Thursday, July 9, 2015

日本の酪農の苦悩が味気ない供給不足を生んでいる【A8面(国際面)】

政府の輸入規制と酪農家の高齢化により、日本でバターの供給不足が起きているという記事が、国際面に掲載された。


高齢化で酪農家の数が減少し、生乳の生産量が増えない。生乳はまず腐りやすいミルクの使用へ回されるので、バターが供給不足に陥る。では、輸入すれば良いということになるが、政府の規制により民間企業は輸入出来ない。
農水省が「酪農家に補助金を出してロボットを購入させ生乳の生産量を増やすこと」をこの問題の解決策として提示したり、農協が「バター不足はメディアの報道により不安に感じた国民がバターを買い貯めていること」をこの問題の原因と主張したり、日本の役人の的外れな対応を面白おかしく紹介している。
WSJは「規制を緩和して、民間企業に輸入させること」が真の解決になると主張している様に読める。何故、この記事をこのタイミングで掲載したのか?この日からTPPに関する日米実務者会議が開始されているので、それに合わせたのだろう。


***** (以下本文) *****

この記事は次の様な書き出しで始まる。
「マツイナリカズさんの塩バターロールは。最近テレビで取り上げられて認知度があがり、彼の店の前には長い行列が出来る様になった。しかし、彼のファンの求めに応じるに十分なバターの供給を受けることが出来ない。」
「『1人、5ロールに制限しないといけません。』と彼は言う。」

長い記事なので暫く要約する。

東京では殆どの食品が揃うが、バターは過去2年間不足気味で、多くのパン屋がマーガリンに頼らざるを得ない状態だ。輸出規制と酪農家の高齢化により十分な供給が出来ない。これは、日本の経済と軍事力を強化しようとする安倍首相にとっても打撃だ。日本の貿易相手国にとっても、日本がもっと市場を開放しなければならないことを示す象徴的な出来事だ。
規制緩和やTPPを強力に推進する安倍首相にとっても、バターの状況を改善するのは容易ではない。農協や農業水産相の役人達は、輸入解放は国内酪農業者の生活を脅かすことになると主張する。安倍首相は、牛肉、豚肉と共に、酪農製品を聖域として保護することを誓っている。日米のTPP交渉は木曜日に再開され、今月後半には12ヶ国による会議も予定されている。この交渉でバターも取り上げられるが、交渉国がこの問題についてどの程度の譲歩を求めてくるかは不透明だ。
日本の酪農会社は、ミルクや生クリームを優先して生産し、バターの優先順位は高くない。この結果、バターの価格は過去1年で12%近く値上がりし、1人1個しか買えない店も多い。高関税のため、個人業者がニュージーランドやアメリカからバターを輸入するのは実質的に不可能だ。その代わりに、国が安定供給を目的に毎年一定量を買い上げている。今年もバターの供給が不足するとの予測に基づき、政府は過去最高となる10,000トンを緊急輸入する。こうした措置は、過去8年の間に、5回も行われた。
酪農業界は、高齢化の影響を最も受けた産業だ。後継者不足で、10年前に27,700人いた酪農家が、17,700人にまで減少している。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「農業水産相の役人は、この問題への答は、酪農家がもっと利益を得られる様にし、酪農家の仕事をもっと楽にすることだという。今年発表予定の対策で、政府は酪農家がロボットなどの生産性を向上させる機器を購入することを助ける。しかし、こうした取組みは結果が出るまでに時間がかかる。」
「農協の役人やシェフは、国内メディアのバター供給不足の報道により、消費者がバターを貯蔵していると言う。しかし、供給不足の影響は限定的だろう。なぜなら、日本におけるバターの消費はそれ程多くないから。農業水産相によれば、日本人一人当たりのバターの年間消費量は584グラムだ。アメリカバター協会によれば、アメリカ人一人当たりのバター消費量は、その4倍だ。」