅威だ。北朝鮮が崩壊しても、南北朝鮮が統一しても、日本の立場は大きく弱体化する。
日本は1910年から1945年に35年間にわたって朝鮮半島を統治したが、朝鮮の人たちは極めて辛かったことばかりを覚えている。北朝鮮も韓国も日本が嫌いという点では一致している。再統一された朝鮮国家は、反日の立場を鮮明にするだろう。日本は韓国に駐留している28,000人の米国兵が永久に駐留できないことを認識している。中国の脅威と、朝鮮半島の大きな政治変化は、日本の軍備最強化の主要な理由になっている。
日本と中国は将来の朝鮮半島への影響力について競っているが、中国の方が有利だ。中国は、北朝鮮とは国境を接しているし、韓国の最大の貿易相手でもある。日本は将来の戦略を考えるに際し、中国が朝鮮半島を支配すると考えるしかない。
 これまで、トランプ氏ほど日本を神経質にさせた人物はいない。トランプ氏は日本の自衛の必要性を尊大に話す一方で、ときに混とんとした北朝鮮との交渉プロセスに着手し、南北を接近させている。昨年10月に米国が下した米韓軍事演習中止の判断は、日本をさらに心配させているに違いない。たとえ日本自身が、リアンクール岩礁(訳注:日本名「竹島」、韓国名「独島」)の領有権や第2次大戦中に虐待された「慰安婦」をめぐり、韓国と衝突しているとしてもだ。米国がある同盟国との軍事関係を弱体化させれば、米国が他の同盟国に対してもそうする可能性があると日本は認識している。加えて、トランプ氏が突如、環太平洋経済連携協定(TPP)を離脱して以降、日本は米国のリーダーシップの未来を疑問視してもおかしくない状況にある。
 そして台湾の存在がある。日本の近くにある台湾は50年間(18951945年)にわたって日本の統治下にあり、日本にとって最初の海外植民地だったことから、日本は常に台湾の命運に強い関心を払ってきた。米国がもはや中国の攻撃から台湾を十分防衛できなくなる日が到来すれば(日本はその日が近づいていることを恐れている)、日本は一段と包囲され危ういと感じる一方だろう。
地域を良く見て欲しい。中国、朝鮮半島、台湾で進展していることを見れば、日本が米国以外に頼る人がいないといことが分かるだろう。米国が弱体化したり、不確実化したりするのではないかという恐怖感は、日本を追い詰めることになるだろう。そして日本を危険な存在にするだろう。日本が核兵器を開発するリスクは低いだろうが、最先端の科学知識を有し、原子力発電も行っているので、日本は、やる気になれば、いつでも簡単にかつ迅速に、核兵器を開発することが出来る。専門家たちは核武装された日本についてささやいているが、このことは、東アジアの状況が極めて深刻であることを意味している。
新孤立主義者たちは、日本は他の同盟国のように、自分自身の2の足で立つべきだと考えている。しかしながら、軍事的な不安定さが深刻になる中で、日本は既にその軍備を強化しつつある。欧州の国々とは異なり、日本にはレクチャーは要らない。日本のリーダーたちは、平和憲法の足かせから逃れ、幾つかの軍隊を統合して機能強化し、水陸両用車や給油機などを取得したいなどと考えている、
これはやっかいな話だ。米国との同盟への依存から切り離された日本は、日本自身にとっても地域にとっても危険だ。日本は、アジアにおける米国の勢力の連結点だ。米日関係の弱体化は、米国主導の世界の終わりを意味する。従って、金正恩へのいかなる妥協も大きなコストを伴うことになる。北朝鮮へのサミットの失敗は、不幸に見えて実はありがたいものなのだ。

筆者のロバート・カプラン氏はユーラシア・グループのグローバルマクロ担当マネジングディレクター。最新の著作は「The Return of Marco Polos World: War, Strategy, and American Interests in the Twenty-First Century