Thursday, May 31, 2018

*** 5月のまとめ ***

5月にWSJに掲載された日本関係の記事は3件だけ。2015年10月、2018年2月と並んで、最低の数だった。

日本では、前半は山口達也・元TOKIOメンバーによる不祥事、後半は日大の悪質タックルとそれに伴う会見の話題が世間を騒がせた2018年5月。歌手・西城秀樹さん死去にも驚かされたが、WSJはさすがにこれらの記事は黙殺。

テーマ別では、政治関係がなし、経済関係が3件、社会関係がなしだった。

3件のうち、いわゆる速報記事は、1件だけ。世界的に報道すべき重要な動きが、5月には日本では殆ど起こらなかったことを示している。
この1件も、17日に取り上げられた「2018年第1四半期のGDP速報値」で、WSJが4半期に一度必ず取り上げる定例ニュースの一つだった。

残りの2件は、いわゆる特集記事。
7日に「日本では搾乳ロボットの導入が進んでいる。」という記事が取り上げられた。日本の農業の生産性は極めて悪いが、ロボットの導入によって改善が進んでいるとのこと。少子高齢化に悩む日本ではあらゆる分野でこうした動きが見られるとした。
24日は「日本ではフィリップ曲線が機能しない。」という記事が取り上げられた。フィリップ曲線では、失業率が下がるとインフレが起きるとされるが、日本ではそうなっていないとして、その理由を詳細に報じている。
特集記事の2件は、いずれも読み応えのあるものだった。

掲載箇所では、国内面が1件、国際面が2件だった。

Wednesday, May 30, 2018

好景気に沸く日本でフィリップカーブは危機に直面【A2面(国内面)】

日本ではフィリップ曲線は機能しないという記事が、24日のWSJに取り上げられた。


 フィリップ曲線では、失業率が下がればインフレが起きるとされているが、日本ではそうなっていない。その理由として、日本ではオートメーションが「創造的に」進んでいること、今まで過剰サービスだったのでサービスをそぎ落とす余地があることなどを上げている。日銀政策が機能していないことも含め、なぜ日本ではインフレが起きないのかを、欧米紙らしく論理的に説明していて面白い。

***** 以下本文*****
経済の標準モデルは、単純な関係性に基づいている。失業率が下がれば、最終的にインフレが起こるという関係だ。この関係はフィリップカーブと呼ばれているが、日本では何年にもわたり、病気になってしまっている様だ。日銀があらゆるところで直面している現象をみると、日本ではフィリップカーブは死んでしまっているのかもしれない。
ちょっと意外に感じるかもしれないが、日本は好景気に沸いている。昨年のGDP1.9%成長しており、第一四半期は縮小したと言え、今年も1%以上は成長するはずだ。こうした数値はあまり大きくない様に感じられるかもしれないが、人口が減少していることを考慮に入れると、日本の長期的な潜在成長率を上回っている。
幾つかの点で、日本経済は過熱気味だ。日銀によれば、全体的な活動は、通常の能力を1.5%上回っている。現在2.5%の水準にある失業率と企業の余剰キャパシティは、1993年以来の最低水準になっている。1993年といえば、1980年代の資産バブル、株式バブルが弾けたばかりの頃だ。47都道府県すべてで、一人の求人者に対し、一つ以上の仕事がある。「これは、明らかに、供給以上に需要があることを意味している。」と浅川雅嗣財務官は言う。「全ての指標が良かった。唯一の謎は、価格が弱いことだ。」
今年4月までの、生鮮食品とエネルギーを除いたインフレ率は0.4%にすぎない。これは、1998年から2012年までの明らかなデフレよりは良い。しかし、日銀の目標とする2%には程遠い。これは、問題だ。なぜなら、もしインフレ率がゼロかそれ以下で動かなければ、利率もゼロかそれ以下で動かなくなってしまう。そうすると、日銀から金利を引き下げて景気を刺激するという政策余地を奪ってしまうからだ。
フィリップカーブは、ニュージーランド生まれの経済学者で、1950年代に初めてこの関係性を見出したアルバン・ウィリアム・フィリップスの名前に由来する。労働と製品に対する需要が供給を超えると、価格や賃金は上昇するというものだ。しかし、インフレは、心理的な要因という重要な側面にも左右される。人々のインフレに対する期待感が、彼らが合意する賃金の決定や企業がどの程度価格を上げるかの決定を助ける。もし、期待感に変化がなければ、タイトな労働市場と限られたキャパシティーがインフレ率を押し上げるはず局面においても、インフレ率が低いままに止まるということはあり得る。
このモデルが、インフレ率を押し上げるには、2つの方法があるとしている。方法Aは、人々の期待を変化させることだ。方法Bは、賃金や価格が上昇する様に、長期間に渡って、経済を過熱気味にさせることだ。
2013年に黒田晴彦氏が、デフレを終わらせるという使命を持って、日銀総裁に着任した際には、彼は方法Aを選択した。彼は、2年以内にインフレ率2%を達成するという目標を設定し、それを達成するために「量的質的金融緩和」という大胆なプログラムを導入した。大量の国債を新たに印刷した紙幣で購入したのだ。彼は、日本の企業や労働者たちに刺激を与え、高いインフレ率への期待を持たせようとした。それは、やがて賃金上昇へと繋がり、好循環をもたらす。
しかし、2014年の消費税増税が、消費者の気分を冷えこませた。さらに原油価格も値下がりし、インフレ率も下落した。そして、黒田氏は今、方法Bを推し進めている。わざと経済を過熱させることによって、企業が賃金を上げ、価格を上げる様に、誘導しているのだ。しかし、彼は最近のスピーチの中で、心理的要因がこの目標達成を妨げていると述べた。「人々のデフレマインドセットは、思っていた以上に深く人々の心に刻み込まれている。」
高いコストや労働力不足に対応するため、日本企業は、価格を上げること以外に考えられるすべてのことを行なった。バンクオブアメリカメリルリンチのエコノミストであるデバリエ・イズミ氏は、日本はアメリカに比べて長い間より良いサービスを求めてきた。(そして、そのために追加のコストを支払ってきた。)彼女によれば、企業は今、価格や賃金を上げるのではなく、サービスの質を落とすことを行なっている。いくつかのファミレスチェーンは、24時間営業をやめた。幾つかのデパートは、閉店時間を30分早めた。日本の旅館は、部屋で食事をサーブしたり、布団の準備をしたりすることを、次第にやらなくなってきている。
昨年、宅急便大手のヤマト運輸は、慢性的な労働力不足と劣悪な労働環境に対応するために、運送費と賃金を上げた。では、価格を上げるということが、今やビジネスの常識になったのだろうか?そんなことはない。結果として、新聞の全面広告で謝罪することになってしまったのだ。
モーガンスタンレーのエコノミックアドバイザーであるロバート・フェルドマン氏によれば、日本の企業は、より創造的なやり方でオートメーションを導入している。例えば、レストランは、注文を取ったり、運んだりするために、タッチスクリーンやベルトコンベヤーを利用している。コンビニでは、店員の代わりに、セルフチェックアウトマシンを導入している。こうした動きは、生産性を上げるが、価格上昇への蓋を閉めたままになってしまう。
日本でインフレ率を押し下げいるこうした多くの要因は、米国や欧州でも失業率が下がれば、当てはまるかもしれない。
しかし、日本では、賃金をある程度上昇させるためには、非常に長期にわたって、経済を過熱気味に維持させねばならない。そうすると、資産バブルの様な、過剰に伴う危険が浮上する。繁栄する日本は、今日に教訓与えるだけの過去の経済物語ではない。しかし、中央銀行にとっては、その教訓は、未だに心配の種になっている。

Thursday, May 17, 2018

長期にわたる連続成長に終止符。【A8面(国際面)】

内閣府が16日発表した2018年1~3月期の国内総生産(GDP)の速報値は、年率換算で0.6%減となり、9四半期(2年3カ月)ぶりのマイナスに沈んだが、WSJはこのニュースを17日の国際面で速報した。



個人消費と企業投資が弱いことが主因であること、安倍首相にとって打撃であることなどを、コンパクトに伝えている。

***** 以下本文 *****
政府発表のデータによれば、日本経済は、2018年第一四半期に縮小した。個人消費や企業投資が弱かったためだ。ここ28年で最長だった連続成長にブレーキがかかった。
世界第3位の経済は、2017年最終四半期には改定値で年率換算0.6%成長していたが、20181-3月期は0.6%の縮小となった。縮小したのは、2015年最終四半期以来のことだ。
日本経済は、日銀の大胆な金融緩和などの経済政策によって、何十年にもわたる不振から抜け出すかにみえたが、ちょうどその時にこの縮小はおきた。
この新しいデータは、連続成長を自らの経済政策の成功の証としてきた安倍首相にとって、逆境だ。
しかし、役人やアナリストたちは、この縮小は一時的なものだとみている。アナリストの中には、今四半期(4-6月期)にも経済の回復が期待できるとみているものもいる。

Monday, May 7, 2018

搾乳ロボットが日本の効率性を向上させる【A7面(国際面)】

日本では、搾乳ロボットの導入が進んでいるとの記事が、7日の国際面に掲載された。


 ここ2-3年で日本の搾乳ロボットの数は倍増し、500台を超えた。日本の農民の労働生産性は、米国の1/40以下と極めて非効率だが、ロボットの導入によって改善が見られるとしている。人口減少に苦しむ日本ではあらゆる分野でロボット化、IT化が進んでいると伝えている。

***** 以下本文*****
加藤農園では、搾乳の時間だ。しかし、ホルスタインがゆっくりと檻に歩いて行くとそこには誰もいない。ロボットが4つの腕を駆使して、乳首
に搾乳チューブを取り付けるのだ。その間、乳牛は美味しいものを食べて楽しんでいる。10分以内に、次の乳牛の順番となる。
加藤農園は約200万ドルを投資して、搾乳する23万ドルのロボット2台と18千ドルの餌をやるロボットを駆使した授乳小屋を作った。北部の島である北海道では、平坦な農園がグリッドの様に広がっており、日本の本州よりも、ウィスコンシンに似ている。ここでは、ここ数年で、数百台ものロボットが導入された。人間の助けを期待するのはほぼ不可能だから。
「我々は、生活の仕方や仕事の仕方を変えねばなりません。」と67才の加藤ケンイチさんは言う。彼は、40年以上前に、3頭の乳牛で彼の農園を開設した。「酪農にロボットは適用できないという人もいますが、そんなことではどうしようもありません。若い人は絶対に来ないのですから。」
エルシーさんを搾乳するロボットを取得するのは、日本を救うかもしれない投資の一つだ。日本は、人口減少に対処するのに苦労している。しかも、現在働いている人々についても問題がある。OECDによれば、日本人は米国人に比べて、平均して2/3 の効率しかない。
農業はそうした中でも最悪だ。東洋大学のエコノミストであるタキザワ・ミホ氏によれば、米国の農民は、日本の農民に比べて40 倍以上効率が良い。
規模が大きな理由だ。日本の平均的な水田は数エーカーだ。一方、米国のコーンや麦の畑は、数千エーカーあり、超効率的なコンバインを使っている。
いまや、労働者不足により、日本のあらゆる規模のビジネスが、ロボットやITへの投資を余儀なくされている。そうした動きによって、宅急便の配達や回転寿司屋で注文をとったりするなどの、日常的な仕事がスピードアップされる。
もし、日本の企業に何に投資しているかと尋ねれば、「全てIT投資です。人間を機械に置き換えるための投資です。」という答えが返ってくるだろうと、ゴールドマンサックスのストラテジストのキャシー・マツイ氏は言う。
日銀によれば、企業のソフトウェアの投資によって、労働生産性は向上している。労働生産性は、過去2年間向上し、今年は8.1%向上することが期待されている。
酪農家は、長い間搾乳機に依存してきたが、そうした機械を使っても多くの手作業が必要だ。
全ての仕事をこなす搾乳ロボットは、1990年代に最初は欧州で導入された。北海道の企業であるコーンズAG社のニシムラ・マサコ氏によれば、ここ2-3年で、日本で使われているロボットの数は倍増し、500台を超えた。同社は、加藤さんが使っている機械を輸入した。その機械はオランダのメーカーであるLely International社のものだ。
より大規模に、より効率的になろうとする農民たちは、政府の補助金を使って、半額で搾乳ロボットを入手している。搾乳ロボットはトラックほどのサイズだ。搾乳前に、ロボットは乳牛の下に入り込み、その乳房を洗浄する。チューブは、ミルクを冷蔵庫へと運ぶ。機械はまた、乳牛のIDを耳についたタグから把握し、それぞれの乳牛からの製品の情報に格納する。
加藤農園では、追加の人手なしに、これまでの倍の乳牛を飼っている、加藤さんの息子のマサハルさんによれば、4年前にロボットを導入するまでは、毎日、朝4時から夜9時まで働いていた。今では、ロボット小屋にいる乳牛たちに必要なのは、日に3-4時間の世話だけだ。彼は、午後6時半から7時には帰宅することが出来、夜に5人の子供たちとの時間を楽しむことができる様になった。
ロボットによって、加藤一家は、牛乳以外のものも作れる様になった。マサハルさんの妹のヨシエさんはチーズを作り、札幌空港を含む北海道の複数店舗で、加藤農園のブランドで販売している。
彼女は、市から借り受けたチーズ工場で働いているが、1年以内に加藤農園の土地に自分の工場を作ろうと考えている。そこで彼女は、加藤農園からの牛乳で、チーズやバター、その他の乳製品を作ることができる。
「新工場では、自動化できることは、できるだけ自動化したいと思います。」と彼女は言う。しかし、品質管理の最終工程で、味を試し、匂いをチェックし、外観を確認するのは人間でなければなりません。