5月5日のWSJに、日本は直接投資先として魅力ある国だとする全面広告が掲載された。
広告主は示されていないが、内容からみて三菱東京UFJ銀行と推測される。まず、安倍首相は、木内、佐藤両氏の退任により空席となる日銀審議員のポストに、片岡剛士氏と鈴木人司氏を充てる人事を発表したことに触れているが、片岡氏と鈴木氏の2名は東京三菱UFJ銀行のOBだ。木内、佐藤両氏はアベノミクスに批判的だったが、片岡氏と鈴木氏はアベノミクス支持派なので、インフレ率2%達成までは日銀の金融緩和策が継続されることが確実となったので、安心して日本に投資出来るとしている。また、東京三菱UFJ銀行のレポートから数値等を引用しながら、日本ではアベノミクスが機能していること、安倍首相は日本を海外からの投資先として魅力的な市場にするための政策を本気で実施していること、従って日本は海外からの投資先として有望な市場であることを強調している。最後に、GDPに占める海外からの直接投資の割合は、OECD加盟国の平均が32%であるのに対し、日本は3.5%に過ぎず、日本は大胆な投資家にとって有望な投資先だとして締めくくっている。
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今年は酉年だが、日本の57代目の首相である安倍晋三にとって、最も輝かしいスタートを切る年というわけにはいかなかった。ワシントンでは、新しい大統領が喜々としてTPPを白紙に戻し、「アメリカ第一主義」を宣言した。こうしたトランプ大統領の行動は、アジアの政治家たちに地域の政治、経済の将来に対する懸念を抱かせた。
北朝鮮は、日本にとって好戦的で益々予測のつかない隣国となりつつあるが、その主席の金正恩は日本海に向けてミサイルを撃ち込みたいという尋常では野望をもっている。一方、安倍首相は(北朝鮮から自国を守る政策について)日本国内での反対意見をかわさなければならない。
最初の数ヶ月はあっという間に過ぎた。桜が、有名な皇居の堀を埋め尽くす頃までは、ことは予想以上に順調に進んでいた。トランプ大統領と中国の習近平主席は、今後に望みをつなぐ会談を行ったし、ペンス副大統領がアジア地域に派遣され、日米韓間の鉄の結束を支持することを再確認した。また、森本学園スキャンダルもあった。金主席の常軌を逸した弾道ミサイル計画だけが問題だった。
とりわけ、2017年の日銀短観は良いニュースだった。2016年度の日本企業の税引前利益は52兆3,000億円(4,800億ドル)にのぼった。製造業が強く、輸出が伸びたため、前年度比で大きく伸びた。
輸出は、前年度比で12%伸びて、7兆2,291億円となった。2月が対前年度比11.3%だったので更に改善した。4ヶ月連続で数値は改善しており、過去2年間で最も早い成長となっている。鉄鋼や自動車部品の輸出が伸びたが、海外での好調な需要によって楽観的な見方が広がっている。
好調な経済指標を見て、安倍首相は経済再生計画を更に推し進めるために、まもなく空席となる日銀の政策決定委員会の2つのポジションに、アベノミクスを支持する人物を指名することとした。木内登英と佐藤健裕は、安倍首相の政策に批判的だったが、この2名を交代させる。こうした行動により、安倍首相は、批判もある中、日本を活性化させるために、改革を成し遂げるという強い意志を示した。
安倍首相による指名は国会の承認を必要とするが、三菱UFJリサーチ&コンサルティング上席研究員でリフレ派を自認する片岡剛士氏と、三菱東京UFJ銀行の元副頭取で経験豊かな銀行員である鈴木人司氏を指名したことは、安倍首相の決意の固さを示している。こうした状況下では、インフレ率が安倍首相が公約した2%以下にとどまる限りは、日銀の金融政策が変更されることは無いだろう。
三菱東京UFJ銀行は、東京に本店を置きグローバルに展開するファイナンスマネジメント企業だが、安倍首相の政策は正しいと考えている。2017年2月に同行は「日本経済に次にくるものは?」というタイトルのレポートを発行したが、その中で、安倍首相が、20年以上続いた経済不振とデフレから日本を脱却させるために、日本の生産性を改善し、経済を再生させる政策であるアベノミクスを開始してから4年が経つが、最近の数値を見る限り、アベノミクスは機能しており、新たなる安定と自信が見えつつあると述べている。
三菱東京UFJ銀行のレポートは内閣府が発表する統計に基づいている。同統計によれば、日本の2016年度第四四半期のGDPは1.2%成長しており、以前の予測を上方修正したことになる。「明らかに、これらの数値は、日本の長期的な潜在成長率を上回っており、成長は4四半期続いている。過去3年間見られなかった明るい動きだ。」とレポートは結論付けている。「同様に明るい指標としては、日本の名目GDPが527兆円(6兆1,000億円)になったことがあげられる。1997年以降なかった水準だ。」
日銀レポートと同様に話題になっているのが、フィリピンに拠点を置くアジア開発銀行が発行したレポートであるアジアの開発展望2017だ。このレポートは、アジア地域において、いかなる政治的経済的な分断が起きようとも、2017年にはアジアは世界経済の60%を占める巨大な勢力となるとしている。
「発展するアジアは順調に成長していくでしょう。海外の政策の不透明さに起因するいかなるリスクにもうまく対応するでしょう。アジアの開発展望2017は、アジア地域のGDPが2017年には5.7%、2018年には5.8%成長すると見ています。」と中尾武彦アジア開発銀行総裁は言う。
「他地域の旺盛な需要、コモディティー価格の復調、国内の改革などが、広範囲にわたる成長を促進している。地域の45ヶ国のうち、2/3の国々で成長が見られる。最大の経済大国である中国の発展に鈍化が見られるものの、発展するアジアは引き続き世界経済の発展に大きく寄与している。発展するアジアの将来は、米国、ユーロ圏、日本などの主要先進国の経済の復調にも支えられている。
アジア開発銀行のレポートは、生産性を向上させるためには、イノベーション、人的資本、インフラ等の開発に集中する必要があることを強調しているが、日本企業がこうした分野で役割を果たしたいと考えている。さらに重要なことは、同レポートが、アジア全体への富の分散を指摘していることだ。これは、同地域の成功にとって鍵となる。「1960年にアジア開発銀行が操業を開始した際には、地域の殆どの人々が低所得者層に属していた。」と中尾氏は語る。
「それ以降の国家開発の努力の積み重ねが、地域を変えた。今日、人口の多い中国、インド、インドネシアを含む殆どの国々が所得の階段を順調に上っており、人口の約95%が中産階級に属している。今後の課題は更に高い所得を目指して階段をもう一段上ることだ。」
アジアの広範な地域が繁栄することは、日本に対しても確実に影響を与えるだろう。特に、安倍首相は、海外からの直接投資をアベノミクスの成功の中心に据えている。2013年の選挙で、安倍首相は、東京でオリンピックが開催される2020年までに、日本への直接投資額を倍増させ35兆円とすることを公約した。2015年の終わりまでに、24兆4,000億円(2,238億ドル)に達したが、これは安倍内閣が発足した2012年の終わりの17兆8,000億円(1,633億ドル)から増えている。
元EUコミッショナーで、現在はイギリスで同様の役割を果たしているピーターマンデルソン公は、2008年に日本を訪問した際に、日本を「先進国で最も閉鎖的な投資先」として激しく非難した。それから10年経って、安倍首相は、海外投資に対して税制優遇措置を適用すること、そして国家戦略特区によって日本を世界で最もビジネスをしやすい国にすることをを公約した。
安倍氏が首相を務める日本は、地球上で10番目に人口の多い国だ。1億2,700万人の国民がいて、一人当たりのGDPは378万円(48,500ドル)あり、真剣な海外直接投資家にとっては魅力的な市場だ。それに加えて、政治や社会は安定しているし、インフラの充実、スキルがあり安定した労働力、非常にレベルの高い研究開発、居住性と安全性などは、他に国にはマネできない水準にある。更に2020年の東京オリンピックに向けて、沢山の機会が待ち受けているだろう。日本は、海外直接投資先として、更に魅力的なものとなっているのだ。
しかし、安倍首相の夢を実現させるには、まだ長い道のりがある。海外直接投資のGDP比率は、OECD加盟国の平均が32%であるのに対し、日本は3.5%(2014年現在)に過ぎない。大胆な投資家にとっては、これは絶好に機会だ。日本では「大胆に行動するものが勝利する。」と言われているのだ。