Friday, July 31, 2015

** 7月のまとめ **

7月にWSJに掲載された日本関係の記事はわずか5件だった。このブログの開始以来、最も少ない月となった。

テーマ別では、政治関係が2件、経済関係が1件、社会関係が2件だった。

政治関係では、「安保法案衆議院通過」が、国際面で速報された後、社説に掲載された。民主党がこの法案に戦争法案などというレッテルを貼り、中国に政治的に利用されたりしているが、民主党の政権時代の主張は、現在の自民党の主張と大きな隔たりは無く、最終的に自民党案を軸に国民的コンセンサスが形成されると期待している。

経済関係では、「バター輸入規制」の問題がとりあげられた。高齢化により、酪農家の数が減り、生乳の生産量が減る。生乳はまず新鮮さを求められる牛乳などに回されるので、結果としてバター不足に陥る。では、バターを輸入すれば良いということになるが、規制により民間企業がバターを輸入出来ない。TPP交渉を前に日本に市場開放を迫った記事。

社会関係では、「新国立競技場計画白紙撤回」「海の日の猛暑」の2件。どちらも大きな写真を中心とした記事で、文章は短い。

掲載箇所では、国際面が4回、社説が1回だった。

それにしても、日本関係の記事がこれだけ少ないのは気になる。日本関係の記事が増えるのは、安倍首相が訪米したり、オバマ大統領が訪日したりした時に加え、安倍首相をはじめとする日本のリーダーがアメリカの権益に関係する政策や国際的にみても先進的な政策を推進しようと、強いリーダーシップを発揮した時だ。
アベノミクスが既得権益を守ろうとする業界団体の前に、そして安保法案も現状を維持しようとする国民世論の前に大きく停滞している。安倍首相も支持率を気にして強気の発言を押えており、こうした状況が記事数少なさに反映されているのだろう。
業界規制にしても地域安全保障にしても、今の日本のやり方に固執する内向きの議論では無く、もっと前向きな議論が出来ないのだろうか。


Tuesday, July 21, 2015

嬉しい悲鳴、猛暑日に日本の子供達は水を浴びせかけられる。【A9面(国際面)】

海の日の7月20日、関東地方が猛烈な暑さに見舞われたことを、21日の国際面で報道した。


関東地方は19日に梅雨明けが宣言され、20日の海の日は猛烈な暑さに見舞われた。八景島シーパラダイスのイルカのショーで、観客の子供達が水をかけられて喜んでいる様子を大きな写真で掲載している。暑さが伝わってくる良い写真だ。

***** 以下本文 *****

「友好的な水かけ」
「シロイルカが、日本の横浜にある水族館の来訪者に水を浴びせています。月曜日に横浜の気温は90度近くまであがりました。」


Saturday, July 18, 2015

新国立競技場デザイン白紙撤回 【A8面(国際面)】

7月17日の安倍首相の新国立競技場計画「白紙撤回表明」のニュースを18日の国際面で、大きなイラスト入りで速報した。


新国立競技場のイラストを大きく掲載し、その下に短い注釈をつけただけの簡単な記事。

***** 以下本文 *****

東京の新しいオリンピックスタジアムの費用についての何週間にもわたる批判の後、金曜日に、安倍晋三首相は、彼の政府は現在のデザインを廃棄すると述べた。

日本の平和的な自衛【A10面(社説)】

7月16日に衆議院を通過した安保関連法案について、18日の社説でとりあげた。

WSJは、この法案を「日本が民主主義守るためにより一層の責任を担うことを可能にし、東アジア地域の安定をもたらす。」として評価する一方、この法案に反対する日本国民を「臆病(skittish)」だと言っている。安倍首相が「この法案により自衛隊がどの様な活動を認められる様になるか」を具体的に説明しないため、野党がこの法案に「戦争法案」のレッテルを貼り、それが国民の不安を煽り、国民を臆病にさせているとしている。
こうした野党の反安倍の宣伝文句は、中国によって反安倍のプロパガンダとして利用されるという皮肉な結果を招いているとして、野党の思慮を欠いた対応を暗に批判。その一方で、野党第一党である民主党は、政権担当時に、安倍首相と同じ政策を部分的に推進しようとしていたとして、最終的にはこの法案への与野党間のコンセンサスが形成され、日本国民も法案の見識を受け入れるだろという、楽観的な見方を示している。
安倍首相が自衛隊の活動の詳細を説明出来ない理由を「米国の軍事予算削減により、日本はフィリピンや韓国等、米国以外の同盟国と連携する必要が出てきたが、外交上の理由でそれらを詳しく説明するのは軽率だから。」としている。日本では、想定している同盟国を米国、豪州としており、フィリピンや韓国というのは少し意外な感じがした。
(ウォールストリートジャーナル日本語版にほぼ同内容の記事が掲載されていたので、同記事に一部修正を加えて下記に引用させて頂きました。)
***** 以下本文 *****
安倍晋三首相は16日、日本に集団的自衛権の行使を可能にする法案の成立に一歩近づいた。日本は米国の安全保障の傘の下で70年間過ごしてきたが、この法案によって、自国や同盟国が脅威にさらされた場合に一緒に戦えるようになる。同時に地域の安定を促し、東アジアの民主主義を守ることもできる。
 安倍内閣は昨年7月、集団的自衛権の行使を可能にするため、戦後憲法の解釈変更を決めた。今年4月には米日両政府が防衛協力の枠組みを示す新たな「防衛協力のための指針」(ガイドライン)で合意した。そして今月16日、安全保障関連法案が衆議院で可決され、参議院に送られた。
 ここまでの道のりは平たんではなかった。日本人の大半は安保法案に反対している。朝日新聞の世論調査によると、安倍内閣の支持率は39%に急落、不支持率は42%となった。国会内で怒号が飛び交い、国会の外では大規模な抗議活動が行われた。参院で法案を通すためには、首相は平和主義的な傾向のある連立パートナーの助けが必要となる。ただ、連立与党は衆院で3分の2超の議席を持つため、参院で否決されたとしても覆すことができる。
 なぜ日本の国民はこれほどまでに臆病なのだろうか。安倍首相は、法案が自衛隊にどんな活動を認めるのかについて詳しい説明を拒んだからだ。このため野党に「戦争法案」とのレッテルを貼られることになった。安倍首相の口が重いのは外交上必要な面もある。法制変更の差し迫った理由は、中国の台頭と最近の攻撃的な行動、それに米軍事費の予算削減だ。このため日本はフィリピンや韓国といった米国の同盟諸国とより緊密に協力する必要が出てきた。だが、それを詳しく説明するのは軽率だろう。首相が集団自衛権行使の例として挙げた唯一のシナリオは、ペルシャ湾の封鎖を突破するための米軍との共同作戦だった。
 安倍首相はまた、戦時中の日本の侵略行為を美化してきた。このため批判勢力が首相を古い考えのナショナリストとして描くことはたやすい。中国の新華社通信は近年、日本に対して集中砲火を浴びせる際、皮肉にも日本の平和主義者たちの言葉を借りるようになった。
 今週は感情的な動きが目立ったが、安全保障面でより積極的な役割を支持する超党派のコンセンサスが生まれつつある。安保関連法案に反対している民主党は2012年以前に政権を担っていた当時、安倍首相と同じ政策を部分的に推進した。民主党政権で首相を務めた菅直人、野田佳彦の両氏は、政策立案における自衛隊の役割の正常化、軍需産業の改革、「動的防衛力」、地域へのより幅広い関与といった構想を支持した。
 このことから、安保関連法案が成立して法制変更の見識が受け入れられれば、安倍首相の支持率が高まることがうかがえる。集団的自衛権を行使することは、第2次世界大戦以降、平和と安定を推進してきた日本の素晴らしい経歴を汚しはしない。むしろ、民主主義と法に基づいた国際秩序を守るために日本がより大きな責任を負うという、新たな章を開くことができるのだ。

Friday, July 17, 2015

安全保障法案が衆議院を通過【A6面(国際面)】

7月16日の安保法案の衆議院通過について、翌日の紙面で速報した。



日本では大きく取り上げられているこのニュースも、WSJでは国際面の片隅で、たったの10行で報じられただけ。
日本では、安倍首相が安保法案の今国会での成立を米国に約束しており、それが安倍首相が強行採決に踏み切った理由のひとつとしてあげられているが、米国での関心はこの程度だ。

***** 以下本文 *****

国家安全保障法案のパッケージが衆議院を通過した。これらの法案により、日本の軍隊は、日本そのものが攻撃されていなくても、攻撃されている同盟国を助けることが出来るようになる。こうした動きは、日本の平和憲法の解釈変更を伴う。日本の憲法は軍隊の役割を自国防衛に制限している。これらの法案は参議院へと送られる。

Thursday, July 9, 2015

日本の酪農の苦悩が味気ない供給不足を生んでいる【A8面(国際面)】

政府の輸入規制と酪農家の高齢化により、日本でバターの供給不足が起きているという記事が、国際面に掲載された。


高齢化で酪農家の数が減少し、生乳の生産量が増えない。生乳はまず腐りやすいミルクの使用へ回されるので、バターが供給不足に陥る。では、輸入すれば良いということになるが、政府の規制により民間企業は輸入出来ない。
農水省が「酪農家に補助金を出してロボットを購入させ生乳の生産量を増やすこと」をこの問題の解決策として提示したり、農協が「バター不足はメディアの報道により不安に感じた国民がバターを買い貯めていること」をこの問題の原因と主張したり、日本の役人の的外れな対応を面白おかしく紹介している。
WSJは「規制を緩和して、民間企業に輸入させること」が真の解決になると主張している様に読める。何故、この記事をこのタイミングで掲載したのか?この日からTPPに関する日米実務者会議が開始されているので、それに合わせたのだろう。


***** (以下本文) *****

この記事は次の様な書き出しで始まる。
「マツイナリカズさんの塩バターロールは。最近テレビで取り上げられて認知度があがり、彼の店の前には長い行列が出来る様になった。しかし、彼のファンの求めに応じるに十分なバターの供給を受けることが出来ない。」
「『1人、5ロールに制限しないといけません。』と彼は言う。」

長い記事なので暫く要約する。

東京では殆どの食品が揃うが、バターは過去2年間不足気味で、多くのパン屋がマーガリンに頼らざるを得ない状態だ。輸出規制と酪農家の高齢化により十分な供給が出来ない。これは、日本の経済と軍事力を強化しようとする安倍首相にとっても打撃だ。日本の貿易相手国にとっても、日本がもっと市場を開放しなければならないことを示す象徴的な出来事だ。
規制緩和やTPPを強力に推進する安倍首相にとっても、バターの状況を改善するのは容易ではない。農協や農業水産相の役人達は、輸入解放は国内酪農業者の生活を脅かすことになると主張する。安倍首相は、牛肉、豚肉と共に、酪農製品を聖域として保護することを誓っている。日米のTPP交渉は木曜日に再開され、今月後半には12ヶ国による会議も予定されている。この交渉でバターも取り上げられるが、交渉国がこの問題についてどの程度の譲歩を求めてくるかは不透明だ。
日本の酪農会社は、ミルクや生クリームを優先して生産し、バターの優先順位は高くない。この結果、バターの価格は過去1年で12%近く値上がりし、1人1個しか買えない店も多い。高関税のため、個人業者がニュージーランドやアメリカからバターを輸入するのは実質的に不可能だ。その代わりに、国が安定供給を目的に毎年一定量を買い上げている。今年もバターの供給が不足するとの予測に基づき、政府は過去最高となる10,000トンを緊急輸入する。こうした措置は、過去8年の間に、5回も行われた。
酪農業界は、高齢化の影響を最も受けた産業だ。後継者不足で、10年前に27,700人いた酪農家が、17,700人にまで減少している。

この記事は次の様なコメントで締めくくられている。
「農業水産相の役人は、この問題への答は、酪農家がもっと利益を得られる様にし、酪農家の仕事をもっと楽にすることだという。今年発表予定の対策で、政府は酪農家がロボットなどの生産性を向上させる機器を購入することを助ける。しかし、こうした取組みは結果が出るまでに時間がかかる。」
「農協の役人やシェフは、国内メディアのバター供給不足の報道により、消費者がバターを貯蔵していると言う。しかし、供給不足の影響は限定的だろう。なぜなら、日本におけるバターの消費はそれ程多くないから。農業水産相によれば、日本人一人当たりのバターの年間消費量は584グラムだ。アメリカバター協会によれば、アメリカ人一人当たりのバター消費量は、その4倍だ。」