Wednesday, January 9, 2019

「不思議の国」のカルロス・ゴーン【A16面(社説)】

8日にゴーン氏が法廷で意見陳述書を読み上げ、無罪を主張したが、WSJはこのニュースを9日の社説で取り上げた。

【要約】ゴーン氏の意見陳述は、日本の検察のこれまでの説明よりも、ずっと説得力があったとして評価している。その上で、検察がゴーン氏の主張を今後どの様に覆していくのかに関心を寄せているとしている。ゴーン氏の理不尽とも言える長期拘留が許されている背景には、ルノーと日産のアライアンスを解消したいという日本政府の思惑があるとし、また、こうした日本側の理不尽な動きを容認しているフランス政府には、ルノーと日産のアライアンスを維持するために、日本との関係を悪化させたくたいという思惑があるとしている。企業間のアライアンスの問題なら裁判所ではなく、企業の取締役室で議論すべきだとした上で、日本もフランスも、アライアンスに関する国益のために、無罪のゴーン氏が有罪になることを容認しようとしているとして、痛烈に批判している様に読める。

***** 以下本文【WSJ記事全文の和訳】*****
日産自動車カルロス・ゴーン前会長は8日、ようやく日本の法廷で10分間の時間を与えられた。検察側の勾留の理由は昨年1119日の逮捕時と大差ないようだ。「不思議の国のアリス」の言葉を借りれば、国際ビジネス史上で最もおかしな案件は「ますます奇妙」になりつつある。
読者の方々には、この不思議の国のアリスのたとえはお分かり頂けるだろう。「判決ありきで、評決は後」という考えがゴーン氏の訴訟手続きに見られることは間違いない。日産を救済して国民のヒーローとなった人物が、報酬を誤って報告したというそれだけの理由で、正式に起訴されたのだ。彼は、既に7週間も拘留されている。検察が取調べを必要とする容疑を積み上げれば、日本の法律のもとでは、検察はゴーン氏を更に長期間、拘留することが可能だ。
世界中が学んでいる通り、日本の検察のやり方は、起訴の後、裁判で検察の証拠を弁護側がきちんと検証するといったものではない。日本では、検察は被告を拘束して、被告が自白するまで、弁護士抜きで取り調べをする。裁判は形式的なものに過ぎず、裁判が開始された時点で既に罪は決まっている。
検察にとっての問題は、ゴーン氏が何も悪いことはしていないとして、自白を拒絶していることだ。ゴーン氏の日本の弁護士は、月曜日に、日本ではあまり使われない司法手続きに打って出た。この手続きにより、ゴーン氏は裁判官の前に姿を現し、彼が無罪だとする意見陳述書を読み上げることができた。検察が公にしている証拠に比べて、彼の陳述書の方が説得力があった。
「検察による訴追は全く誤っています。私は、開示されていない報酬を日産から受け取ったことはありませんし、日産との間で、開示されていない確定額の報酬の支払いを受けるという法的な効力のある契約を締結したことも一切ありません。」とゴーン氏は法廷で述べた。
ゴーン氏は、「報酬」という言葉を、もし自動車業界の幹部に支払われる国際的な標準にそって日産からゴーン氏への支払いが行われたとした場合に、ゴーン氏が支払われていた額という、概念的に意味合いで使っている。国際的な標準から見ると、ゴーン氏は十分な報酬を受け取っていなかったということは、誰もが知っている。フォードとGMはどちらもゴーン氏を日産から引き抜こうとした。
ゴーン氏は、開示されていないいかなる金額についても、日産と確定した契約を結んでいないとしている。退職後の報酬に関する日産から提案のドラフトは、内部と外部の弁護士が中味を精査したことはあるが、契約としては成立していないと彼は言った。契約もなく支払もされていない報酬を開示しなかったことについて、検察がどの様に犯罪を立証するのか注目されるところだ。
ゴーン氏は、他の2つの疑惑についても、意見陳述を行ったが、納得のいくものだった。日産は、ゴーン氏が日本円とドルの変動を乗り切るために結んだ為替スワップ契約に対する担保を、当時CEOであったゴーン氏のために、提供した。彼は、日本円で報酬を受け取っていたが、海外での支払いはドルで行われていたからだ。その後、為替スワップ契約の主体はゴーン氏に戻され、日産は損失を被らなかった。
検察はまた、ゴーン氏は日産にその長年のパートナーであるジュファリ社に支払いを行わせたが、その支払いはジュファリ氏がゴーン氏に行った個人的なビジネスに対する見返りだとみている。しかし、ゴーン氏もジュファリ氏も、このジュファリ氏への支払いは、日産が大きな便益を得た重要なサービスに対する適切な報酬だったとしている。
裁判所は、今週末までにゴーン氏の保釈要求に対して採決を行う見込みだ。しかし、採決が行われたとしても、検察は新たな疑惑をあげて、それを理由にさらに彼を拘留し続けることだろう。検察は、ゴーン氏には逃亡のリスクがあり、証拠を隠滅する恐れがあるとしている。しかし、これまでのところ、検察は十分な証拠を持っていない。では、何を隠滅するおそれがあるというのか?
拘留が長期化するにつれて、ゴーン氏を会長職から解く様にというルノーへの圧力は高まっている。ルノーは日産や三菱自動車とアライアンスを組んでいる。そのため、日本のイライラも高まっている。ゴーン氏への理不尽とも言える取調べは、ゴーン氏が作ったこのアライアンスを潰そうという日本の陰謀だというのが、妥当な推測ではないか。また、フランス側も日本のゴーン氏の取扱いに表だって文句を言って騒ぎ立てる様なことはしていない。このことは、フランスは、フランスの自動車業界を救うためにゴーン氏がやってきた努力に対してよりも、アライアンスの維持により感心があるということだろう。
こうした全てのことは、裁判所で取り扱われるべき問題ではなく、企業の取締役会室で扱われる問題ではないか。にもかかわらず、ゴーン氏は、レッドクイーンの裁判の様なこの訴訟についてどう戦うか、(企業の執務室ではなく)拘置所の中で考えている、
(注:日本人にとって分かりにくい部分は、意訳をしたり、必要に応じて言葉を追加したりしています。)