多くの日本メーカーが、品質データを改ざんしていたことが次々と判明し、「品質の日本」は危機に瀕しているという記事が1面に掲載された。
品質データ改ざんが明らかになった企業の幹部は、記者会見で「現場でそんなことが起きていたことは知らなかった。」と発言している。しかし、そうした発言は、日本の製造業では、現場の力に頼りすぎで、幹部が現場のことに関与していないことを示している。そして、そのことこそが日本の製造業の問題だとしている。特に、最近の日本製品は、高度なテクノロジーを使った製品になっており、現場の従業員にその品質保証を求めるのは不可能だとし、現場に任せきりの日本の品質保証体制に警鐘を鳴らしている様に読めるがどうだろうか。
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日本の全く欠点のない製造品質と生産効率は、日本の戦後の経済を変革し、世界のビジネス慣習を変化させ、1つの図書館が出来てしまうほど多くの経営本やビジネス指南本を生み出してきた。しかし、今、このモデルに亀裂が入ろうとしている。
ここ数ヶ月の間に、神戸製鋼、三菱マテリアル、スバルの3社が、品質検査を改ざんしていたことを認めた。3社とも安全上の問題は発生していないとしているが。タカタは、米国で50,000万以上の欠陥エアバッグを供給していたことを認めて、昨年破産を宣告した。三菱自動車は、車の欠陥を隠蔽し、燃費効率のデータを改ざんしていたことを認めた。世界第5位の自動車メーカーである日産自動車は、9月に、同社の日本の工場で生産されている幾つかの車種について、資格持っていない従業員に最終品質検査にを行わせていたことを認めた。同社によれば、この慣行は1990年にから行われていたという。監査の際には、上司が見習い工に有資格審査員のバッジを与えることが慣行になっていた。
工場のプロセスに詳しい従業員によれば、新車の検査結果は紙に記録され、バインダーに保管されるので、どれ位の数の車が影響を受けたかを調べるのは殆ど不可能だ。日産は日本で120万台の車にリコールをかけた。この台数は、9月までの3年間生産されたほぼ全ての車の台数に匹敵する。同社は、安全性については妥協したことがないとしているが。
企業の悪行は世界中で起きているが、今回の日本企業のスキャンダルは、日本のブランドを人気ブランドに押し上げ、日本という国のイメージそのものを形作ってきたコアとなる部分を切り刻むものだ。日本ブランドは、かつては品質と同義語だった。しかし、J.D.Powerの品質調査では過去2年間、米国の自動車メーカーが彼らを上回っている。そして、自動車以外の製品のメーカーも追いついてきている。
こうしたスキャンダルは日本の製造製品の世界市場でのシェアの落込みを加速させる可能性がある。主要なライバルである中国は世界最大の経済大国になるために前進を続けているが、その中国に勢いを与えてしまう。
賞賛されたモデル
日本のモデルはハーバードビジネスレビューなどの出版物で賞賛されてきた。賞賛の中心には、改善のコンセプトがある。改善の意味するところは、無駄な行為を取り除き、過剰な在庫を減らし、問題が起きた際にはチームワークでそれを解決することだ。現場の工場労働者に大きな権限を与え、日常のオペレーションを管理させ、イノベーションを生み出させている。こうした労働者は、日本では職人と見られており、会社の目標への貢献と引き換えに、終身雇用が約束されていた。
今日の問題は、多くの日本企業が、もはや工場の現場従業員に終身雇用を保証し続ける余裕がないことだ。この問題に詳しい経営コンサルタントや企業弁護士によれば、あまりの多くの権限を現場従業員に与えてしまったために、現場には不正や手抜きが蔓延し、一方でエグゼクティブルームの責任は縮小した。
東京の弁護士で、企業スキャンダル処理の経験のあるクボリヒデアキ氏は「現場は崩壊している。」と言う。彼によれば、企業が現場を完全にコントロール出来ないことが、日本の産業に「ある種の危機」をもたらしている。
大阪の近くに本社を置く神戸製鋼は、電車、車、ロケット用にハイエンドの鉄鋼製品を作ってきた。同社は、最近、数十万の製品、500社以上の顧客に関連する品質保証データを改ざんしていたことを認めた。
10月にまとめられた内部レポートによれば、企業が利益を確保するために、現場の労働者たちは働きすぎている一方で、幹部たちは現場に関与していなかった。
神戸製鋼の下請けに働く24才のウエダタカシ氏は、エンジン羽根に使われるワイヤーの最終品質検査を担当している。彼によれば、多忙な時期には問題が深刻化していた。出荷の要求がきつい時には、神戸製鋼の従業員は、ウエダ氏が要求される基準を満たしていない可能性があると主張する製品でも出荷してしまった。「品質よりも、早く出荷することに優先順位がおかれることがあった。」と彼は言う。
30年にわたって神戸製鋼で工場長や本社サイドで働いてきた従業員は、現場へのプレッシャーが90年代初頭にバブルがはじけて以降高まっていったと指摘する。
彼によれば、品質チェックのスタッフは、解雇の最初のターゲットになった。彼らは生産ラインの労働者ほど忙しくみえなかったからだ。現場の労働者たちは、品質チェックを自分たちでやる様に言われ、企業が採用を見合わせるようになると、一部の検査は外注化された。
データ改ざんに関与した従業員たちは、製造ラインを動かし続けるためには仕方がないと感じていた。緊急な注文をしてきた顧客は、時には、基準を満たしていない製品を受け入れた。
神戸製鋼は、文章で、利益を達成し、製造納期を順守せよという、幹部からの圧力が、こうした悪行の根本的な原因だとしている。同社は、改革案の提示を、第3者による調査に委ねた。
神戸製鋼は、11月のレポートで、上層部の関与なしに工場労働者が自ら問題に対処するという、閉鎖的な文化が、この問題を引き起こしたとしている。同社のリーダーたちは、この問題が公になるまで、それらについて知ろうともしなかった。
CEOのカワサキヒロヤ氏は、10月の記者会見で「この問題がこんなに広範囲に及ぶとは、まったく想像できませんでした。」と述べた。
同社は12月21日に3つのビジネスセグメントのトップを降格とした。彼らは、2009年にはデータ改ざんが行われていたことを知っていた。同社によれば、出荷したほとんどの製品に安全上の問題は見つかっていないが、未だに調査中だ。
日本は、未だに製造業大国だ。国連のデータによれば、その生産量は、中国、米国に次いで第3位。ドイツを僅かながら上回っている。
年間約7,000億ドルの日本製品が輸出されている。その多くが、機械、車、部品だ。例えば、iPhone用のスクリーンやメモリーチップ、ボーイング向けの航空機胴体部分などだ。日本が米国に保有する工場も1大勢力だ。日産やトヨタが、ケンタッキー、テキサスなどで製品を作っている。
日本の産業を強くしてきたのは、第二次世界大戦後に作られた製造モデルだ。日本の企業は、世界の顧客のために製品を改善することによって復活を図ろうとした。経営者たちは、米国の経営コンサルタントであるエドワードデミングに解決策を求めた。彼は、工場労働者に権限を与えて、常に問題解決に集中させることにより、品質を向上させることを各企業に薦めた。
このアプローチは、日本の労働倫理と細部へのこだわりにうまくマッチし、広く受け入れられた。1950年から1990年の間に輸出量は130倍に増加した。米国の企業は日本の成功に取りつかれた。
日本が米国の競争相手をどの様に出し抜いたのかという研究では、禅や武道の影響、そしてコンセンサス形成を図る日本の文化が考慮に入れられた。フォードなどの企業は、日本モデルを部分的に真似しようとした。
日本のモデルに欠陥があることも指摘されていた。1981年のハーバードビジネスレビューのコラムで、経営コンサルタントのピータードラッカーは日本の経営者たちはオペレーションの課題に殆ど時間を割いておらず、その代わりに、顧客、銀行、役人との関係維持にフォーカスしていると述べた。東京の早稲田大学の経営学教授であるオサナイアツシによれば、今日でも製造に関する問題が幹部レベルまでエスカレーションされるのは稀だという。
海外との競争
韓国、中国などの国々は、造船や電気製品などの分野で、輸出市場における日本のシェアを奪い取ってきた。日本のバブルが弾けた後の円高によって、製品を海外で販売することによる売上は減少した。
日本の製造業は、有給休暇や退職金などのベネフィットをもつ現場の正規従業員を、非正規従業員に置き換え始めた。パナソニックによれば、家電製品の部門では、現場の正規従業員は、全体の1/3以下だ。こうした傾向は、長期にわたるビジネスの維持を阻むものなので、パナソニックとしてはこうした傾向に歯止めをかけたいとしている。
旭硝子のシマムラタクヤCEOによれば、同社は過去10年間にわたって、「製品の欠陥を隠蔽せよという上司の命令に従うか?」という調査を毎年やってきた。驚くほど多くの従業員が「はい。」と答えたと彼は述べた。
「我々は今、新卒採用を絞ったことに対する代償を支払っている。」と彼は言う。彼のコメントから数週間たって、旭硝子は、その子会社が、適切な試験をしないまま、試験管の品質保証書を発行していたと発表した。同社は謝罪し、この問題を解決すると述べた。
日本企業は、海外のライバルにビジネスを奪われたことに対抗するため、より技術的に進んだ分野へと進出している。プラスチックなどの工業製品のメーカーである東レは、自動車タイヤに使われるファイバーなどにより、過去最高の利益を計上した。
東京近郊の文教大学の製造専門家であるオサダヒロシ氏は、そうした特殊な製品が、現場にイノベーションを加速させ、品質管理を向上させることを迫っており、現場を疲弊させていると指摘する。
11月下旬に東レは、その子会社が、自動車タイヤやその他の製品の品質データを改ざんしていたと述べた。データ改ざんは2008年に遡る。同社は、そうした行為はいかなる法律も侵していないし、安全上の問題を起こしていないと言う。同社は、この問題についてのそれ以上のコメントを拒否した。
書き換えられたデータ
三菱マテリアルは、1部の製品のテストデータを15年以上にわたって改ざんしてきた。同社はレポートの中で、従業員は、自動車の電子システム向け新製品の正式品質目標が満たせずに苦労してきたと表明している。レポートによれば、「不可能なことに取り組んだ結果、多くの製品が基準を満たすことが出来なくなっていった。その結果、今回の様な、不適切な行為が行われる様になった。」同社は本件についてそれ以上のコメントを拒否した。
日本の取締役トレーニングインスティテュートの共同代表で、日本のコーポレートガバナンスコードの執筆をサポートしたニコラス・ベネス氏は、解決策は日本の製造業モデルを投げ出してしまうことではないとする。彼によれば、回答は、コーポレートガバナンスの強化にある。
品質検査の改ざんを認めた中で、日本の幹部たちは問題を全く認識していなかったと繰り返し主張した。スバルの幹部と工場長たちは、品質検査員のために非正規のトレーニング組織がつくられていたことを全く知らなかったと述べた。こうしたトレーニングでは、欠陥がある車をわざとラインに流し、新参者が欠陥を見つけられるかどうかを調べていた。
企業弁護士によれば、2004年の内部告発者に関する法律は、不適切な労働慣行をレポートした人に対する保護を保証したが、この法律はあまりうまく機能しなかった。日本の現場主義は、問題が起きても、それらを上層部へエスカレーションするのではなく、現場のチームで解決することの重点を置いてきたのだ。
2015年に日本で初めて導入されたコーポレートガバナンスコードは、日本の上場企業に、少なくとも2名の外部取締役を置くことを義務付けた。このコードは、外部取締役が東京証券取引所の独立性に関する規則を満たさなばならないとしたが、新しく選ばれた取締役は、しばしば、会社との関係があった。
日本の産業に詳しい何人かの専門家によれば、最近の一連のスキャンダルは、問題が表面化し、対応が取られているという点で、ポジティブなサインだと見ている。日本の品質基準はあまりにも高く現実的ではないと指摘する専門家もいる。早稲田大学のオサナイ教授によれば、彼らの製品が十分に高品質を保っていることに自信を持っている製造業の従業員は、全ての品質基準を満たしていなくても、一部の製品は出荷しても良いと考えている。