ウォールストリートジャーナルは、米国に影響力をもつ多くのインテリ層に読まれていて、その世論形成に寄与しています。同誌に日本がどの様に取り上げられているかを観察することは、米国で日本についてのどの様な世論が形成されつつあるを知ることになるのではないでしょうか。このブログでは同誌に取り上げられた日本関係の記事を簡単に紹介しています。私は英語が専門ではないので、誤訳はご容赦。
Saturday, January 30, 2016
何かやらねばと思う中央銀行が限界を押し広げる【A1面】
日銀のマイナス金利導入をきっかけに、今後世界の各中央銀行がどの様な政策を取るかという分析記事が1面に掲載された。
日銀が円安を目的にマイナス金利を導入したが、ある国がマイナス金利を導入して通貨安が実現されると、その貿易相手国もマイナス金利を導入して通貨安を実現しようとするので、マイナス金利は際限なく行われ取り返しのつかないことになると示唆している。暗い気分にさせられる記事だ。
***** 以下本文 *****
「世界中の中央銀行が経済を活性化するために新しい試みを行っているが、そこからは、少ない成長と不安定な市場に蝕まれている世界経済における、金融政策の重要性と限界が見えてくる。」
「日本銀行は、主要な短期金利をマイナスに設定することによって、欧州の同僚達の仲間入りを果たした。こうした動きは銀行の総裁が取るべき方向性としては長い間否定されてきたものだ。
この動きが起きたのは、欧州中央銀行の総裁が3月に追加の金融刺激策の開始することを準備していると示唆した数週間後、米国連邦準備銀行が市場の不安定さや海外の成長鈍化についての新しい懸念を表明した数日後に当たる。」
「2015年の最後の月に米国経済が不振だったという新たなデータは、再度の金利引上げのタイミングについての連邦準備銀行の配慮に黒雲をかけるものだ。経済生産を最も広範に示す指標であるGDPは,、米国では第4四半期に0.7%成長しただけだった。輸出と企業投資の縮小が大きく影響した。」
「消費者支出の伸びや労働市場の明らかな強さにもかかわらず、米国の数値の弱さは、低調な世界経済が米国に悪影響を及ぼすのではないかという懸念を増長させている。」
「世界中の市場は日本の動きに高揚している。日本の動きは、先の欧州中央銀行による確約を更に推し進めたものだ。」
「日本の日経株式平均は不安定な展開ではあったが2.8%の値上がりで終わった。一方で日本国債の金利は記録的な低さまで下落した。上海株式指標は3.1%跳ね上がり、株式欧州600は2.2%上昇、米国でもダウ平均株価が400ポイント上がるなど株価が上昇した。」
「日本の決定は、銀行が余剰となる準備金を中央銀行に預金する場合に0.1%のペナルティーを科すというものだ。この動きは、停滞する経済を刺激するために、中央銀行がどれだけ強力なことをせなばならないかを示すものだ。この動きは、20年間続いた低いインフレとさえない成長に終止符を打つことを目的に導入した大胆な金融緩和策に続いて導入されたものだ。結果として、日銀は年間80兆円の資産を購入している。これは日本の経済規模の1/5に相当する。」
「しかし、日本のインフレ率は弱い水準に止まったままだ。日銀が目標にしている2%に遠く及ばないばかりか、経済は再び停滞する兆しを見せている。」
「日本の動きは通貨市場にも押し寄せ、円はドルに対して2.2%も下落した。一つの中央銀行による緩和が、他の中央銀行にどの様な圧力をかけるかを示している。」
「強いドルと日本と欧州で取られる金融緩和政策の継続により、米国連邦準備銀行の今年金利を徐々にあげていこうとする目的は、難しくなっている。16の主要通貨に対するドルの水準は過去13年間に最も高い水準にある。」
「中国からハンガリーまで、インフレを誘発し、経済を仮足させることを狙って今までとは異なった金融政策を行った国々では、その成果は似た様なまだら模様になっている。ユーロ圏では欧州中央銀行が2014年に銀行準備金にマイナス金利を導入した。金曜日の数値を見る限り、消費者物価は前年比0.4%しか上昇しておらず、これは目標よりもかなり低い。」
「しかし、今のところ。欧州のマイナス金利政策は、金融市場での破壊的な動きや、預金者の海外逃避といった状況にはつながっていない。このことが、中央銀行に更なる利下げを考慮することへの青信号を与えている。」
「『金融市場への反対的な影響は極めて限定的だ。』と米国連邦準備銀行のスタンレーフィッシャー氏は今月の講演の中で述べた。『現金保有高はこれらの国々ではそれ程伸びていない。その理由の一つは、現金を保有することに伴う保険、保管料、輸送料などが無視出来ない価格だからだ。』」
「マイナス金利がどこまでいけば、そのコストが現金を保有することを誘発するかは、誰も分からない。しかし、それはデンマークのマイナス0.75%やスウェーデンのマイナス1.1%よりさらに低い水準だろう。このマイナス金利を少額の預金者へ転嫁する銀行はまだ少ない。」
「マイナス金利はこれまでのところ強力な影響を与えることが証明されている。特に通貨価値を引き下げることによって、インフレと輸出を助長している。これは、ある程度他の国々の犠牲の下に実現されている。しかしこうした国々は金融緩和政策で対抗しようとする。」
「実際のところ、中国の人民元切り下げの決定は、成長を加速させるために金利を引下げる必要があるというのが理由の一つだ。人民元安は結果として日本などの貿易相手国に金融緩和策を取らせる圧力となった。」
「金曜日の発表で、シティーバンクのエコノミストは、欧州中央銀行、スウェーデン中央銀行、デンマーク中央銀行が、今後数ヶ月以内にさらに金利を引下げるだろうと予測した。また、『マクロ経済の状況が現在予測されているよりも弱ければ』カナダ、オーストラリア、ノルウェーそして中国の中央銀行さえもが、マイナス金利導入に踏み切るだろう。」
「米国連邦準備銀行は金利を上げたばかりで、マイナス金利には興味が無いだろう。しかし、再び金融緩和に動かねばならない状況になった場合には、そうした状況も変化するかもしれない。フィッシャー氏は米国の金融システムがマイナス金利導入の準備が出来ているかは明確では無いと言っている。このことが、突然のマイナス金利導入を困難にしている。」
「経済学者や政治家は、投資や民間の自信を助長する様な改革が伴わない限り、金融緩和政策だけでは継続的な成長を生まないと述べている。しかし改革には、痛みが伴い、長い期間が必要で、その間に社会が疲弊してしまうので、政治家はそうした改革を行おうとすると相当に苦労する。」
「インド中央銀行のラグラムラジャン総裁はスイスのダボスで開催された国際経済フォーラムで『多くの中央銀行が、毅然としてアクセルを踏み、沢山の新しい政策を実施したが、それが大きな効果を生んだかは疑わしい。』と述べた。」
「彼は、多くの国々が、景気を刺激するためにこれ以上金利を引下げることは出来ないし、金融緩和策もこれ以上は出来ないことに気づき始めたと述べた。」
「世界経済の成長予測は下方修正され、中国の様な国々の経済減速により金融市場が不安定になっている。こうした状況は、既に金融政策を限界まで推し進めてしまった中央銀行にとって更なる向かい風となる。」
「ノルディック銀行のアジア戦略トップのショーンヨコタ氏は、中央銀行はやれることをやりつくしたと述べた。」