Wednesday, May 30, 2018

好景気に沸く日本でフィリップカーブは危機に直面【A2面(国内面)】

日本ではフィリップ曲線は機能しないという記事が、24日のWSJに取り上げられた。


 フィリップ曲線では、失業率が下がればインフレが起きるとされているが、日本ではそうなっていない。その理由として、日本ではオートメーションが「創造的に」進んでいること、今まで過剰サービスだったのでサービスをそぎ落とす余地があることなどを上げている。日銀政策が機能していないことも含め、なぜ日本ではインフレが起きないのかを、欧米紙らしく論理的に説明していて面白い。

***** 以下本文*****
経済の標準モデルは、単純な関係性に基づいている。失業率が下がれば、最終的にインフレが起こるという関係だ。この関係はフィリップカーブと呼ばれているが、日本では何年にもわたり、病気になってしまっている様だ。日銀があらゆるところで直面している現象をみると、日本ではフィリップカーブは死んでしまっているのかもしれない。
ちょっと意外に感じるかもしれないが、日本は好景気に沸いている。昨年のGDP1.9%成長しており、第一四半期は縮小したと言え、今年も1%以上は成長するはずだ。こうした数値はあまり大きくない様に感じられるかもしれないが、人口が減少していることを考慮に入れると、日本の長期的な潜在成長率を上回っている。
幾つかの点で、日本経済は過熱気味だ。日銀によれば、全体的な活動は、通常の能力を1.5%上回っている。現在2.5%の水準にある失業率と企業の余剰キャパシティは、1993年以来の最低水準になっている。1993年といえば、1980年代の資産バブル、株式バブルが弾けたばかりの頃だ。47都道府県すべてで、一人の求人者に対し、一つ以上の仕事がある。「これは、明らかに、供給以上に需要があることを意味している。」と浅川雅嗣財務官は言う。「全ての指標が良かった。唯一の謎は、価格が弱いことだ。」
今年4月までの、生鮮食品とエネルギーを除いたインフレ率は0.4%にすぎない。これは、1998年から2012年までの明らかなデフレよりは良い。しかし、日銀の目標とする2%には程遠い。これは、問題だ。なぜなら、もしインフレ率がゼロかそれ以下で動かなければ、利率もゼロかそれ以下で動かなくなってしまう。そうすると、日銀から金利を引き下げて景気を刺激するという政策余地を奪ってしまうからだ。
フィリップカーブは、ニュージーランド生まれの経済学者で、1950年代に初めてこの関係性を見出したアルバン・ウィリアム・フィリップスの名前に由来する。労働と製品に対する需要が供給を超えると、価格や賃金は上昇するというものだ。しかし、インフレは、心理的な要因という重要な側面にも左右される。人々のインフレに対する期待感が、彼らが合意する賃金の決定や企業がどの程度価格を上げるかの決定を助ける。もし、期待感に変化がなければ、タイトな労働市場と限られたキャパシティーがインフレ率を押し上げるはず局面においても、インフレ率が低いままに止まるということはあり得る。
このモデルが、インフレ率を押し上げるには、2つの方法があるとしている。方法Aは、人々の期待を変化させることだ。方法Bは、賃金や価格が上昇する様に、長期間に渡って、経済を過熱気味にさせることだ。
2013年に黒田晴彦氏が、デフレを終わらせるという使命を持って、日銀総裁に着任した際には、彼は方法Aを選択した。彼は、2年以内にインフレ率2%を達成するという目標を設定し、それを達成するために「量的質的金融緩和」という大胆なプログラムを導入した。大量の国債を新たに印刷した紙幣で購入したのだ。彼は、日本の企業や労働者たちに刺激を与え、高いインフレ率への期待を持たせようとした。それは、やがて賃金上昇へと繋がり、好循環をもたらす。
しかし、2014年の消費税増税が、消費者の気分を冷えこませた。さらに原油価格も値下がりし、インフレ率も下落した。そして、黒田氏は今、方法Bを推し進めている。わざと経済を過熱させることによって、企業が賃金を上げ、価格を上げる様に、誘導しているのだ。しかし、彼は最近のスピーチの中で、心理的要因がこの目標達成を妨げていると述べた。「人々のデフレマインドセットは、思っていた以上に深く人々の心に刻み込まれている。」
高いコストや労働力不足に対応するため、日本企業は、価格を上げること以外に考えられるすべてのことを行なった。バンクオブアメリカメリルリンチのエコノミストであるデバリエ・イズミ氏は、日本はアメリカに比べて長い間より良いサービスを求めてきた。(そして、そのために追加のコストを支払ってきた。)彼女によれば、企業は今、価格や賃金を上げるのではなく、サービスの質を落とすことを行なっている。いくつかのファミレスチェーンは、24時間営業をやめた。幾つかのデパートは、閉店時間を30分早めた。日本の旅館は、部屋で食事をサーブしたり、布団の準備をしたりすることを、次第にやらなくなってきている。
昨年、宅急便大手のヤマト運輸は、慢性的な労働力不足と劣悪な労働環境に対応するために、運送費と賃金を上げた。では、価格を上げるということが、今やビジネスの常識になったのだろうか?そんなことはない。結果として、新聞の全面広告で謝罪することになってしまったのだ。
モーガンスタンレーのエコノミックアドバイザーであるロバート・フェルドマン氏によれば、日本の企業は、より創造的なやり方でオートメーションを導入している。例えば、レストランは、注文を取ったり、運んだりするために、タッチスクリーンやベルトコンベヤーを利用している。コンビニでは、店員の代わりに、セルフチェックアウトマシンを導入している。こうした動きは、生産性を上げるが、価格上昇への蓋を閉めたままになってしまう。
日本でインフレ率を押し下げいるこうした多くの要因は、米国や欧州でも失業率が下がれば、当てはまるかもしれない。
しかし、日本では、賃金をある程度上昇させるためには、非常に長期にわたって、経済を過熱気味に維持させねばならない。そうすると、資産バブルの様な、過剰に伴う危険が浮上する。繁栄する日本は、今日に教訓与えるだけの過去の経済物語ではない。しかし、中央銀行にとっては、その教訓は、未だに心配の種になっている。