日本企業の好景気は、素材・部品産業といったどちらかというと地味な産業により支えられていることを分析した記事が1面に掲載された。
この記事は、次の様な書き出しで始まる。
「日本企業が再び記録的な利益を計上している。」
「東レは、日本国外では日用品で知られているブランドではない。しかしソニーのような企業とは異なる、東レの様な昔からある平凡な企業の業績が良く、日本を20年間の不況から抜け出させるリード役を果たしている。」
非常に長い記事なので暫く要約する。
東レは、以前にも日本を危機から救ったことがある。第二次世界大戦から救ったのは東レの様な素材産業だ。今日、東レはボーイング社の航空機のカーボンファイバー、ユニクロの下着用の素材、おむつの吸収素材等、多くの素材を供給している。ソニーが2,300億円の赤字に苦しみ中、東レは最高益を予測している。世界に名だたる日本の電機産業の不振と対照的に、こうした目立たない企業が日本の回復を支えているのだ。昨年度、日本の主要企業の利益は69%伸び、25.3兆円だった。
カリフォルニア大学サンディエゴ校の日本ビジネス担当教授のシェイデ氏は、「みんなゾンビ企業に注目しているが、他に沢山の良い企業がある。そんな良い企業の殆どは名前も聞いたことがない企業だけどね。まさに革命だ。」と述べている。革命というより、再生かもしれない。というのも、戦後の日本の奇跡的な復興を支えたのは、電気産業では無く、こうした素材や部品を扱う産業だったのだから。1960年代の日本の主要輸出品は、鉄鋼、繊維、漁業、造船で、消費者向け耐久製品の輸出は1962年の統計で全体の14%に過ぎなかった。
ソニー、任天堂、パナソニックといった消費者向け電気産業が台頭し、日本株式会社のイメージが代わったのは、80年代のバブルの時代のことだ。1986年には、日本の輸出に占める、消費者向け耐久製品の輸出は全体の30%を占めるに至った。自動車、オフィス機器、テープレコーダー、カメラ等が輸出品ランクのトップに並んだ。
しかし、2013年には消費者向け耐久製品の輸出に占める割合は16%にまで下がってしまった。自動車は未だにトップだが、それに続くのは、鉄鋼、電子部品、自動車部品などだ。ソニー同様、任天堂も過去3年で売上を44%も減らした。消費者向け最終製品は、2007年には250億ドルの貿易黒字を計上していたが、2012年には520億ドルの貿易赤字に落ち込んだ。対照的に部品の貿易黒字は1,160億ドルから1,370億ドルに膨らんだ。
「日本の消費者向け電化製品は明らかに競争力を失った。バリューチェーンの上位に行って、高付加価値の素材や部品の集中するのは、意味のあることだ。」とゴールドマンサックスの日本株担当のキャシーマツイ氏は言う。日経株価が上昇は、円安にも助けられている。円安の恩恵を受けているのが、製造の多くを海外に移転した最終製品企業では無く、未だに国内で多くを生産している素材、部品産業だ。
この様に振り子が最終製品から素材・部品産業に振れていることを反映して、日立、東芝、NECといった大手企業が彼らの設立時のルーツに戻りつつある。これらの企業は、第二次世界大戦直後には、機関車、ガスタービン、通信機器といった産業機器に強かったが、80年代になって、テレビ、家電、更にはスマートフォンといった消費者製品に軸足を移した。しかし、こうした製品は韓国や中国からの攻勢に苦しんでいる。そして、この3社は消費者製品を切捨て、産業機器に軸足を移している。日立は2010年までの4年間で9,850億ドルの赤字を計上したが、その後の4年間で1兆300億円の黒字を計上した。東芝、NECも日立程劇的ではないが、同様の傾向だ。
素材・部品産業の回復を印象付ける様に、経団連のトップに、東レ会長の榊原定征氏が就任した。東レは1926年に人工繊維の会社として誕生した。1980年代に消費者向け製品の輸出ブームになった際にも、素材産業は維持し、それが今日の繁栄に繋がっている。例えば、多くの企業が、カーボンファイバー市場から撤退する中、東レはそれを維持した。この決断が、今日のボーイング社との強い関係に結びついている。
「今日は東レ、明日はオリンパス、そして次の日は富士フィルムだ。」とJP Morgan & Chaiseの日本株担当Jesper Koll氏は言う。オリンパスの売上の70%は医療機器だし、富士フィルムはビジネス領域をヘルスケア、グラフィックシステム、産業素材等に広げている。
東レはユニクロと長期供給契約を結んだ。こうした長期契約は利幅は薄いので、東レの利益率は、グローバルでの競合に比べて低い。それでも、東レは10年後、20年後を見据えて、こうした長期契約の締結に踏み切った。
多くの専門家は、現在は競合力を保っている日本の素材、部品産業もいつかは中国や韓国からの競合に晒されるので、日本は、流行を生み出す消費者製品やサービスビジネスを開拓せねばならないとしている。
一方でソニーは、4ヶ月前に発表した損益予測を修正し、赤字額が5倍に膨らむと発表した。
この記事は、次の様なコメントで締めくくられている。
「ソニーは他社のハイテク製品への依存を増やそうとしている。日本国外では、ソニーのスマートフォンを欲しがる人はいないが、ソニーのスマートフォンカメラ用イメージセンサーはアップルでさえ採用している。特許リサーチ会社のChipworksによれば、ソニーのイメージセンサーはiPhone 6, iPhone 6 plusで採用されている。ソニーはこれについてコメントを拒否している。」
「7月にソニーはセンサーの生産能力の増強を発表している。」
これまで日本の主役だった企業として、ソニーの他に、日立・東芝・NECを、そして今後の主役として東レの他にオリンパス、富士フィルムをあげている。